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キャルの独断と偏見の音楽専科&ホラー映画の考察(レビュー)。

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キャル
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マリオ・バーヴァ監督作「ブラック・サバス 恐怖!三つの顔」(伊・1963年製作)。

バーヴァの単独監督作で、「ヘラクレス 魔界の死闘 」(1961)に続く二本目のカラー映画である。ハマー・フィルムを凌駕するカラー配色の優れた作家バーヴァによる独創的な三話入りの怪奇オムニバス・ホラー映画、超・傑作。


第一話:「電話」
一人暮らしの女性(娼婦)ロージーの部屋に殺人予告の電話が入る冒頭シーンから緊迫した展開が続く密室スリラー。何度も何度も掛けられてくるストーカーのような電話は、彼女の行動を見透かしており、不安と恐怖が高まっていく状況の中で、物語が一転し、さらに二転三転していく・・・。覗き、盗聴、策略、同性愛的要素あり、どんでん返しの結末で締め括る。

姿の見えない犯人の影に怯える美貌のヒロインをミシェル・メルシエが熱演。ジャズ風味を匂わせた音楽。赤色と青色の映像を効果的に使い、登場人物の精神状態を表現する本格ミステリー・スリラー、ジャーロ風味の傑作エピソード。

第二話:「吸血鬼ウルダラク」
ボリス・カーロフを主役に据え、吸血鬼感染の恐怖を描いた怪異譚。家族を残し、単身で吸血鬼退治に行った父親が、数日後退治した吸血鬼の生首を持って生還する。だが、どこか様子がおかしい・・・。一人で恐怖をまき散らすカーロフの鬼気迫る怪演、独壇場ともいえる存在感を発揮。次々と感染者が広まる中で誰が生き残るか、緊迫した展開が続く。

身内で殺し合う哀しみ、眼力の大写しが怖い。光と闇のコントラストの強さを生かし、青色と紫色を基調として描き上げ、疑心暗鬼の空間で繰り広げられる怪奇ムード満点のミイラ取りがミイラになる感染スリラー物でもある傑作エピソード。

第三話:「一滴の水」
急死した老婆(霊媒師)の死体から指輪を盗んだ看護師ヘレン(ジャクリーヌ・ピエルー)が、亡霊に取り憑かれる怨霊復讐譚。仕事から帰宅したヘレンの家中で、次々と起こる怪奇現象(心霊現象)の数々。水の滴る音が響き渡り、扉が開く異音。更に老婆の亡骸が、神出鬼没に現れる・・・。妖気漂う怪談風味。人から人への呪いの連鎖。奇怪な笑みを浮かべた老婆の死顔の表情が心底薄気味悪い。

緑色の蛍光の強弱を生かした毒々しい映像が効果的面。「触らぬ神に祟りなし」「自業自得」「因果応報」という格言が説得力を持つ、絶望的な末路が待ち受ける戦慄の寓話である。新たな惨劇を呼ぶ結末のオチが、終わりの無い恐怖と無限ループを匂わせる。

<筆者の所見。>

ユニバーサル映画の怪奇モンスター物に新解釈を加え、カラー映像で華々しく復活させた名匠と言えば、英国の職人監督テレンス・フィッシャーである。フィッシャーは、「フランケンシュタインの逆襲」(1957)、「吸血鬼ドラキュラ」(1958)で、テクニカラーの特性(華やかさと毒々しさ)を存分に生かし、衣装の色合いにも凝り、キレの良さを重視したアクション演出を実現し、カメラワークは細かく計算され、無駄のない美しい映像を生み出した。つまり、フィッシャーの作品によって、ハマー・プロは怪奇映画の名門となり、一時隆盛を極めたことは揺るがぬ事実であり、彼は世界中の怪奇(ホラー)映画作家に多大な影響を与えたことは言うまでもない。<前置きは終わり。>

フィッシャーに影響を受け、その手法・技法をさらに進化・飛躍させた怪奇映画の立役者が伊国のバーヴァである。猟奇的な要素と残虐性、様式美と幻想耽美、恐怖と官能が渦巻く独特の世界観を創りあげる。彼は初期の単独監督作でも、吸血鬼映画を二本撮り(「血ぬられた墓標」と本作の二話目:演じるはユニバーサル製作「フランケンシュタイン」のボリス・カーロフ)、さらに英国からクリストファー・リーを二度召喚することにも成功している。まさに確信犯的(笑)。

ここに絡んでくるのが、米国ロジヤー・コーマン監督による一連のポー原作怪奇映画シリーズで、「アッシャー家の惨劇」(1960)、「恐怖の振り子」(1961)、本作の1年前に製作したオムニバス傑作「黒猫の怨霊」(1962)と立て続けに登場する。バーヴァの「血ぬられた墓標」で知名度高いバーバラ・スティールを召喚した「恐怖の振り子」は怪奇映画史上に残る傑作だし、怪奇名優ヴィンセント・プライスとボリス・カーロフはポーシリーズの常連俳優だし、互いに影響与え合う関係が見受けられる。・・・話せば長くなるので割愛。

豪華キャスト、照明技術、色彩設計、カメラワーク、幻想的な描写、極めて効果的な恐怖演出など、バーヴァの怪奇・幻想の世界と恐怖の美学を追求した独自の手法(特に照明デザインに基づく空間と雰囲気作りの天才だった!)が、冴えに冴え渡る三つのエピソード。ボリス・カーロフが、案内役と二話目の主役で出演し、更にユーモアに溢れる痛快なエピローグ(解説)が待っている。耽美な映像を駆使して作り上げた‘60年代最高のオムニバス・ホラー映画の1本である。

<予告編>⇒ https://youtu.be/LvqT1D7qvrc