ファン・ピケール・シモン監督作「ブラッド・ピーセス/悪魔のチェーンソー」(米・西牙・波多黎各合作、1981年製作)。
エロ・グロ・スプラッター描写が炸裂するグラインドハウス系ホラーの王道を走る猟奇連続殺人鬼映画の超・怪作。
学園を舞台に若者たちが謎の殺人鬼によって次々に惨殺されていくスラッシャー系のホラーだが、生き残った純真なヒロインが犯人と対決するというアメリカン・スラッシャー映画とは対照的な作品。犯人像の設定やストーリー展開などは、陰惨かつ異様な欧州の闇を感じさせる作風であり、ジャーロ映画に近い。つまり、ユーロ・エロスと露骨な暴力描写(及びスプラッター映像)の組み合わせである。
少年時代、ヌードジグソーパズルを取り上げられた腹いせによって、母親を斧で叩き殺した男が、40年後にボストンの大学キャンパスで、次々と女子大生たちをチェーンソーで虐殺して回る。殺害後バラバラに切断した遺体の一部を持ち帰り、その肉片をつなぎ合わせて人体パズルを完成させようと暗躍する異常人格者(サイコパス)が描かれている。
逆ギレ少年と母親殺し、手動鋸と死体解体、チェーンソーとバイクの轟音、ヌード写真と等身大のジグソーパズル、潜入捜査と助こまし、美少女いじめとバラバラ死体、足首フェチと赤い靴、恐怖失禁と断末魔の絶叫など、整合性の破綻とやや間延びしたストーリー展開を物ともしない猟奇的、変態的、倒錯的な表現の数々、及び非人道的な残酷描写とショックシーンの連続である。<血みどろ惨殺死体が山と成す切株シーンの目白押し。>
低予算の為、本物のチェーンソーを使用して、豚の死体を切り裂き、動物の内臓をばら撒くなど、原始的な演出手法(及び手造り特殊メイク&特殊効果)による無慈悲で残酷な殺人シーンを随所にこれでもかと見せつけていく。映画の尺を長くする為、カンフー先生 (飛び入り出演者)が唐突に出現し、暴れ回る(追加撮影)シーンはご愛敬ということで(笑)。
出演者の顔ぶれは、ブラッケン警部役にクリストファー・ジョージ、女性囮捜査官メアリー役として、リンダ・デイ・ジョージ(おしどり夫婦の共演)、学長役にエドマンド・パードム、ブラウン教授役にジャック・テイラー(ジェス・フランコ作の常連)、不気味な庭師役に怪優ポール・スミス、ホールデン巡査部長役にフランク・ブラナ(マカロニウェスタンの悪役でも知られる俳優)、そして主人公ケンドールを演じたシモン監督作常連のイアン・セラ、他。
シモン監督自身も殺害現場を撮影するカメラマン役(及び黒手袋を嵌めた殺人鬼の手)を演じている。
<以下、ネタバレ含む。>
テニス部の女子大生が犠牲となるシーンは特筆もので、シャワーを浴びた後、着替え中の彼女の眼前に突然チェーンソーを持った殺人鬼が現れる。上半身裸のまま必死で逃げ惑う彼女はトイレに逃げ込む。その扉をチェーンソーが突き破ってくる。追い詰められた彼女は恐怖に慄き、震え上がった挙句、足をガクガクさせながら失禁してしまう。直後、生きながら胴体を真っ二つに切断され、血の海に沈む彼女の断末魔の悲鳴が凄まじい。
このシーンは危険な撮影だった為、犠牲者役の女性が唸るチェーンソーを眼前にした現場で恐怖のあまり、本当に失禁してしまった。それを見た監督が大層気に入り、もう一回漏らしてくれと懇願したらしい。変態か?流石にそれは無理だろう(笑)。後にズボンを濡らすところは撮り直したものだが、チェーンソーで襲撃されたシーンは、実際に漏らした時の映像を使用しているので、役者の恐怖に怯える表情は演技ではない。
※そしてもう一つ、ウォーターベッドで血祭りになる女性記者を描いたシークエンスで、黒尽くめの殺人鬼による執拗な暴行と卑劣な犯行手口など、陰惨さが猛烈に際立つ光景である。必死に抵抗する被害者を力ずくで押さえつけ、包丁でメッタ刺しに虐殺する訳だが、止めの一撃は、包丁の刃先が後頭部から口に突き抜ける。ルチオ・フルチ監督作「墓地裏の家」(1981)の冒頭シーンと同様な過激な演出効果で、本作の方が衝撃度も高い。
全般的なゴアシーンの流血量、残酷描写、特殊効果については、(同時期に製作された)他のこの手のものと比較して飛び抜けているわけではない。しかし、チェーンソーを使った独創的な演出による直截的なスプラッターシーン、女性を標的にした連続バラバラ殺人事件、生々しい惨殺死体の映像など、底知れぬ残虐性と狂人的な鬼畜の所業を併せ持つ作風ではある。しかも終盤回転式本棚が作動し、壁の裏側から完成間近の人間ジグソーパズルが飛び出してくる、という唐突な演出で吃驚仰天させられる。観る者の虚を衝くシークエンスはさらに続き、継ぎ接ぎ死体の手が助こましの股間を掴み、急所を握り潰す(怨霊の所業?)、という皮肉が効いた痛快なラストシーンが披露されるのだ(笑)。
国内盤Blu-Ray(現在価格高騰)は、米国劇場公開版とオリジナル版を比較しながら観る楽しみがある。尼で購入した筆者の高評価レビューはなぜか削除されているが・・・(苦笑)。
洋泉社のMOOK本「ショック!残酷!切株映画の世界」(別冊映画秘宝)で、表紙デザインの真中にあしらわれている女性が、本作を象徴している。スパニッシュ・ビザール映画のゴア表現が満喫できる切株マニア必見の超お勧め作品。
<予告編>https://youtu.be/nJbff6-tdIM
<※ウォーターベッド虐殺>https://youtu.be/0RRnlYGxMrk
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