トム・デ・シモーネ監督作「ヘルナイト」(米・1981年製作)。
「ハロウィン」(1978)や「13日の金曜日」(1980)の影響下で制作され、シッチェス恐怖映画祭で特別賞を受賞した作品。怪奇モンスター色と学園スラッシャー要素を絡ませ、都市伝説のお化け屋敷を舞台に展開する異色スラッシャー映画の名作。
主演は、「エクソシスト」(1973)「エクソシスト2」(1977)のリンダ・ブレア(マーティ役)。他の出演者は、ピーター・バートン(ジェフ役)、ヴィンセント・ヴァン・パタン(セス役)、スーキー・グッドウィン(デニーズ役)、ケヴィン・ブロフィ(ピーター役)、ジェニー・ニューマン(メイ役)、ハル・ラルストン、キャリー・フォックスなど。
毎年恒例の学生クラブの新入生歓迎肝試しが行われるガース館(廃墟の邸宅)を背景に、神出鬼没で得体の知れない殺戮魔(殺戮怪人)によって、クラブの大学生たちが次々と血祭りにあげられていく。
ガース館とは過去に呪われた家族による血生臭い惨劇(一家心中)が起こった屋敷で、不気味な噂に尽きない、という前振り(伝説)を効果的に活かしたプロットが巧妙かつ秀逸。上級生たちのドッキリ仕掛けや夜闇に紛れるように出没し、若者たちを惨たらしく殺して回る、という正体不明の殺戮魔の暗躍と凶行、そして鬼気迫る・緊迫感あふれる演出が功を奏した作品。
大鉈による生首切断、大鎌の胴体突刺し、※怪力による頭首回転ねじ切り光景など、凝ったカメラワークや斬新かつ豪快な殺人シーンが続々登場。しかもスプラッター描写に頼らず、ショッキングな特殊効果を駆使している。軈て姿を現した醜悪な殺戮魔と生き残った若者たちとの間で、繰り広げられる熾烈な攻防戦や駆け引き、地下迷路での追跡劇など、随所に見せ場・見どころ満載。また残虐な殺人シーンだけでなく、殺戮魔との静かなる戦いにおいて、絶妙の間が怖い。
薄気味悪い屋敷、不気味な地下通路、複雑怪奇な生垣迷路、邪悪で超自然的な雰囲気、得体の知れない殺戮魔、残虐で狡猾な手口など、ホラー映画の王道的な要素をプロットに盛り込みながら、変幻自在で不気味な存在に付け狙われる若者たちの逃げ切れない「恐怖の一夜」を見事に描き切った良質の怪奇スラッシャー・ホラーに仕上がっている。
<以下、ネタバレ含む。>
本作に登場する殺戮魔は、元々単独の狂人殺人鬼が暴れ回る設定だったのだが、プロデューサーの意向により、二人目の殺人鬼が追加された。二人共無名のドイツ人(スタントマン・役者)だったらしく、終盤に一波乱・二波乱を起こすために意図された。たしかに中盤から終盤にかけての展開は非常にスリリングで、電撃的なまでの緊張感に満ちあふれている。
また(過小評価の原因として)スラッシャー映画黄金時代に登場した本作には、当時この手のものには珍しくヌード表現はない。シモーネ監督はポルノ映画出身でありながら、主要登場人物(女優)のヌード拒否のため、やむを得ず貞淑系ホラー映画路線で果敢に挑戦、お化け屋敷体験型で、かつ正統派恐怖演出による作品だった。
<デニース役グッドウィンは、監督にヌードシーンを熱烈に求められたが、完全拒否。その代わりにほぼ下着姿で能天気キャラを演じている。ちなみにリンダ・ブレアは体型が太ったせい(過小評価原因の二つ目)か、本作でラジー賞(最低女優賞)を受賞し、本作出演の1年後、なぜかヌード写真を撮っている・・・(笑)。>
シモーネは、この手のジャンルを踏襲しつつ、物事や事象を盛り上げるため、蝋燭の光を生かした照明や視覚的な表象、ゴシック美術にこだわり、彼方此方にサプライズを投入し、緊張感を途切れさせないように演出した。
序盤では、普段は冷静沈着なマーティが大きな蝋燭に照らされた部屋に閉じ込められたとき、クラブの幹部学生たちが設定した仕掛け(彼女に向かって威嚇するように向かってくる腐敗したゾンビのような死体のホログラフィック投影)に狼狽し、自分自身を見失うというシーンで、不気味な瞬間を捉えた映像が巧妙な印象操作で恐怖を煽っていた。
中盤では、マーティとジェフが部屋にバリケードを作り、一時的にリラックス状態のとき、ショットの手前にいる彼らの視界から外れた背景で、床に敷かれた絨毯が浮き上がり始め、その下に隠された隠し扉から何者かが部屋に侵入する。まるで「殺しが静かにやって来る」ような忍び寄る恐怖と得体の知れない緊張感が漂うシーンである。
終盤では、不気味な屋敷の敷地から脱出に成功したセスが町の警察署に駆け込み、助けを求める訳だが、当然のことながら警察は彼が手の込んだ悪戯をしているだけだと思い、信じようとしない。彼は偶然室内で見かけた銃を盗んで屋敷に戻ってくるのだが、そこで殺戮魔と遭遇し、銃で撃ち殺す。喜び勇んで屋敷内に戻るセスだったが、マーティとジェフの目前で悲惨な末路が待ち受けていた、という波乱に満ちた驚くべきシークエンスの展開へ。
生き残った二人と殺戮魔の地下トンネルでの追いつ追われつの攻防劇も見応え充分。前後の視点の切り替えによるカメラワークの妙技は「シャイニング」(1980)を彷彿させる。
勿論クライマックスは、(お約束の)醜怪な殺戮魔(怪物)と純潔な女子による一騎打ちの対決が描かれる訳だが、序盤の伏線回収(マーティが自動車修理工の父を手伝う娘という当時異色のキャラ設定)に鳥肌が止まらない展開で、リンダ・ブレアが渾身の絶叫熱演を披露している。さらに精神状態が尋常でないまま、車を降りて歩き出す結末の光景は(マニアの視点だが)、ウィリアム・フリュエ監督作「ウィークエンド」(1976)を連想させるシーンであり、思わずニヤリとさせられる(笑)。
つまり、本作は単なる搾取目的で量産されたスラッシャー映画とは一線を画する作品で、終盤になるに連れ、古典的モンスター映画の魅力(衝撃的な串刺しシーンで止めを刺す!)を打ち出していく脚本の加筆や演出家の技量が冴え渡る怪奇ホラー映画であり、伝統的なホラー映画マニアの観点から見て、言わずもがなの傑作。
<予告編>https://youtu.be/jrzWXF5SUm8
<※頭首回転ねじ切り光景>https://youtu.be/iMk-x7UhEx8
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