このように、法制度の中には、財産権を保障することによって結果的に公衆衛生の改善に寄与するものもあるが、まさにその経済的自由を確立したことによって、改善が進まなかった例がある。その一つが天然痘である。他の先進国が19世紀中にはワクチンの予防接種により撲滅に成功する中、アメリカにおいては、撲滅に長期間を要した。その理由が、修正第14条や、連邦制(強い州政府、タウンシップ制)といった、まさに米国における自由を確立するためのシステムにより、義務的ワクチン接種を行えなかったことによる、というものである。
腸チフスのような公共インフラの改善によって撲滅できる貧困病の場合は、経済的自由を確立し、市場における信用を確保することで投資を呼び込むことによって公衆衛生が大幅に改善される。しかしながら、それらの自由を確保する諸制度によって、黄熱病や天然痘、そして新型コロナウイルスのような、人間社会における接触により流行する商業病を防ぐのが困難になる、という複雑なトレードオフが存在することを、アメリカの歴史が教えてくれるのである。このような議論は、他国における同様の制度にも射程を広げることが可能だと思う。
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このように、法制度の中には、財産権を保障することによって結果的に公衆衛生の改善に寄与するものもあるが、まさにその経済的自由を確立したことによって、改善が進まなかった例がある。その一つが天然痘である。他の先進国が19世紀中にはワクチンの予防接種により撲滅に成功する中、アメリカにおいては、撲滅に長期間を要した。その理由が、修正第14条や、連邦制(強い州政府、タウンシップ制)といった、まさに米国における自由を確立するためのシステムにより、義務的ワクチン接種を行えなかったことによる、というものである。
腸チフスのような公共インフラの改善によって撲滅できる貧困病の場合は、経済的自由を確立し、市場における信用を確保することで投資を呼び込むことによって公衆衛生が大幅に改善される。しかしながら、それらの自由を確保する諸制度によって、黄熱病や天然痘、そして新型コロナウイルスのような、人間社会における接触により流行する商業病を防ぐのが困難になる、という複雑なトレードオフが存在することを、アメリカの歴史が教えてくれるのである。このような議論は、他国における同様の制度にも射程を広げることが可能だと思う。