そこに付け込むのが「教養」を冠したアート、日本史、マンガ、ワインなど雑多な知識の押し売りだ。そうした啓発書が煽るのは、他人の知らない知識=教養を知ることにより仕事ができるようになるという安直な思想。アートやワインなどそれぞれの分野を愛し、自分の知にしようという目的ではなく、たんに表面的なことを知りたいならYouTubeで専門外の人間の解説を聞くだけで済む。稲田豊史の『映画を早送りで観る人たち』でも同様に、映画を楽しむのではなく、ブームとなっている映画の知識を得るために倍速で視聴する若者の姿が描かれていた。
他人に遅れを取りたくない、知らないと思われたくないという焦りは低い自己肯定感から生まれるのではないか。本書では若いビジネスパーソンを対象としたが、彼らは大学・高校、あるいは小学校の頃から他人と自分を比べて生きることを強いられていなかったか。経済的に右肩下がりという日本の閉塞的な社会環境が他者を競争相手とみなし、そこで勝ち残らなければならなければ生きていけないという不安の土壌となっている気がする。「ファスト教養」は鎮痛薬のようなものだ。心の不安を一時的に取り除いてくれるが、それは根本的な治療にはならない。
しかもそれが無自覚であったり、善意でなされたりすることもある。「多様性」という言葉一つとっても、自分が多数派に属しているという驕りはないだろうか。気が引き締まる一冊だった。
”高山 言葉じゃなくて「ことば」ですね。「ことば」だったら私はたくさん言いたいこと(言えること)があると気づいた。”言葉という理性的なものではなく、もっと根源的である意味幼児的な「ことば」の重要性。自分のうちから溢れそうになるもの、誰かに伝えたい思い、表現したくなる景色。それが「ことば」なのだろう。何度も頷きながら読み進めた。
そうして潰れてしまっては元も子もない。他の誰かと一緒に多少なりとも手助けができればいいはずだ。0か100ではないところで、大人が何をできるのか。それを社会がどのように支えるのか。臭いものに蓋をするように、見てみないふりをしてしまう自分がつくづく嫌になる。
昔から翻訳小説が好きで、いまだその深みにはまってます。
長編、劇作、詩、コミカルなものが好き。
短篇集、日本の小説、ミステリー、ファンタジーは苦手。
最近は、中央・東ヨーロッパの作家に焦点をあてて読んでます。
好きなシリーズ
文学の冒険(国書刊行会)
プラネタリー・クラシクス(工作舎)
東欧の想像力(松籟社)
大人の本棚(みすず書房)
好きな作家
高行健
グレアム・スウィフト
チェット・レイモ
ローレン・アイズリー
ライナー・マリア・リルケ
マルセル・プルースト
クラフト・エヴィング商會
フリードリヒ・デュレンマット
コニー・ウィリス
イタロ・カルヴィーノ
イスマイル・カダレ
ナイスについては、基本的に自分が読んだことのある本につけていますので、偏るかと思いますがご了承ください。
読みたい本リストはEvernoteで管理しているので、こちらでは登録していませんが、皆さまの読書記録を日々参考にさせてもらっています。
大学図書館で働いています。
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