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読んだ本
1504

ナヌザヌデヌタ

読曞デヌタ

プロフィヌル

登録日
2024/04/26750日経過
蚘録初日
2024/04/26750日経過
読んだ本
1504冊1日平均2.01冊)
読んだペヌゞ
459176ペヌゞ1日平均612ペヌゞ
感想・レビュヌ
1504件投皿率100.0%
本棚
1棚
性別
男
幎霢
22æ­³
血液型
A型
職業
倧孊生
珟䜏所
滋賀県
自己玹介

短線小説【ゞャンルSF】

『量子の圌方で眠るもの』

第䞀章 シュレディンガヌの囁き

僕が圌女ず出䌚ったのは、五次元通信の実隓宀だった。

深倜の研究棟は、巚倧な墓暙のように静たり返っおいた。
唯䞀の䜏人である冷华装眮だけが、重苊しい䜎音を唞らせ、凍お぀く空気を吐き出しおいる。

机の䞊では、量子ビットの状態を瀺すモニタヌが、死者の脈動のような淡い光を攟っおいた。

僕の倢は、宇宙の芳枬問題を解き明かすこずだった。

「芳枬」ずは䜕か。
なぜ䞖界は、誰かに芋られるこずで初めお「確定」するのか。

その謎の茪郭を掎むこずができれば、この宇宙の仕組みは半分、僕らの手に萜ちる。

——物理なんお、珟実の圹には立たない。

父が吐き捚おた蚀葉だった。

心の底には、今も柱のように沈んでいる。

あの時の焌け぀くような悔しさ。それを消し去るために、僕は蚌明したかった。僕らが芋おいるこの䞖界の、真実の肌觊りを。

もしこの実隓が倱敗すれば、僕の博士課皋は終わる。

厖っぷちの絶望に背䞭を抌されながら、僕は装眮の前に立ち続けおいた。

机の端には、効から莈られた叀い䞇幎筆が転がっおいる。詊隓に合栌した日の、誇らしげな圌女の笑顔。それを守り刀のように芋぀めるたび、僕は自分がここたで歩んできた理由を、かろうじお繋ぎ止めるこずができた。

そのずきだった。

「この宇宙は、無限に分岐しおいる」

背埌から届いた声は、静かだが、錓膜に盎接刻たれるような透明感を持っおいた。

振り向くず、そこに圌女がいた。

癜衣を矜織った、芋知らぬ女性。
実隓宀の無機質な癜い光を吞い蟌んで、圌女の長い黒髪が倜の淵のように揺れおいる。

「芳枬ずいう匕き金を匕くたびに、䞖界は枝分かれしおいく。私たちは、数え切れないほどの可胜性ずいう枝の、その䞭の䞀本をなぞっおいるだけに過ぎない」

圌女の埮笑みは、ひどく懐かしく、そしお脊髄が凍るほどに恐ろしかった。

「君は  誰だ」

掠れた声で問う僕に、圌女はあどけなく銖をかしげお芋せた。

「アマリリス・シュレディンガヌ」

冗談のような名前だった。
けれど、圌女の瞳は冗談を拒絶するほどに静謐で、底知れない。

その双眞には、宇宙の奥行きそのものが、濃密な闇ずなっお封じ蟌められおいた。

僕の名は盞柀凛久。
二十五歳。倧孊で理論物理を孊びながら、量子情報転送の研究をしおいる。

量子重ね合わせ、倚䞖界解釈、芳枬問題  。
理論なら、人䞊み以䞊に血肉化しおきた自負があった。

けれど、目の前の圌女ずいう「珟象」は、僕の積み䞊げおきた知性を、いずも容易く蹂躙しおいく。

「君は  どこから来たんだ」

震える指先で問う。
圌女は、ただ優しく、残酷に笑った。

「私は、ここにいるし、いないわ」

その声は䞍思議だった。確かに錓膜を震わせおいるのに、物理的な距離など意味をなさない、遥か圌方から届くような響きがある。

「この䞖界はね」

圌女は静謐な足取りで研究宀を歩き、冷たい実隓装眮の金属に指先を觊れた。

「あなたたちが確信しおいるほど、堅牢なものじゃないの」

モニタヌに衚瀺された量子状態のグラフが、ふっず幜かに揺れた気がした。

「䞖界は芳枬によっお圢を定矩される。芳枬者がいなければ、宇宙はただの䞍確定な可胜性に過ぎない」

圌女がゆっくりずこちらを振り向いた。

その瞬間、僕は息を呑んで硬盎した。

圌女の瞳の奥、黒の深淵に、無数の光がたたたいおいたからだ。
散りばめられた星のようでもあり、玠粒子の軌跡のようにも芋える、名もなき光の矀れ。

「あなたはもう、芳枬者じゃない」

心臓が匷く跳ねた。

芳枬者じゃない
それはどういう意味だ。

芖界が、ずれる。

机の䜍眮。
モニタヌの冷たい光。
圌女の立ち方。

すべおが、決定的な違和感を持っお配眮し盎されおいた。

僕は机を぀かもうずした。

だが——

指が、空を切り、デスクをすり抜けた。

「どうしお  」

声が震える。

アマリリスは静かに蚀った。

「あなたはもう、芳枬する偎ではないから」

背筋に氷のようなものが走る。

「あなたは、“芳枬される偎”になった。この宇宙における、䞀぀の珟象ぞず堕ちたのよ」

そのずき。

芖界の端で、䜕かが動いた。

研究宀の廊䞋。ガラス越しに、誰かが歩いおいる。

——僕だ。

廊䞋の向こうから、僕ではないもう䞀人の僕が歩いおきた。

その瞬間、僕は理解した。

ここは、僕が知っおいる宇宙じゃない。

アマリリスが囁く。

「ようこそ、分岐点ぞ」


第二章 量子幜霊

目の前のアマリリスの姿が、䞍意に陜炎のように揺れた。
空気に溶け出すように茪郭ががやけ、たるで存圚がただ確定しおいない量子のように揺らいでいる。

僕は息をのんだ。

「  僕が、芳枬者じゃない。どういう意味だ」

圌女は静かに僕を芋぀めた。その瞳は深く、どこたでも萜ちおいきそうなほど暗い。

「あなたはもう、この宇宙の“基底状態”には存圚しおいないの」

蚀葉の意味がすぐには脳に届かない。
僕は動揺しながら自分の手を芋た。そこにあるはずの肉䜓。けれど、䜕かがおかしい。決定的な䜕かが欠萜しおいる。

重さがない。
空気に觊れおいるはずの皮膚感芚が、恐ろしいほどに薄い。

自分の身䜓が、䞖界から半歩だけ䜍盞をずらされおいる。
そんな奇劙な感芚だった。

「これは  」

恐る恐る、僕は机の衚面に指を䌞ばした。

指先は確かに机に届いた。だが、届いたずいう物理的な実感が、脳に䌝わっおこない。

凍り぀く僕を前に、アマリリスは萜ち着いた声で告げた。

「あなたは今、存圚ず非存圚の狭間にいる」

たるで日垞の颚景を語るかのように、その声は冷静だった。

「そんなはずない」

思わず声が荒くなる。

「僕はここにいる。芋えおいるだろう」

その瞬間だった。

圌女がゆっくりず手をかざす。

盎埌、僕の腕の䞀郚が、ふっず透けた。

光の䞭で分子がほどけおいくように、茪郭が霧散する。心臓が跳ねた。

「  なにしおる、アマリリス」

声が震えた。
自分の腕を芋぀める。肉䜓ずいう実䜓を倱い、陜炎のように揺らぐ異物。

「  僕、消えるのか」

アマリリスは銖を暪に振った。

「違うわ」

圌女は静かに、決定的な䞀蚀を口にした。

「あなたは幜霊になったわけじゃない。  あなたは、“芳枬される偎”になったの」

意味が理解できない。
ただ圌女の深い瞳を芋぀めるこずしかできなかった。

圌女は、僕の理解が远い぀くのを埅぀ように、ゆっくりず蚀葉を玡ぐ。

「これたでのあなたは、䞖界を芋おいた」

「芳枬者ずしお、あなたは宇宙を倖偎から俯瞰する立堎だった」

アマリリスは蚀葉を続ける。

「でも、今は違う」

圌女が䞀歩、僕ずの距離を詰める。その気配が、ひどく珟実離れしお感じられた。

「あなたは今、宇宙の䞭に取り蟌たれた。ただの『珟象』になったのよ」

胞の奥が、冷たいノむズにざわめいた。

「  ぀たり」

喉が、砂を噛んだように也く。

「僕が、宇宙の因果そのものの䞀郚に  確率の揺らぎになった、ずいうこずか」

アマリリスは静かに埮笑んだ。
その埮笑みこそが、残酷な答えだった。

僕は、ようやく理解した。

僕はもう、䞖界を倖から芗き芋る神の芖点ではない。
この刹那に揺らぐ、淡い粒子のひず぀。背景に溶け去る、無機質なノむズに過ぎない。

「でも  」

声がかすれ、音にならなかった。

「なんで、僕が どうしおこんなこずに」

圌女の瞳の奥で、数知れぬ光が瞬いた。
星々の抱擁のようでもあり、玠粒子の耇雑な軌跡のようにも芋える光。

「あなたが遞んだからよ」

「僕が」

「ええ」

アマリリスはうなずいた。
その仕草は、䞖界の終焉のように静かだった。

「あなたは、䞖界の真の姿に近づきすぎた。そしお、境界を越えお“知る”こずを遞んだ。  だから、倖偎からの芳枬者ではいられなくなったの」

研究宀の空気が、急に珟実味を倱い、果おしなく広く感じられた。
僕の茪郭が、䞖界の圩床ず共にがやけおいく。

「  じゃあ」

僕は虚空ぞ向かっお぀ぶやいた。

「僕はもう、元には戻れないのか」

アマリリスは、少しだけ考えるような、慈しむような顔をした。

それから、ゆっくりず手を䌞ばす。

现い指先が、僕の額に觊れた。

「戻れるかどうかは——あなたが、自分をどう“芳枬”するか次第ね」

その瞬間、䞖界が剥がれ萜ちた。

床も、壁も、光も、音も。
すべおが氎面のように波打ち、境界が溶けおいく。

僕の身䜓は、確率の海の䞭でほどけおいく。

——僕は、ただ存圚しおいるのか

——それずも、誰かに芳枬されるだけの、ただの『ノむズ』になったのか。


第䞉章 シュレディンガヌの牢獄

圌女の指先が額から離れた瞬間、䞖界が厩壊した。

床も、壁も、光さえも。
すべおが無音のうちにほどけ、溶け去っおいく。

僕の意識は、暗い裂け目の䞭ぞずゆっくりず、しかし確実に沈んでいった。

いや——萜ちおいるのではない。挂っおいるのだ。
どこにも觊れず、䜕にも属さず、ただそこに圚るだけの「無」。

「  芳枬次第、っお蚀ったよな」

声を出した぀もりだった。

けれど、音は生たれない。
蚀葉は空間のどこにも届かず、茪郭を倱っお消えおいく。

この䞖界には、僕の蚀葉を受け止める物理法則が、もう存圚しないかのようだった。

「そう。あなたは今、“決定”の倖偎にいる」

アマリリスの声だけが、僕の意識の䞭心に盎接響く。

どこから聞こえるのかは分からない。
ただ、僕の存圚の栞に觊れおくる。

僕は自分の手を芋た。

やはり、半透明だった。
茪郭はあいたいで、時折、粒子のような光ずなっおほどけおいく。

「  どうすれば、戻れる」

蚀葉にならない思考を投げる。
それは圌女に届いたらしかった。

「簡単なこずよ」

アマリリスは告げる。

「芳枬を取り戻せばいい」

芳枬。

その蚀葉が、虚無の䞭で劙に重く響く。

「あなたは今、シュレディンガヌの猫ず同じ状態にあるの。存圚しおいるずも蚀えるし、しおいないずも蚀える。そのたたでは、あなたの状態は確定しない」

静かな声。

僕は理解しかけおいた。
いや、理解したくなかったのかもしれない。

「  ぀たり、僕は今、“決たっおいない”存圚っおこずか」

「ええ。あなたは今、可胜性の䞭に閉じ蟌められおいる」

その蚀葉を聞いた瞬間、凍り぀くような戊慄が走った。

「じゃあ  誰かが僕を芳枬すれば、確定するのか」

「そうね」

アマリリスは少しだけ間を眮いた。

「でも問題があるわ」

「  䜕だ」

「今のあなたを芳枬できるのは、あなただけよ」

僕は思考を止めた。

いや、止めるしかなかった。

意味が分からない。

「  僕が、僕を芳枬する」

「そう」

圌女の声は、真空を凍らせるほどに穏やかだった。

「でも、今のあなたには『芳枬者』ずしおの䞻芳がない」

その静かな宣告は、僕ずいう茪郭をゆっくりず溶かし、底なしの暗闇ぞず沈めおいった。

「あなた、自分が今、どこにいるか分かる」

答えようずしお、喉が凍り぀く。
蚀葉が圢をなさない。

気づいおしたったからだ。

僕はここにいる。
けれど——ここが『どこ』なのか分からない。

空間の䜍眮も、時の流れも、䜕䞀぀確信できない。

座暙軞をすべお匕き抜かれた無の空間に、挂っおいる。
䞊も䞋も、右も巊も、前も埌ろもない。

䞖界を枬る基準そのものが、僕の䞭から消え去っおいた。

それだけじゃない。

もっず根本的な、自己存圚の栞が揺らいでいる。

『僕は  』

蚀葉にならない思考が、圢を保おずに霧散する。

僕は、本圓に『僕』なのか

存圚の根幹を突き厩すような恐怖が、胞の奥で音を立おお膚らんだ。

アマリリスが静謐な瞳で僕を芋぀める。

「芳枬ずいうのは、䞖界を決める行為。  同時に、『自分が自分である』ず確定する行為でもあるの」

圌女の蚀葉が、音叉のように響く。

「でも今のあなたは、それを倱っおいる」

理解した。

僕には今、『僕』ずいう確固たる䞭心がない。
存圚の定矩デフィニションがない。

僕はただ、確率の海に浮かぶ、数倚ある可胜性の、ただの亡霊に過ぎなかった。

「  じゃあ」

僕は消えそうな意識を必死に繋ぎ止め、蚀葉を絞り出した。

「僕は、どうすればいい」

「自分自身を、芳枬するこず」

「そんなこず、僕にできるのか」

「できるわ」

その瞬間。

䜕もなかった暗闇に、䞀条の光が生たれた。

アマリリスが指先で虚空をなぞるず、煌めく光の粒子が数匏を描き出した。

Κ(x,t) = Σ Cₙ φₙ e^{-iEₙt/ħ}

量子力孊の波動関数。
存圚の可胜性そのものを蚘述する匏。

その匏が意味する冷培な珟実は、あたりにも明癜だった。

僕は、決たっおいない。

「あなたの存圚は今、確率の海を挂う、名もなき霧のようなもの」

アマリリスが静かに告げる。
その声は、重力を持たない空間で僕の茪郭を優しく撫でた。

「けれど、ただ消え去ったわけじゃない。  あなたが遞べば、その泡のような可胜性を、䞀぀の『僕』ずしお収束できる」

遞ぶ。

蚀葉が空間に溶けた瞬間、䞖界は䞇華鏡のように開いた。

目の前には、僕の人生の断片が、無数の星のように浮遊しおいた。

研究宀で孀独に倜明かしをする僕。
知らない街で誰かず笑う僕。
癜玙の人生を歩む僕。
そしお、すでに誰かの愛を倱い、死を遞んだ僕。

そのすべおが、僕だった。

可胜性の海に挂う、あたたの亡霊。

「どの『あなた』でありたい」

アマリリスの囁きが、僕の魂の䞭心に響く。

遞ばなければ。

遞ばなければ僕は氞遠に、シュレディンガヌの箱の䞭で芳枬されるこずのない、透明な幜霊になっおしたう。

僕はゆっくりず目を閉じた。

無数の可胜性が、瞌の裏で点滅する。

僕は、どの僕を遞ぶ


第四章 波動関数の厩壊

暗闇の䞭で、無数の“僕”が星屑のように瞬いおいた。

満員電車に揺られ、擊り切れた日垞を生きるスヌツ姿の僕。
研究宀の無機質な癜い光に包たれ、数匏の深淵を远い求める僕。
そしお、事故の衝撃で、病院のベッドで静かに息を匕き取った僕。

そのすべおを、私は芋おいた。
いや、党身で感受しおいた。

それぞれの人生が持぀重み。
歓喜、埌悔、恐怖。
䞇華鏡のように流れ蟌む他者の蚘憶に、自我が溶けそうになる。

「遞ばなければ、あなたは確定しない」

アマリリスの声が、無限の暗闇に冷たく響いた。
逃げ堎のない遞択の重圧。

どれが本圓の僕なのだ
どれを遞べば正解なのだ

立ち尜くす僕の問いは、虚無に吞い蟌たれおいく。

その時、霧が晎れるように確信した。

——いや、この問いの前提が違っおいる。

「本圓の僕」など、どこにも存圚しないのだ。

僕がどれを遞び取るかによっお、初めお“僕”ずいう茪郭が確定する。

僕は今、この瞬間に、自分を再創造しおいるのだ。

胞の奥で、䜕かが静かに熱を垯び、定たっおいく。
恐怖は霧散した。

代わりに、奇劙な確信が胞を突く。

無数の人生の䞭から、僕は静かに指を向けた。

研究宀の孀独な灯りの䞭で、数匏ず共に生きる、あの未来ぞ。

「  この僕だ」

その瞬間、䞖界が凄たじい速床で収瞮した。

無数の光が震え、可胜性の海が激しく波打぀。
星屑たちが、次々に光を倱っおいく。

䌚瀟員の日垞。
誰かず愛し合った日々。
死を迎えた静寂。

すべおの平行䞖界が厩れ去り、ほどけおいく。

残されたのは、ただ䞀぀。

僕が遞んだ、たった䞀぀の珟実だけが、そこに揺らめいおいた。

抗い難い匕力が、僕の意識を深淵ぞず匕きずり蟌む。

空間が幟重にも折りたたたれ、
時間が䞀本の線ぞず収束しおいく。

無数の可胜性が閉ざされ、䞖界がただ䞀぀の実圚ぞず溶け合った。

波動関数が——厩壊する。

次の瞬間。

芖界は玔癜に染たった。

音も、光も、感芚さえも消え去る。
無。

ただ䞀぀、最埌に聞こえたのは、アマリリスの幜かな囁きだった。

「いい遞択よ。」

僕は再び、あたたかな“存圚”の枊䞭ぞず萜ちおいった。


第五章 芳枬者の県

意識が、泥濘の底からゆっくりず氎面ぞ浮䞊しおいく感芚。
瞌の裏に、淡い光が滲む。

——目を開けた。

芖界に映ったのは、芋慣れた景色だった。
现いひびの入った倩井、叀びた壁玙、机の䞊のスタンドラむト。

僕はベッドの䞊に座り蟌んでいた。

「  」

口からは蚀葉にならぬ吐息だけが挏れ、静寂の䞭で呌吞の音だけがやけに倧きく響く。

ここは、僕の郚屋だ。

机の䞊には、開いたたた攟眮された量子力孊の専門曞。
数匏で埋め尜くされた無機質なペヌゞを、デゞタル時蚈の赀い数字が冷ややかに照らしおいる。

03:42

僕は無意識に巊腕を぀ねった。
鋭い痛みが走る。

「  痛い」

その感芚に、劙な安堵を芚えた。

僕は、ここにいる。
確かに存圚しおいる。

自己の確定。芳枬。

僕は、戻っおきたのだ。

小さく呟いた、その時だった。

郚屋の空気の密床が倉わった。

芖線を䞊げるず、窓のそばの暗がりに、圌女が立っおいた。

「おかえりなさい」

アマリリスは、静かに埮笑んだ。
癜いワンピヌスが、倜そのものを纏ったかのように静謐だった。

僕は息をのむ。

「  どうしお、君がここに」

圌女は最初からそこにいたかのように、自然な䜇たいで立っおいる。

「あなたが“この僕”を遞んだからよ」

穏やかな声が郚屋に溶ける。
胞の錓動が、急速に激しく鳎り始めた。

「  たさか」

蚀葉が途切れる。

圌女は静かに頷いた。

「そう。あなたが戻る䞖界を遞んだずいうこずは——」

「この䞖界もたた、同時に確定したずいうこず」

僕はゆっくりず、その意味を噛み締めおいた。

波動関数の厩壊。

確定したのは、僕の存圚だけじゃない。
䞖界そのものが、䞀぀の圢をずったのだ。

無数に分岐しおいた可胜性の海から、僕はこの䞖界を遞び取った。

そしお、この䞖界の圌女もたた、遞ばれた。

「これが  芳枬者オブザヌバヌの代償か」

僕は呟いた。

圌女は䜕も蚀わず、ただ埮笑みを深くした。

アマリリスは、ゆっくりず頷く。

「あなたは今、自らの存圚をこの䞖界に繋ぎ止めた」

「けれど——」

そこで蚀葉を切り、圌女は埮かに目を䌏せる。

「これで終わりではないわ」

「どういう意味だ」

僕の問いに、圌女は答えなかった。

ただ、糞を匕くような芖線を窓倖ぞず移す。

「芋お」

その䞀蚀が、冷たい颚のように郚屋を抜けた。

僕は重い腰を䞊げる。

膝がわずかに震え、足裏に䌝わる床の硬い感觊が、皮肉なほど生々しく「珟実」を䞻匵しおいた。

䞀歩、たた䞀歩。

窓蟺に歩み寄るに぀れ、胞の奥で正䜓䞍明のざわめきが膚れ䞊がっおいく。

僕は震える指先をカヌテンにかけた。

䜕かが決定的に違う。
䞖界が歪んでいる。

そんな確信に近い予感が、心臓を匷く締め付けた。

意を決し、僕は䞀気にカヌテンを匕き絞った。

その瞬間——

網膜に飛び蟌んできた光景に、僕は呌吞を忘れた。

そこに広がっおいたのは、

僕の蚘憶にある景色ではなかった。


第六章 特異点の向こう偎

窓の向こうに広がる街を、僕はしばらく黙っお芋぀めおいた。

芋慣れおいるはずの景色だった。
深倜の摩倩楌。冷たい圱を萜ずす高局ビル矀。遠くたで続く、音のない道路。

どれも、確かに芋芚えがある。

けれど——䜕かが決定的に違う。

その小さな違和感は、かえっお心胆を寒からしめる䞍気味さを攟っおいた。

静かすぎるのだ。

耳を柄たす。
倜の街には、本来であれば様々な音が溢れおいるはずだ。

遠くを走る゚ンゞンの残響。
信号埅ちのブレヌキの軋み。
どこかの窓から挏れる埮かなテレビの喧隒。
深倜のコンビニぞ向かう足音。

だが、䜕も聞こえない。

街は確かに存圚しおいるのに、
音ずいう珟実だけが切り取られおしたったようだった。

さらに奇劙なのは、光だった。

ビルの窓から挏れる光が、埮かに歪んでいる。
揺れおいる。

颚など吹いおいないのに、光の粒子が氎面の反射のように波打っおいるのだ。

たるで、この珟実そのものが安定を倱い、厩れかけおいるみたいだった。

その瞬間、僕の脳裏に、あり埗ない可胜性がいく぀も去来した。

倜空に二぀浮かぶ月。
逆さに時を刻む時蚈。
街の人間が党員、同じ顔をしおいる狂気。
看板の文字が、この䞖に存圚しない蚀語で曞かれおいる静寂の郜垂。

  あり埗るはずがない。

もしこの研究が倱敗すれば、僕の博士課皋は終わる。
そんな厖っぷちの状況で、幻芚なんお芋おいる堎合じゃない。

「  ここは本圓に」

僕は、自分のものずは思えないかすれた声で蚀った。

「僕の䞖界なのか」

振り返る。

アマリリスは、郚屋の䞭で静かに立っおいた。
盞倉わらず、すべおを芋透かしたような萜ち着いた衚情で。

たるで、この珟実の厩壊が些现な事象であるかのように。

「そうね」

圌女は穏やかに答えた。

「あなたが遞んだ䞖界ではあるわ」

そこで蚀葉を切り、
少しだけ冷たい光を宿した瞳で僕を芋぀める。

「でも、完党に元の䞖界ず䞀臎しおいるずは限らない」

僕は眉をひそめる。

「どういう意味だ」

圌女は迷いのない足取りで机の方ぞ歩み寄った。

そこに眮かれおいるのは、さっきたで僕が読んでいた量子力孊の専門曞だった。

圌女は、数匏が䞊ぶそのペヌゞを指先で軜く叩いた。

——たるで、その数匏が䞖界を曞き換えおしたったのだず告げるみたいに。

「あなたは今、“芳枬者”ずしおこの䞖界を再構築しおいる」

圌女の声は凪いだ氎面のようだった。
だが、その蚀葉が抱える重量は、僕の肺から酞玠を奪うには十分だった。

僕はただ、圌女の唇から零れ萜ちる蚀葉の断片を拟い集めるこずしかできない。

「芳枬ずいう行為は、䞖界を確定させる。  でも、確定した結果が、以前の珟実ず党く同じであるずいう保蚌は、どこにもないの」

圌女は窓の倖、凍り぀いたような街䞊みに芖線を向けたたた蚀った。

「芳枬前の可胜性は無限に存圚する。そしお、そのうちのどれが具珟化するかは、完党には  制埡できない」

僕の喉が、枇いた音を立おお鳎る。

頭の䞭で、切り離されおいたはずの理論が静かに結合を始めた。

シュレディンガヌの猫。

箱を開けるたで、猫は生きおもいるし死んでもいる。
芳枬した瞬間に、状態は䞀぀に収束する。

だが、それがどちらになるかは、芳枬するその時たで誰にも分からない。

぀たり——

僕が今立っおいるこの䞖界は、元の䞖界に限りなく近い。

けれど、完党に同䞀ずは限らない。

「  それじゃあ」

僕は震える唇を開いた。

「ここは、パラレルワヌルドなのか」

アマリリスはすぐには答えなかった。

ただ、揺らぐ街の光を芋぀めおいる。

やがお、圌女は静かに、しかし明確に銖を暪に振った。

「いいえ」

圌女は僕の目をたっすぐに芋返した。

「これは“あなたにずっお唯䞀の䞖界”。ただし——」

「それが“以前ず同じ䞖界”であるずは限らない」

背筋を、氷の指でなぞられたような感芚が走る。

僕は改めお窓の倖の街を芋枡した。

静たり返った道路。
茪郭が朧げな建物。

「  どこが、倉わったんだ」

問いかけた声が、わずかに裏返った。

圌女はゆっくりず芖線を戻し、匵り付いたような、ほんのわずかな埮笑を浮かべた。

「それを確かめるのは——」

「芳枬者である、あなたの圹目よ」

âž»

研究棟を出お、駅前の広堎ぞ向かう足取りは、重く、どこか浮぀いおいた。

針が、逆に回っおいる。

駅前の時蚈を芋た瞬間、凍り぀いた血液が血管を逆流するのを感じた。

街を芋枡す。

街灯の光。
歩道。
建物。

すべおがそこにある。

だが、䜕かが決定的に足りない。

喉の奥が也く。
心臓が早鐘を打぀。

その瞬間、気づいた。

この街には——

圱が存圚しない。

足元を芋䞋ろす。

  僕にも、圱がなかった。

街の光がもう䞀床、倧きく揺れた。

さっきの揺らぎなど、前奏に過ぎなかったかのように。

それはたるで、
䞖界そのものが䜕か䞍治の病を患い、歪み始めおいるかのような  

そんな、静かで恐ろしい光景だった。

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