久しぶりに読み返しました。中学生か高校生のころなんとなく手に取った「夜の光」に惹かれ、次に読んだのがこちらでした。主人公の女子大生の視点から描かれるキラキラとした歯医者さんの日常ミステリーは、学生時代のわたしに働くことに対する希望と憧れを齎してくれました。そんな社会人にはなれていないかもしれないけど、今日も頑張ろうと前を向いたときに背中を押してくれるような本です。坂木司さんの本はドラマ「アンナチュラル」「ブラッシュアップライフ」が好きな方に推したいです。

私に聖書に関する知識が無いから、作者さんが意図した主題を理解することができなかったのだと思う。ミステリアスな美形・ニコの魅力に浸れば良いのか、人が誰しも持っている「罪」に向き合えば良いのか、歪な形の家族に思いを馳せれば良いのか…エンターテイメントと割り切り雰囲気を楽しむべきか、お話を通じて自分と向き合うヒントを得られるように臨めばいいのか、掴みきれないまま読み終えた。そのあとに心に残った印象はあまり深くなかった。

自らの「老い」に積極的に目を向けられる人間は少数派だと思う。けれど、誰もが直面するこのテーマについて考えるきっかけをくれる作品だった。目を背けたくなるようななまなましい現実、ぎゅっと切なくなる鮮烈な過去が、認知症の女性の視点から描写される。誰もが立派な人生を歩めるわけではないが、最期に自分が幸せだったと思えるだろうか…今このときをもっと大切にしたくなった。