転入してきた若いセールス女子や外国で暮らし故郷に戻った中年男、早期退職し両親の介護をする中年男の語る海と山に囲まれた架空の県黒蟹。自分の作り出した人間に興味をもつ神がそこに住む様々な人に姿を変え暮らし、人間の性質を観察しつつその理解を深めていきます。黒蟹県に住んでいるような気分で読み進めていくと次第に存在すること、生きることの不思議に思い当たり、物語の終わりに虚無が待っているのです。

内戦の続くスリランカ、戦場カメラマンのマーリは自分が死に想像もできなかった冥界にいることに気付きます。死の原因を知るため転生を拒否し冥界を彷徨うマーリと現実の世界で失踪した彼を探す、マーリの同性愛の恋人DDとその従妹ジャキ。混沌のスリランカと冥界を旅する物語、下巻へ。

転入してきた若いセールス女子や外国で暮らし故郷に戻った中年男、早期退職し両親の介護をする中年男の語る海と山に囲まれた架空の県黒蟹。自分の作り出した人間に興味をもつ神がそこに住む様々な人に姿を変え暮らし、人間の性質を観察しつつその理解を深めていきます。黒蟹県に住んでいるような気分で読み進めていくと次第に存在すること、生きることの不思議に思い当たり、物語の終わりに虚無が待っているのです。

恋を夢見る裕福な青年コランは美しく純真なクロエと出会い結婚、友人に祝福され人生の絶頂にいる二人を襲うクロエの奇病、治療のため貧困となりやがて訪れる悲劇。一方、作家パルトルを偏愛するコランの友人シックは作家の関連グッズの収集にのめり込み恋人アリーズのことを忘れていく。二組の悲劇を見つめるしかない料理人ニコラとハツカネズミの苦悩。幻想の世界で描かれる悲恋に呆然とする読書です。

駒井率いる無名丸の一行は南方の無人島に上陸し開墾を始めこの地で駒井とお松は結ばれます。竜之助は斎藤一と別れた後京都の寂光院の尼僧の元に身を寄せます。胆吹山の王国づくりを断念したお銀様は山科に居を移し美術品の収集を始め、この地を兵馬が訪れるところで物語は終わります。竜之助と兵馬の対決は一度も実現しませんでしたが多様な登場人物の生き様に思いを馳せながらの読了です。

１３歳から４１歳までに書かれた９編の単、中編集です。その文章力、語彙力が１３歳とはおもえない「酸模」、母と妹の不貞を描く「家族合わせ」、神から人間となった天皇を嘆く英霊たちの告白が鬼気迫る「英霊の声」が印象に残りました。

朝鮮王の国書を携え秀吉に拝謁するも、秀吉の派兵を予見できず閑職に追われた王使の意地と壮絶な最後を描く「王使」、加藤清正の重臣として朝鮮に出兵、清正を裏切り朝鮮，明国兵と共に戦った男の数奇な人生が胸を打つ「虎砲記」の2編が収められています。

妻三千代が作家坂口安吾と暮らした十年を振り返る随想録です。創作が第一の生活、睡眠薬アドルム中毒による錯乱と入院生活、東京から伊東そして桐生への数々の転居、深い愛情からくる不条理な嫉妬、そんな安吾に寄り添う三千代の寛容と献身は刹那な人生を生き狂う安吾への共感と尊敬から生まれたのかなと感じました。

釜石で七兵衛が乗船しすべての乗組員がそろった無名丸を駒井は何処へ導くのか、胆吹山ではお銀様の王国を一揆が襲うが青嵐居士の計略で難を逃れます。胆吹山から琵琶湖に向かった竜之助とお雪は心中を試みますが助けられ、お雪は大阪の親類に送られ、竜之助は京都に現れます。そこでは新選組と御陵衛士の対立が繰り広げられています。多分、収束はない物語の最終巻へ。

新型コロナ感染症が日本中に広がった２０２０年から２０２２年まで澤田・本上夫妻が同じテーマで語るエッセイ集です。家族で集う時間が増えたこの時期、中学生の長女と小学生の長男の４人家族は気張ることなく、自由にこの時間を楽しんでいます。夫婦の故郷での子供時代の生活、今も続く絆は読んでいて心地よく、現在との違いに思わず頷いてしまい、夫婦仲の良さを羨ましく思いました。

教師として戦後を迎え子供たちに教えてきたことの無意味さに慄き、生きることへの虚無感から教職を止め婚約を破棄する作者、その後肺結核に罹患し脊椎カリエスのためベッド上の生活へ。生きることの意味を失った彼女の前に現れる運命の恋人前川、彼の無償の献身とその信仰の深さに生きる道を見出します。そして前川の死に打ちひしがれる作者を救う夫となる三浦。虚無と病気に打ち勝ち、信仰と愛を手に入れるまでが描かれる作者の半生記、深い感動がここにあります。