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2023年の読書メーターまとめ

松本直哉
読んだ本
121
読んだページ
42299ページ
感想・レビュー
120
ナイス
4917ナイス
月間平均冊数
10.1
月間平均ページ数
3525ページ

年間・読書メーターまとめ

年間でナイスが多かった感想・レビュー

松本直哉
初読のときはひたすら希和子に感情移入して、その逃避行に一喜一憂していたが、このたび再読して、これは希和子と同じぐらい恵理菜の物語でもあったのだと気づく。自分を誘拐して連れ出して育て、その結果家庭をめちゃくちゃにした希和子のことを憎む恵理菜が、皮肉なことに、希和子と同じ轍を踏んで、妻子ある男の子を身ごもってしまったとき、彼女が何を考え、どう行動したか、ということが、後半の主なテーマで、記憶を再構成してゆくうちに、憎しみの気持ちはすこしずつ変化してゆく。
松本直哉
2023/05/10 16:23

エンジェル・ホームで生まれ育ったために男性を知らないまま大人になり、男との付き合い方のわからない千草が、恵理菜に対して、私自身は赤ちゃん産めなくても、それでも私は、恵理菜の子の母その2になることができるよ、と言う場面がある。 産む決断をした恵理菜だけを描いていたら、ありがちな母性の賛美に終わっていたかもしれないが、彼女のとなりに産みたくても産めない千草を立たせたとき、母性ということばは少し違う意味を帯びる。産めなくても、産まなくても、母になることはできるのだ。

松本直哉
2023/05/10 16:23

血の繋がった核家族の閉ざされた息苦しさから解放されて、血縁など関係なしに、ゆるくて大きな親密さを築くことができればいいのに、と思う。

が「ナイス!」と言っています。
松本直哉
民族的出自も家族の背景も、どのような属性にも縛られずに人に向き合うとき、はじめて愛は可能になるのであり、属性ゆえに愛したり憎んだりしても、その人の人間性とは何の関係もなく、在日や殺人犯の子などの属性によってカテゴライズしても、その人間を説明したことにならない。瀕死のユダヤ人を介抱したのは、犬猿の仲のはずの善きサマリア人だったのを思い出そう。戸籍も系図もぜんぶなくした世界を想像してみたい。もはや世襲議員は存在しないし、血統のみを存在理由とする天皇制などはまっさきに滅びる。どんなにすがすがしい世界だろうか。
が「ナイス!」と言っています。
松本直哉
ナオミを家に呼び寄せたのが彼女が数えで十五のとき、つまり今でいえば中学生の年頃なのだとすれば、これは源氏における紫の上、あるいはナボコフのロリータであり、籠の鳥のように幽閉して寵愛を注いで成長を楽しみにするところも似ているけれども、問題なのは籠が隙間だらけで知らないうちに外を遊び歩いていたことで、はじめは自分の所有物にしたつもりでいたのに、いつしか形勢が逆転して、ナオミに振り回されて彼女の奴隷に成り下がってしまう展開が喜劇的でもあり、もしも紫の上もこんなふうだったら光源氏はどんなに肝をつぶしたことだろうか
松本直哉
2023/04/03 15:16

「ナオミはいきなり私の頸にしがみつき、その唇の朱の捺印を繁忙な郵便局のスタンプ係りが捺すように、額や、鼻や、眼瞼の上や、耳朶の裏や、私の顔のあらゆる部分へ、寸分の隙間もなくぺたぺたと捺しました。それは私に、何か、椿の花のような、どっしりと思い、そして露けく柔らかい無数の花びらが降って来るような快さを感じさせ、その花びらの薫りの中に、自分の首がすっかり埋まってしまったような夢見心地を覚えさせました」(123頁)

が「ナイス!」と言っています。
松本直哉
イデアについて、川上未映子が著者にプラトンとの関係を尋ね、否定的な答えを得たのを読んだが、私にはこのイデアはむしろアリストテレスの形相に近いように思われた。画家が白いカンヴァスの上に描いてゆく線や形や色が質料だが、それだけでは絵として成立しない。それらの群れを統一する中心的な何か、それが形相。長い間絵が描けなかった主人公が、鈴ととともにイデアを家に呼び入れたのと前後して、再び霊感を取り戻して、線と線の間の有機的なつながりを見出してゆく過程が興味深く、ある種の芸術論として読むとなかなか面白いかもしれない。
松本直哉
2023/08/28 23:31

騎士団長がセロニアス・モンクについて、彼は無から創造したのではなく、すでによく知っている、今ここにある何かから、正しい和音を見つけ出したのだ、というくだりも面白い。漱石の夢十夜に出てくる運慶が、木切れの中から仏の姿を彫り出すように、目の前の何の変哲もない質料の中に永遠な何かを感じ取るのが芸術家の仕事なのだろう。

が「ナイス!」と言っています。

年間でナイスが多かったつぶやき

松本直哉

桜の花を見るとき、いま目の前に咲いている桜だけではなくて、意識していてもしていなくても、これまで生きてきたなかで見た無数の桜が、見た場所や情景や、一緒に見ていた人などとともに、まるで倍音のように、あるいは不可視の光のように、同時にそこに重ねられ、過去のすべての桜が折りたたまれて和音のように響いているかのようで、それゆえここに見ている桜は、私以外の誰にも見えない唯一無二で取り替えのきかないもののように思われる、とここまで書いて、このところ読んでいるプルーストの文体に自分のそれが似てきたことに気づきます。

wassermusik
2023/03/30 19:17

桜以外でも心に深く残る花や人は存在しますが、桜というのは年度替わりと相俟って特別な花ですね。プルーストも花について書いていますが、中でも山査子の花が印象的です。勿論花咲く乙女たちも。松本さんの文章は音楽や絵画が浮かんできて、私の思い出の桜に重なり、それでも私には唯一無二の桜に思えます。

松本直哉
2023/03/31 07:11

たしかに桜は特別な花で、いくつもの出会いや別れの記憶に結びついていますね。ときどき原書の表現を確かめながらプルーストを読んでいますが、息の長いセンテンスは麻薬的で、模倣したい気持ちにさせられます。

が「ナイス!」と言っています。
松本直哉

鈴木優人指揮のバッハ・コレギウム・ジャパンの演奏で、バッハのクリスマスと新年のカンタータを聴きに、六甲山の中腹にある松蔭女子大学チャペルに。終演のあと外に出るともう日が暮れていて、残照がきれいでした。ブログに短い感想を書きました。https://francoisdassise.hatenablog.com/entry/2023/11/27/152235

鈴木優人指揮のバッハ・コレギウム・ジャパンの演奏で、バッハのクリスマスと新年のカンタータを聴きに、六甲山の中腹にある松蔭女子大学チャペルに。終演のあと外に出るともう日が暮れていて、残照がきれいでした。ブログに短い感想を書きました。https://francoisdassise.hatenablog.com/entry/2023/11/27/152235
が「ナイス!」と言っています。
松本直哉

子どもだましのこけおどしとわかっていても、地獄落ちのシーンはゾクゾクするものですね。そんなわけで、モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』の舞台を見てきました。ブログに感想を書きました。https://francoisdassise.hatenablog.com/entry/2023/07/17/153516

子どもだましのこけおどしとわかっていても、地獄落ちのシーンはゾクゾクするものですね。そんなわけで、モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』の舞台を見てきました。ブログに感想を書きました。https://francoisdassise.hatenablog.com/entry/2023/07/17/153516
が「ナイス!」と言っています。
松本直哉

ゆうべは鈴木優人指揮、バッハ・コレギウム・ジャパン、森麻季ほか出演の、ヘンデル『ジュリオ・チェーザレ』を見てきました。チェンバロ3台、テオルボ奏者2人という充実した通奏低音がききものでした。ブログに感想を書きました。https://francoisdassise.hatenablog.com/entry/2023/10/08/092648

ゆうべは鈴木優人指揮、バッハ・コレギウム・ジャパン、森麻季ほか出演の、ヘンデル『ジュリオ・チェーザレ』を見てきました。チェンバロ3台、テオルボ奏者2人という充実した通奏低音がききものでした。ブログに感想を書きました。https://francoisdassise.hatenablog.com/entry/2023/10/08/092648
が「ナイス!」と言っています。

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