展覧会の方では、ポスターの横にフランス語で書かれたキャッチコピーの日本語訳が掲示されていて、とても親切でしたね。「○○のおいしいクッキー」とか「○○の塗料は太陽にも負けない」とか「アルザスに出かけよう!」とか、あ~こういう事が書いてあるのかぁ、と面白かったです。
この他、アメリカ独特の宗派として、モルモン教、アーミッシュ、人民寺院なども解説されている。当初は危険視されていたが(独自の武力も持っていた)、やがてアメリカ社会に同調する事で生き残ったモルモン。現代文明を拒絶しながらも社会と対立せず、「癒やしのアメリカ原風景」として親しまれるアーミッシュ(実際には同系のメゾナイトの方が人口が多い)。現代社会に絶望した黒人(人種差別と貧困)とリベラル白人(理想と目指した社会改革の挫折)が共に破滅の道を選んだ人民寺院。やはりアメリカは濃厚に宗教的な国だ。
進化論への反対や中絶論争のような問題は、その背後にはリベラル化、世俗化する現代社会に疎外感を感じる人々の素朴な反発があり、そこにそれぞれの人生観、人間観が絡んでいるので、対話してもなかなか妥協が出来ない。日本では表層に現れる、中絶論争のようなトピックだけを見ているのでわかりにくいが、その背後にあるものは多分が日本人が引いてしまうような強烈な宗教心なので(それは保守派もリベラル派も実は根っこの部分には共有している)、日本の報道や言論はあえてそこには触れないのだろう、という感じもする。
コペルニクスの著作の実物やガリレオの望遠鏡のレプリカ、一番おぉ!と思ったのは「宇宙旅行の父」ことロシアのツィオルコフスキーの宇宙飛行に関する論文の手稿。こんなものが展覧会で観られるとは思わなかったから、会場で観た時には興奮した。
イスラエルが占領しているシリア南部のゴラン高原の住民はほぼドルーズ派だとは知らなかった。隣接するイスラエル北部にもドルーズ派がいるが、こちらはイスラエル建国時に中立姿勢を保ったためにユダヤ人からは「親イスラエル勢力」と見做され、今では徴兵義務もある(アラブ系イスラエル人にはない)。そのため、周囲のアラブ諸国やパレスチナ人からは「裏切り者」と見做され、差別される理由にもなっているらしい。著者によると、だからといってドルーズ派の集落は総じて貧しく、特に優遇されているようにも見えないという。
このイスラエル北部のドルーズ派とゴラン高原のドルーズ派は、歴史的な経緯から血縁もあるが、イスラエル建国後に国境が出来たことで途絶えていた交流が、皮肉な事に占領によって復活している。イスラエルは両者の交流には便宜を図りつつ、ゴラン高原のドルーズ派にイスラエル国籍を取得するように働きかけているが、それに応じるドルーズ派は少なく、この辺に彼らの置かれた複雑な立ち位置が伺える。
衣服や道具のようにかたちあるものは保存されていれば、今でも見る事が出来るが、それを使っていた人達の価値観は証言として記録しておかないと後世には残らない。ファシスト党は国民メディアとしてラジオを格安で普及させたため、イタリア人はこの時代にラジオに親しむようになった。人気の番組はやはり音楽番組。そして、ナチス同様にファシスト党は国民の行楽提供を政策の大きな柱にしており、「人民列車」と呼ばれる行楽地への格安運賃の列車(しかも客車に等級がない!)は党員ではない人もウェルカムで毎回大混雑したという。
この辺の「反対する者は容赦しないが、順応する者には恩恵を惜しまず、積極的に楽しみを与える」のが大衆密着の政治運動であるファシズムの特徴か。ファシズムは同時に、それまで比較的万事にゆるいイタリア社会に「時間通りに列車を動かす」とか「職場に遅刻してはいけない」とか規律をもたらした現代化という面もあった。反対派もいたが、結局多くのイタリア人がこの体制を受け入れて支持したのは、そういうメリットを感じていたからだろう。
なるほど、伊香保で竹久夢二記念館をのぞいていて「今は美術品的扱いだけど、当時は流行雑誌の挿絵とかだったんだなあ」と思ったり。商業ポスターもそういう感じ、あるんですね。そう考えると、三毛猫ホームズの挿絵を描いている友人の絵も、50年後くらいには美術品として扱われるのだろうか…と、ちょっと楽しみになったり(笑)。
展覧会の方では、ポスターの横にフランス語で書かれたキャッチコピーの日本語訳が掲示されていて、とても親切でしたね。「○○のおいしいクッキー」とか「○○の塗料は太陽にも負けない」とか「アルザスに出かけよう!」とか、あ~こういう事が書いてあるのかぁ、と面白かったです。
ソ連最大の民族だが、意外と民族意識が強くないのがロシア。何故から事実上ソ連=ロシアという体制だったのに、ソ連的なものが即ちロシアであり、諸民族を統治しつつ統合するという建前からロシア民族主義は控え目にしていた。そんな事をしなくても力関係が圧倒的だったのだ。しかし、諸民族から反発され、共存していた地域では排斥され、遂には大前提だったソ連も消滅し、被害者意識で一杯になる。ロシア人の誇りを取り戻せ、ロシア人の世界を守れ、これは三十年近く前の本だが、ウクライナ戦争の遠因が既に見えている。
珍しいのは、目次にも載っていない4ページの絵物語「終章の始まり」。ノルマンディー戦テーマの作品で、デッサン用の画材に描いてザラザラした画の質感を出している。吹き出しではなく、画と文章を並んで載せる絵物語はコミックよりも情報量が多いので著者としては好きらしい。この作品は今まで単行本未収録だったので、ファンとしては結構嬉しい。あとがきによると、編集部に原稿を持参する途中に紛失し、「探すよりももう一度描いた方が速い」と一晩で描いたそう。
そして、制度的人種差別の実態はなかなか深刻。「ある地区に黒人人口が増えてくると白人は離れたところに引っ越してしまうので、後には黒人地区が出来る」「ある商品が黒人に人気に出ると、白人に人気がなくなるのをメーカーは恐れる」「大学に進学した黒人学生は少数派であり、常に孤独感と緊張を強いられているので、結果とし中退者が白人よりも高比率になる」「白人の多い職場に黒人が入ると双方が緊張する。黒人は白人の価値観に合わせることを常に考え、白人は黒人が自分たちに差別されていると思わないかと懸念する」などなど。ストレスフルだ
アジア系やヒスパニック(ラテンアメリカ系)は、白人と黒人の間の中間層(中流階級ではなく、白人社会にも黒人社会にも属さない間の人々)であり、アジア系は数は少ないながらも所得や学歴が総じて黒人よりも高く、ヒスパニックはその中に有色人種と見做される人から「白人」と認められる人達も含むという多様な集団で人口比率もじわじわと上がっていた(現在は更に上がっている)。このように黒人は一貫してアメリカ社会の低位に位置づけられる。
SF、ホラー、軍事、歴史関係の本が好きです。勿論マンガも読みます。
mixiもやってます。そちらの方に、もっと詳しい書評も書いてます。
ブログもやってます。
http://www.moegame.com/movie/archives/cat_印度洋一郎の超映画戦記.html
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なるほど、伊香保で竹久夢二記念館をのぞいていて「今は美術品的扱いだけど、当時は流行雑誌の挿絵とかだったんだなあ」と思ったり。商業ポスターもそういう感じ、あるんですね。そう考えると、三毛猫ホームズの挿絵を描いている友人の絵も、50年後くらいには美術品として扱われるのだろうか…と、ちょっと楽しみになったり(笑)。