短編11篇。どの物語にも、自分の欠片がいてあの人やこの人もいる。モヤモヤした感情や思い出を言葉に文章にしてくれる津村記久子さん。長年の喉の小骨が取れた感じ。ありがとう。うそつきと「うそをつける」のは違うのだな、自分や誰かの心を守る為に。今日という日をちょっとだけ頑張って生きようかな、と思わせてくれる。実は私も、この夫の家にあった皿を少しずつ捨てていたりします。

「粗忽評判記」のみ朗読ポッドキャストにて。壱岐守の側近武士である苅田久之進は、粗忽者と評判だが、仕える殿も違う種類のおっちょこちょい振りでよいコンビ。その久之進の粗忽さが、思いがけず良い結末に。爽やかな人情物で、聴き終わってからも笑ってしまう楽しい短編だった。

生まれた場所でその環境で懸命に生きていく。たとえいずれは皆同じ病を得て、短命であると分かっていても。500頁超で長いのだが、第四章｢ありし月｣あたりから面白くなっていく。江戸後期、輝くいのちの山、石見銀山で生きる人々のお話。

平安初期の富士山大噴火。降り注ぐ火砕流、2年後に再度噴火して溶岩流被害など、もうディザスター映画を観ているよう。災いは、人を選ばない。家人という自身が賎民であることに拘っていた男の、官牧での避難所生活を通しての気づき。そして蝦夷征討中の朝廷の思惑。世界や物事は変転していく。その中で人は天命まで生き続けねばならない。そんな中でも災害状況を詳細に記録して後世に伝えていくのは重要だ。『火定』と共に、いつ何処で厄災に遭うかもしれない私達が読むべき本。

心にぼたん雪が降り積もり、シンシンと身体も心も冷えてゆく。痛い。心象風景は白、雪、鳥の影、そして無数の遺骨。済州島四・三事件、レッドアイランドと烙印を押され、足掛け7年に及ぶ隠蔽された大虐殺。歴史を知る為にも訳者のあとがきを途中で読む事をお勧めします。作者とそして翻訳者に圧倒されました。