表題作のみ朗読ポッドキャストにて。江戸時代明暦の頃、岡崎城主・水野監物忠善の家臣に天野半九郎という者がいた。一心に「殿の御為」と仕えるが、周りが見えない、主君の声すら聞き入れない、自分中心で親切を押し売りするその過ぎた忠誠心からくる行いにより、藩を追放される。その13年後、ある事件が起こる…。最初はジョーク、遠回しな諌めから直接の注意のち無言、と忠善の心の推移が分かりやすい。真の奉公とは何か理解したであろう半九郎の蕭々たる十三年間を思うと、結末は切ない。

なかなかすごいものを読みました。ヴァイキング（ヴィンランド）との遭遇により鉄器、馬、疫病の抗体を獲得することから歴史が塗り替え逆転していく歴史改変小説。上陸してこの島を占有すると宣言したコロンブス（勝手に）、スペインに征服され虐殺されたインカの人々の事、中世の宗教間の争いや異端審問などを知っていれば、胸のすくような改変エピソードも。ルターの『九十五か条の提題』ならぬ『太陽神の九十五か条の提題』中には、一神教の所謂狭量さ頑迷さに戸惑う自分としては膝を打つ文言が並ぶ。世界はこんなにも変わる。かなりお勧め

朗読ポッドキャストにて。関ヶ原の合戦で敵の大将首を挙げた男、井伊直政の家臣である余吾源七郎。しかし彼は数年後に問われるまで名乗り出ることはなかった。褒美も縁談も固辞し、私からすればかなり融通の効かない、しかし青竹のように真っ直ぐな「これぞ武士」という男の話。

朝井リョウ、重松清は既読。重松さんのは確か『小学五年生』の一編。小学生男子の描写はやっぱり上手いなあ。小川洋子「愛されすぎた白鳥」は、まるでヨーロッパの童話のよう。綺麗にまとまっていてサッと読める短編達。

著者の文章が言葉が本当に優しく響く。遥かな古代から地球を巡る風や清らかな水流のようなものを感じるからか、読んでいるととても穏やかな気持ちになれる。春のちょっとむっとした空気、雨上がりの土のにおい、一面の鮮やかな青紫の菖蒲畑…自分の中の懐かしい記憶をも呼び起こされ、切なくもなる。アラスカを愛した氏の遺稿集、見たかったルース氷河などの写真も入ってた。すごく好き、何度も読み返したい。

面白いなあ。橋本治だから書けた源氏ひとり語り仄暗い彼の心の声。雨夜の品定めから展開する中の品の女狩り。空蝉への異常な執着や負け惜しみの罵倒に閉口するが、元々これは中の下辺りの品の女である紫式部が書いたという事がなかなかだ。女は獲物、中の品の者をいたぶるのは面白い…が、「夕顔」の突然死で惟光助けて！とそれまでのニヒルで嫌な男がガラリとオタオタ、寝込んでしまうのが、ああ、まだ17歳なんだ光源氏。林真理子さんの六条の御息所語りも面白かったけれど、男の心理や情欲が分かるこちらも魅力的。