人に迷惑をかける奴、それを屁とも思わないクズ、被害者面をしたがるブス、水と平和と生活保護はタダと信じる楽天家、上から目線の似非評論家、冷笑主義者、いちいちパンケーキを写メする暇人、ギラつく教祖と課金にいそしむ信者ども、環境保護活動家、ベジタリアン、無埋めな韻を踏むラッパー、映画や小説で世界を変えられると本気で思ってるナルシスト、親馬鹿、マザコン、人より犬猫を可愛がる連中、みんな平等に殺します。

一人で荷物を詰めていると時間は瞑想のように静かに過ぎていく。一冊の本、一枚のセーターから立ちのぼってくる過去を手にとって味わいながら箱に詰めていく。時間は少しずつ引き延ばされ、終着点は徐々に遠ざかり、このままでは作業は決して終わらないのではないかと心配になることもあった。パウラとロベルトに電話すればすぐに来て手伝ってくれただろうが、これはわたしが自分一人でしなければならない作業なのだという気がした。自分の過去を始末し、未来に持っていくものと捨てていくものをより分ける。他人に手伝ってもらうわけにはいかない。

日本の料理は食うものでなくて見るものだと云われるが、こう云う場合、私は見るものである以上に瞑想するものであると云おう。そうしてそれは、闇にまたたく蠟燭の灯と漆の器とが合奏する無言の音楽の作用なのである。かつて漱石先生は「草枕」の中で羊羹の色を讃美しておられたことがあったが、そう云えばあの色などはやはり瞑想的ではないか。玉のように半透明に曇った肌が、奥の方まで日の光りを吸い取って夢みる如きほの明るさを啣んでいる感じ、あの色あいの深さ、複雑さは、西洋の菓子には絶対に見られない。

院長の手つきは昔のまま、少しも衰えてなどいなかった。その耳用鉗子は、豆、ビーズ、種子、蟻、綿球、囊胞、腫瘍、血腫、垢……、さまざまな異物や病変部を迷路から引っ張り出してきた。心持ち院長は首を傾け、骨の音に耳を澄ませつつ、あとどれくらい奥があるのか、どの角度で回転を加えればいいのか、指の開きはどれくらい必要か、あらゆる神経を骨壺に集中させていた。もはや手とトカゲの舌は、境目のない一続きの医療器具だった。指の第一関節のわずかな変化が、舌先の二股に伝わり、重なり合う骨のすき間を慎重に探っていた。

海の近くの町、とくに漁港のある町は、何ともいえない魚臭さと、寂れた感じ、海からの風に乗って漂う塩分が町中を浸食して、そこにいるだけで周辺から侵されてゆく感じがある。この町もそうだ。寂れた感じ、は、多分魚たちの夥しい死とも無縁ではないのだろう。いくら種が違うとはいえ、雪のようにその町に降り積もる「死」は、その圧倒的な「量」をもって、静かに人々の意識下に滲入してゆくのに違いない。

ここは安全で、静かで、用がなければ誰もわたしに話しかけてきません。面倒な検査もありません。手術は思っていたより痛かったけれど、そのほかは毎日が規則正しくて、まるではしっこのない方眼紙でも見つめているような、そんな毎日です。

「私思うんだよ。激辛料理は、非日常の入り口だって。何でわざわざお金出して痛い、辛い思いするのってよく聞かれるんだけど、あれって非日常、その向こうへ行きたいって願いを僅かに叶えてくれるものなんだよね。つまり激辛料理って、スカイダイビング、バンジージャンプ、ロッククライミングとかに近くて、死と生を間近に感じるためのもので、その体験が三百円とか四百円とかで買えるって、すごい時代だなって思う。しかも皆で回し食べすればそれだけで盛り上がれるんだから、もはや臨死体験パーティみたいなものだよね」

玉木の一連の動きに魅せられていた。観客を意識してあっちに走り、こっちに歩み寄り、怒鳴り、指示し、挫け、勝つ男。ひと晩に何回繰り返されるのだろうか。明らかに、玉木はこの場の主役で英雄だったが、果てしのない分、道化でもあった。だからこそ、カッコいいのだ、と川辺は思った。玉木の道化の能力と、その軽佻浮薄なサービス精神に感心していた。玉木はきっと、救急医療の現場だけでなく、女に対しても格好つけて振る舞うに違いない。疲れることを己に禁じている男。性的な様子まで想像できる気がして、川辺は密かに興奮した。

人に迷惑をかける奴、それを屁とも思わないクズ、被害者面をしたがるブス、水と平和と生活保護はタダと信じる楽天家、上から目線の似非評論家、冷笑主義者、いちいちパンケーキを写メする暇人、ギラつく教祖と課金にいそしむ信者ども、環境保護活動家、ベジタリアン、無埋めな韻を踏むラッパー、映画や小説で世界を変えられると本気で思ってるナルシスト、親馬鹿、マザコン、人より犬猫を可愛がる連中、みんな平等に殺します。