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まあそんな地衣類についての学術的な案内書に留まる本ではない。文学や歴史、思想、音楽、アートと人文学的視野は広い。ルソーにソローにモンテーニュにバシュラールにユゴーにガスカールにビュトールにラスキンにジョン・ケージに…。33歳の有能な書き手がそのセンスのありったけで人文的土壌から栄養を拾いまくってくれている。訳者の目からすると瑕疵が目についてならないというが、ペダンティストでさえなりきれなかった吾輩には、存分に楽しめた本だった。
個人的には、過去それなりに美術館通いしてきた吾輩の視野に入らなかった少なからぬ先鋭的なアーティストを知ることができただけでも嬉しかった。
吾輩ごときが内容を説明するのは僭越だし任が重すぎるだろう。 本文からの説明に依ると、「ファーストスターは、ビッグバンから二億年たたないうちに登場し始めた。それ以前は暗く、何も見えなかった宇宙に、単純な形の星が輝き始めたのだ。(中略)やがて第二世代の星が登場すると、ファーストスターはすぐに忘れられた存在になってしまった。しかしこの宇宙に、現在見られるような途方もなく多様な構造や生命を生み出すための下地ができたのは、何よりそうした星の介在があったからだ」という。
本書で実に意外だったのは(意想外の喜びでもあったのは)、このファーストスター、つまりはファーストライトの現象は今もって謎であり続けている、ブラックマター(暗黒物質)の存在と深く関わっている(だろう)ことだ。ほとんど重力としか反応しないブラックマターの解明にも繋がるような、電波望遠鏡だからこその研究・観測最前線の、その真っ只中にある研究者の最新報告の本なのである。
ドストエフスキーやポー、サルトルなどを意識していたようだが、今回読んでみて感じたのは、自分でも意外だったのだが、確かに実験的ではあるが、かなり私小説的な匂いを感じてしまった。何処か私生活の断片が透けて見えたような気がしたのだ。 あるいは未だに文学的にも人間的にも未熟な吾輩の生硬な勘繰りに過ぎないのだろうが。
自分にとって苦しい時節にあっても埴谷雄高は文学的に勝手に励ましてくれる存在であり続けてきた。今もそうなんだなと痛感させる読書体験となった。
その結果、本作は戦後の何処か浮足立つような世界を描いた傑作なのだと思いつつも軽く感じられてならなかったのだろう。最後の部分の闘牛も含めたフィエスタの熱気と錯綜する男女らの捻じれた愛憎とが交錯する場面はさすがに読ませる力は感じられたものの、物足りない感のほうが強い。もっと早くに、若い頃に読んでおけばよかったのかなとやや後悔気味である。
この作品の評価は、『黄金虫変奏曲』読後の熱気が冷めた頃に新訳で読み返してからにしたい。
読んでて面白く、劇的場面も多く、これはテレビドラマになるなと思いつつ読んでた。すると、「文庫版へのあとがき」にて、実際にテレビドラマ化されていたことを知った: 「「歴史スペシャル 江戸支社長奮戦記~荻藩・福間彦右衛門の日記~」NHK 1993年08月19日(木) 出演:イッセー尾形、角野卓造」
本作も、「大人のための絵本」らしくシニカルさに満ちている。一方、数々の挿画はストーリーに即していて、物語に対し説明的なのが面白い。 2016年4月、回顧展が日本全国を巡回し話題になったとか。2020年…著者没後20年に本書が刊行された。
無類のバレエ好き。バレエ振付師のジョージ・バランシンの熱心なファンであり、バレエダンサーではダイアナ・アダムズにぞっこん。本作品も彼女に捧げられている。
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まあそんな地衣類についての学術的な案内書に留まる本ではない。文学や歴史、思想、音楽、アートと人文学的視野は広い。ルソーにソローにモンテーニュにバシュラールにユゴーにガスカールにビュトールにラスキンにジョン・ケージに…。33歳の有能な書き手がそのセンスのありったけで人文的土壌から栄養を拾いまくってくれている。訳者の目からすると瑕疵が目についてならないというが、ペダンティストでさえなりきれなかった吾輩には、存分に楽しめた本だった。
個人的には、過去それなりに美術館通いしてきた吾輩の視野に入らなかった少なからぬ先鋭的なアーティストを知ることができただけでも嬉しかった。