それでもダーウィンの解説は押しつけがまさがなく、反論への用心のためか、かなり遠慮深い語り口だ。疑問点は疑問点のまま正直におそらくこうだろうという書き方。遺伝子が発見されていない時代の考察なのがかえって面白かった気がする。多くの生物間で影響を及ぼしあって環境が維持され、自然淘汰が行われる仕組みがよく解る。(下巻は後日)
「センプリカ・ガール日記」:家計は苦しくとも子どもたちにできるだけのことをしてやりたい。そんな思いの日々の浮き沈みがそのままの言葉で綴られ、うれし悲しき人生のありさまだ。ところがやがて登場する「センプリカ・ガール」という人間装飾が恐ろしいもので一気にディストピアだ。愕然とする。未来の人々に日記で残そうとしていたのはこんな恐ろしい世界であったとは。
上記2作で人間扱いされていない目に遭っているのは、いずれも不幸な境遇から犯罪者となってしまった人間で、これも悲劇だ。 訳者解説にもあったとおり、巻末表題作「十二月の十日」になるとやっと救いがあって、凍った湖に落ちた子供も助けようとした青年も無事でよかった。読んでいてほっとした。
もともと物語の時代のコロンビアは内戦が終わって仮初めの平和のもと、ややもすれば暴力が再び目を覚ましかねない一触即発の緊張状態。その中での謎の反体制ビラだから、突然誰かが撃ち殺されても不思議ではない。舞台となるのはそんな街だ。
町長(警部補)・神父・判事・成金・未亡人などが、朝起きた・飯食った・出かけた・酒飲んだなどをそれぞれ繰り返してウロウロする。それだけのことでも油断ならない。一癖も二癖もある人間たちの匂い立つような魅力が、おそらくマルケスならではの持ち味で、なにも事件が起きなくてもまんまと最後まで読まされてしまう。もう目が離せないのだ。
ヴォルテールは世界中に多くの宗教がある中で、実はキリスト教が最も不寛容な宗教で、多くの異教徒を殺戮してきたのではないだろうかとの見解を示す。なるほどキリスト教がそれまでの素朴で民族的な宗教に比べてはるかに厳しい教えで、世界宗教たるべくの特徴を持つのであればそうならざるを得ないのかもしれない。現代でも原理主義に至って容易に世俗化されない一面を持つ。無宗教の私などから見れば恐ろしいものである。
ヴォルテールの近代的な理性に基づいた解釈は、キリスト教の数々の伝説を否定して科学的で常識的な対応を求める。この時代におけるオピニオンリーダーとしての活躍はさすがだ。また文章には文学者ならではの躍動する面白さがあり、内容とはおよそ無縁な現代日本人の私が読んでも興奮する出来栄えであります。
ところが第3部になると恋の策略に敗れたブリュンヒルトは登場せず、美貌の姫クリエムヒルトは殺された夫ジークフリートの復讐に燃えるばかり。 北欧の王や最強勢力フン族のアッチラ大王まで現れて、謀臣ハーゲン率いるニーベルンゲン族との戦いとなり、このスペクタクルが物語の最大の見どころとされている。しかし戦争へと進んでいく過程でそれぞれの人物の心中に意外性はなく、死へ向かって悲劇が完結するばかり。物語としては納得できる組み立てではあるが、この戦争の種をまくかたちの第2部までのほうが神話的で現実離れしていて面白かった。
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ところが第3部になると恋の策略に敗れたブリュンヒルトは登場せず、美貌の姫クリエムヒルトは殺された夫ジークフリートの復讐に燃えるばかり。 北欧の王や最強勢力フン族のアッチラ大王まで現れて、謀臣ハーゲン率いるニーベルンゲン族との戦いとなり、このスペクタクルが物語の最大の見どころとされている。しかし戦争へと進んでいく過程でそれぞれの人物の心中に意外性はなく、死へ向かって悲劇が完結するばかり。物語としては納得できる組み立てではあるが、この戦争の種をまくかたちの第2部までのほうが神話的で現実離れしていて面白かった。