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2023年7月の読書メーターまとめ

roughfractus02
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感想・レビュー
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2023年7月に読んだ本
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2023年7月のお気に入られ登録
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  • 電波時計
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2023年7月にナイスが最も多かった感想・レビュー

roughfractus02
卒業する大学生を前にして、だいぶ年長の作者は彼ら/彼女らの今ここにいることについて語り始める。何でもない日に林檎の木の下で紅茶を飲む作者の叔父が、集まった人たちの話を中断して「これで駄目なら、どうしろって?」と呟く逸話は、充足した今を過ぎ去る時間の中で見過ごす自分達の悪しき習性を教える。今を味わえば、過去に棲みつく憎悪や未来に棲みつく強欲なしでいられる幸福に気づけるはずた。そう言いながらも、作者は、社会が規範化する直線的な時間に組み込まれていく卒業生達に「私の言葉は信じるな」とユーモアで包んだ言葉を贈る。
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2023年7月にナイスが最も多かったつぶやき

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先月は仕事のハードさに反比例して、図書館に全作揃ったケン・リュウからカート・ヴォネガットの少しソフトなSFを開いて過ごす。ソフトでもSFは先が読めないのがいい(オチにキレがあるともっといい)。そんな読めない本の一番はホラー風味の『紙葉の家』だが。 2023年6月の読書メーター 読んだ本の数:30冊 読んだページ数:11065ページ ナイス数:342ナイス ★先月に読んだ本一覧はこちら→ https://bookmeter.com/users/743402/summary/monthly/2023/6

先月は仕事のハードさに反比例して、図書館に全作揃ったケン・リュウからカート・ヴォネガットの少しソフトなSFを開いて過ごす。ソフトでもSFは先が読めないのがいい(オチにキレがあるともっといい)。そんな読めない本の一番はホラー風味の『紙葉の家』だが。
2023年6月の読書メーター 読んだ本の数:30冊 読んだページ数:11065ページ ナイス数:342ナイス  ★先月に読んだ本一覧はこちら→ https://bookmeter.com/users/743402/summary/monthly/2023/6
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2023年7月の感想・レビュー一覧
31

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24作の短編(1950-1973)を集めた本書は意外さ、驚き、笑いを惹起する作品が多い。平面と直線を進む物語世界に段差や穴を作るその構造は物語世界の直線的時間をタイムトラベルで、平面的空間を時空のジャンプで変形し、愚者を天才に変え、外界の解けない問題が自分自身の死が解決する場面を用意する。一つの意味と思われた言葉も二重の意味を持たされる。時空ジャンプして戻ると米国のindian居住地はIndianの国インドに変わる。本書の表題Buy JupiterもBy Jupiter(驚きを表す慣用句)をもじっている。
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3分冊された初期作品は10年間で書かれ、そのほとんどを編集者J・W・キャンベルが世に送り出したという。本巻は後のロボットものやファウンデーションシリーズの萌芽を思わせるモチーフも散見するが、その特徴は全巻通して異星人の登場が減少する点にある。表題作『母なる地球』が宇宙に進出した人類と地球人の対立の危機を描き、『鋼鉄都市』等にその世界観が継承される鍵は、以後作者が創出する最大のガジェット「心理歴史学」が銀河帝国の人類全体に適用できる物語の時空と生命の等質性にあるようだ。統計的世界では例外は弾かれるのである。
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宇宙にも歴史はあるが、時間を跨がって生きる猫が隣にいる時空では、歴史の時空自体が崩壊の予感に満たされている。それは直線上の時間と平面的に広がる地球的な歴史時空ではなく、ランダムさから秩序が作られ、ランダムさの中に解体する。12の短編を収めた本書にはファウンデーションシリーズの鍵を握る「心理歴史学」のモデルが出てくる。大量のデータを数学的処理によって集団の長期動向を扱う生化学的歴史学に過去の敗戦国の元首ヒトラーを語らせる作者は、時を跨ぐ猫の話を書き終えた1941年12月7日に真珠湾攻撃の報を聞いたという。
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第二次大戦前に書かれた8つの初期作品を収めた本書は、植民地争奪をめぐる大国の資本主義的欲望を宇宙の領域に重ねながら、物語は、支配する側に付き添いつつも支配される側の文化や能力に自らと異なる何かを見出す人類学者的登場人物の姿勢によって紡ぎ出される、という傾向があるようだ(19世紀以降の人類学者に宗教者が多い点も登場人物に重なる)。ファウンデーションで出てこない異星人たち(金星人、火星人)も地球人に劣るのではなく異なる能力を持つと捉え直され、その力に魅了される人物も出てくる。各作品への作者自身の解説が秀逸だ。
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古くは神が人間の死や知性の限界を説明したが、本書では科学が説明する。両者は共に人間の生や知の限界の外として設定されるが、世界と人間に抽象的に関わる神に対し、生化学や物理学は巨視的・微視的観点で具体的に関わる点が異なる。人間の知を制限する上位生命体や人間の死を短縮する寄生体は人間意識の外にあり、個々の意識は惑星大に統一された意識から癌の如く忌避される。そんな意識が作る文明は2000年周期で起こる15分の暗闇に耐えられずに滅亡するが、協働すれば古えの神の子の自己犠牲のような物語を紡ぎ出す(初期の5編を収録)。
山川欣伸(やまかわよしのぶ)
2024/04/12 18:36

夜が来るたびに、人間の知とは何か、その限界とは何かを考えさせられますよね。アシモフの「夜来たる」では、科学と神話がどう交差するのか、その複雑な関係性が描かれている点が興味深いです。特に、上位生命体や寄生体を通して人間の存在意義や、集合意識と個の意識の対立が描かれている部分は、読後も心に残ります。2000年周期で訪れる暗闇への対処法として、協働と自己犠牲を提示する物語は、古い神話に新しい解釈を加えるように思えて、なんだか新鮮です。この作品を通じて、見えない力に挑む人類の姿から学ぶことは多いですね...。

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SFとミステリが結びつくのは宇宙と意識と物語が平面と直線に設定可能な場合だろう。一方、それらが個別の作品として個性を持つのは、ニュートン的時空で理解しづらい分子的・素粒子的レベルでの変化を知る者が物語内に登場し、常識を覆すからだ。SFではその人物たちが技術を開発していくが、地球と異なる環境で犯罪が起こるミステリでは犯罪の真実が分子・素粒子レベルで解明される。13編のSFミステリが収録された本書は、このような知を駆使する地球外環境学者ハース博士が探偵役となるが、その設定は乗り物嫌いの作者の分身とも言われる。
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3対1の人間関係は疑惑を生んで真相を追うサスペンスとなり、1対1では愛着が生まれて外部が干渉するまで続く。が、それ以上の数では階層が生じ、人間を機械同様に扱うトップダウン体制を敷いて技術開発を促進しつつ外宇宙に向かう。一方、機械と人間の関係では、データが十分なら予測機械に人間の未来が支配され、不十分ならデータの蓄積まで10兆年待たねばならない。が、9つの短編が示唆するのは、言語を持つ人間が1人になれないのに対し、人工知能は人類絶滅後に自律可能な点だ。作者はこの自律を「光あれ」と命ずる唯一神の誕生と捉える。
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地球を舞台とした17の短編が収められた本書(1957刊)では、過去と往来可能になることが物語の現在の不具合を逆照射する。物語の現在では、人口過剰で地球の可能世界に移民しても、コンピュータで過去を探ったり歴史上の人物を連れてくることが可能になっても問題が起こる。どの技術を用いてもシステム(時に「役所」と呼ばれる)が有効に作動しない点に現在の特徴がある。一方、少年が持つ「無限に物語を紡ぐ装置」Bard(=吟遊詩人/Googleの生成AIの名)が登場する短編「いつの日か」では、読者の現在も照らし出されるらしい。
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作者初期の4つの中短編を収めた本書は、現代の科学技術の状況と1950年代の状況を比較する楽しみもある一方、SFとサスペンスを織り交ぜる作者の物語が、現実の未来予測から導かれる危機(資源枯渇、惑星の寿命)とその解決に向けた孤独な努力(他の星への移住、他の生命との接触)という共通テーマも窺える。解決後に新たな問題が生じるのは多くのSF作品にもあるが、作者は、孤立した人々に手持ちの材料と力で窮状を打破させる一方、物語世界での解決を突き放すオチをつけて問題の探究に終わりがないことを仄めかすのがその特徴のようだ。
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宇宙に存在する多くの星系は連星系であり、この太陽系にももう一つの褐色矮星がある。地球上での2600万年周期の大量絶滅が太陽の双子である恒星の影響だとするネメシス仮説(1984年)を念頭に本書を読むと、植民衛星ローターのネメシス星系への移動を追う地球政府の超高速飛行の動きは、この星系の生命を絶滅させる側から捉え直す観点の移動にも見える。が、観点自身が電磁レベルで空間にも影響するなら空間から独立した移動などない。そのレベルから見えない恒星を含む太陽系全体の動きを知るのは、理性的人物より直感能力者なのだろう。
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人類が宇宙を帝国化する動力は物語世界では先端技術や科学理論だが、物語自体の動力は人類の不遜さが引き起こす危機を生み出す政治的な権謀術数である。23世紀に80億人を超える地球と植民衛星の2億の民からなる人類が太陽系外へのさらなる移住を目論む中、巨視的には居住可能なネメシス星系の発見情報を極秘にする植民衛星ローター政府と地球政府の独自調査の間の野心と利欲、微視的には離婚した夫婦の娘を巡る葛藤が物語を動かす。本巻では母が命名したネメシス(神罰の女神)に惹かれる娘とこの星系の接近による太陽系の危機が予告される。
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エネルギー危機にある1970年代に書かれた本書は、並行宇宙での無尽蔵エネルギーの発見、現宇宙での技術的転用に関する政治(第1部)、物理法則が異なる並行宇宙にある惑星の硬族と軟族、後者の分子レベルの生殖から社会に至る描写と、現宇宙への新エネルギー移送(第2部)、そして現宇宙にある地球が危機に陥った後の月での生活(第3部)からなる。この過程で新エネルギーの消費が宇宙自体の危機を惹起する予測が示されて両宇宙の交流が始まる。興味深かったのは両宇宙の発生を促す知的で次元に優劣差のない神の存在が推論される場面だった。
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同じ頸動脈から脳への経路で同じ5名の搭乗者を乗せた潜航艇が注入される縮小技術を「ミニチュア化」と戯画化する後半は前作のパロディで進む。が、原子レベルに縮小すると物理法則は成立しないというプランク定数に関する新たな科学的記述が加わると、ファウンデーション・シリーズに続く未来史の一部に本書が組み込まれるように見えてくる。愛の称揚と主人公が神の如く七日目で休んで唐突に幕を閉じる最後は、機械仕掛けの神が無理やり劇を終わらせるギリシャ末期の悲劇のようだ。以後作者の未来史はローマ帝国を模した銀河帝国へ向かうのだろう。
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映画を小説化した前作だが、小説とその映画化は関係がないと言い切る作者は、時間直線に従順な映画の「目的」論的物語に対し、本書で主人公に不平の言葉を語らせ、回避行動を繰り返させる。小説史ではパロディの手法だが、帝国主義的冒険に発するSFでは物語世界での目的地到達の遅延の形をとる。神経物理学者の主人公が東西冷戦時の米ソ間の技術開発競争に巻き込まれ、ソ連の縮小技術を推進する科学者の脳に侵入してその思考を読み取るという壮大な物語を支える現実の冷戦が緩和する中、サスペンス的緊張もどこかパロディに見える(1987刊)。
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人類が大気圏外へ出て宇宙の映像が中継可能になる1960年代、衰退の危機を迎えた宇宙冒険SFが新たな冒険の場として注目したのはインナースペースだったという。1966年公開の映画をノベライズした本書では、チェコから米国に亡命してきた科学者が事故に遭い、脳の血腫部を除去するために縮小技術を施されたチームが結成されて、体内を舞台とした60分リミットの冒険サスペンスが繰り広げられる。分子レベルで体内を描写する作者は、本書でナノマシンが体内を走り量子レベルで宇宙が描かれる今世紀SFへの指針を示していたのかもしれない。
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従来のタイムトラベル物語ではタイムパラドクスを回避するエピソードが多いが、本書ではタイムライン自体の脆弱さを前提とし、それを修正するために時間旅行する永遠人(エターニティ)の一人を主人公とする。一方、時間を含む現実にいる普通人には永遠人の修正は残酷な変動でしかない。ベンサム「最大多数の最大幸福」の矛盾を体現した物語世界では、永遠は変化をタイムライン化する意識のようであり、現実は初期値に鋭敏な複雑系的世界のようだ。主人公が永遠へ戻る術をなくすと無限のバタフライ・エフェクトがざわめき出すようなラストが見事だ。
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宇宙服繊維を生産する惑星フロリナを独占するサーク貴族の経済圏にトランター帝国が迫る中で、フロリナの消滅を空間分析して何者かの手で記憶を失った地球人が放り込まれる。物語は記憶を失わせた犯人探しを軸にサスペンスタッチで進む。一方、南北戦争前の米国史を戯画化した貴族(黒人)と奴隷(白人)からなる経済圏を帝国が囲み、繊維開発の進展やフロリナ消滅に備えた人々の脱出が始まると経済圏の衰退が加速する。ローマの歴史家を彷彿とさせる作者は、微視・巨視両視点を駆使して戦争と経済と政治の絡み合いの中で帝国化する未来を記述する。
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ローマとモンゴルの両帝国の盛衰をモデルとした銀河帝国史に沿えば、本書はロボット・シリーズとファウンデーション・シリーズの間の惑星トランターが中心の時代に分類される。が、その後の作品を含めた時系列をなぞると、本書が読者にシビアな事実を突きつけているようにも見える。トランター帝国隆盛前の陰謀事件にまつわる冒険活劇的物語の本書だが、最後に希望のように再発見される古文書が合衆国憲法であるにもかかわらず、その後銀河帝国では民主制が現れないことを読者は知っている。その後を書く作者にはそれは第二次大戦後の世界でもある。
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作者は「歴史は繰り返す」と信じたようだ。仕立て屋を引退した男が近くの研究所の核実験で未来に移送される。放射能汚染と人口超過による安楽死政策に苦しむこの星は、人類の起源であるにもかかわらず銀河に進出した人類から「小石」のように忘れ去られていた。脳の施術でテレパシー能力者になる仕立て屋が帝国の陰謀の中で活躍する物語はとても明快だが、文体は不思議と諷刺的である。作者は、銀河帝国下での狂信集団の登場にローマ帝国のユダヤ戦争を、5年前に集結した戦争に第二次大戦に重ね、戦後世界を新たな戦争の始まりと捉えたのだろう。
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「初めに絵ありき。絵は光なりき」という聖書のパロディにしたような本書は、絵に物語をつけるインプロビゼーション感溢れるクリスマス絵本である。光と闇を分つように左右の見開きに色彩豊かな絵と黒地に浮かぶ文字が分かれる構成だ。カンディンスキーやクレーを思わせるニューバウハウス出身のデザイナーの音楽的色彩に満ちた絵に、無神論者の小説家が聖書の物語をつける。闇に浮かぶ文字は肉体を得た「創造主」イエスの誕生から記し始めるが、彼は人間の赤ん坊同様、視力が安定するまで自ら創造した太陽、月、星が見えず、成長後も薮睨みになる。
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作者らしき男がキヴォーキアン医師の自殺幇助装置であの世に行き、著名な死者や自著の登場人物のインタビューをラジオで報告する。そんなショートショートの後に1998年『グランドセントラル 冬』がヒットした元路上生活者の作家と作者の対談を読むと、歴史時間に属する自分を自覚する。歴史上の人物の中に同年亡くなった人物も含む架空インタビューのラジオ放送と、積極的安楽死を主張する実在のキヴォーキアンのTVドキュメンタリー放映も同年だ。作者はラジオの速報性の特徴を利用してhistoryの中にstoryを紛れ込ませたようだ。
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作者に大学で教わった作家が作者の作品、手紙、タイプ原稿から創作に関する逸話を取り出して37章にまとめた本書は、読者の着眼点次第で、創作講座、自伝エッセイ、紙上での作者と弟子の対話のように読める。興味深いのは、テーマへの強い思いが書くことを継続するモチーフになると言う作者自身が、悲惨な体験を作品化するまで長い曲折を経て、笑いにくるんでやっと形にしたという点だ。それゆえ作者は、作家は多様な形式を施した小説を読む読者に憐れみを持つべきだと言い、本書の言葉を読む読者には、読むことも難しい技術なのだと言外から囁く。
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2人の男に言い寄られる4番目の妻の元に行方知れずの夫が相棒の男と共に8年ぶりに戻ると、期待通りのドタバタが始まる。戦争で多くの人間を殺した夫、長崎に原爆を落としてさらに多数の人々の命を奪った相棒という暴力の象徴のような人達が舞い戻ると、ラブコメ的笑いに残酷さが加味される。一方3人の幽霊(事故で死んだ少女、大戦で殺されたドイツ兵、アル中で死んだ夫の3番目の妻)は現代社会の残酷さを突き放す視点を観客に与える。ベトナム戦争末期(1970)に書かれた戯曲だが、自伝『パームサンデー』での自己評価は最低のDである。
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卒業する大学生を前にして、だいぶ年長の作者は彼ら/彼女らの今ここにいることについて語り始める。何でもない日に林檎の木の下で紅茶を飲む作者の叔父が、集まった人たちの話を中断して「これで駄目なら、どうしろって?」と呟く逸話は、充足した今を過ぎ去る時間の中で見過ごす自分達の悪しき習性を教える。今を味わえば、過去に棲みつく憎悪や未来に棲みつく強欲なしでいられる幸福に気づけるはずた。そう言いながらも、作者は、社会が規範化する直線的な時間に組み込まれていく卒業生達に「私の言葉は信じるな」とユーモアで包んだ言葉を贈る。
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第二次大戦時上等兵だった作者の家族宛の手紙と最後の講演草稿を冒頭に並べた本書には後世の批評が窺える。戦争の状況を伝える文と講演での皮肉で笑いを引き出す文の並びには、味方に空爆されて戦争そのものが自分に襲いかかるドレスデン爆撃を境に変貌した作者の文体の軌跡を、当の爆撃の様子をまざまざと伝えた次のノンフィクション「悲しみの叫びはすべての街路に」までの3作で一望できる構成に見えるからだ。その後表題作品で締め括られる本書は、この悲惨な出来事に耐えるために作者が物語と笑いを必要としたことを読者に訴えかけてくる。
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12歳でタバコを吸い始めた作者はタバコ中毒者だが、タバコで早々に死を得ようとする厭世家だった。が、82歳まで生きてしまったと自分を皮肉な口調で語りながら、環境破壊を続ける地球上の化石燃料中毒者達を見限るようにして生前最後になる本書を書く。「インチキ」だらけのブッシュ政権批判は合衆国憲法自体の構造的欠陥をむき出しにし、国民を守らない国、武器の量産でインフレを抑制する仕組み、少数が富むための自由主義、自由競争が生み出す貧困と怨恨による分断等々の現実自体の絶望を読者に突きつけ、最後に「冗談だ」と言って閉じる。
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一般の人に除け者にされ、孤独と絶望を母に自由を獲得するのが創造的な人であると著者はいう。E・ヴィーゼルは「鬱病でなければ純文学作家にはなれない」と言い、無意識を描くJ・ポロックは作品の中の自分は意識がないと言った。ではなぜ彼らが創造的なのか?彼らを除け者にする一般の人が中毒患者であると指摘する役割が必要だからだ。酒、ギャンブル、コカイン、買い物、大食等々の中毒の中で一番中毒になるのは戦争だ。10年ごと編まれる作者の3冊目のエッセイ集である本書は、創造と破壊に思いを巡らす80年代に書かれた(1991刊)。
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同じテーマを扱い続けると文体や構成の方が際立つようだ。第二次大戦の従軍体験は書いても教訓にはならない。戦後も人は戦争が好きであり、都市を破壊し人を殺すことに興奮しているからだ。相手を敵と見なして戦いに勝つという英雄的な物語は滅びない。そんな物語をドタバタ喜劇に変換してきた著者は、自伝すらも物語性を寸断し、多様な素材(文体)を貼り合わせる(コラージュ)ようにして読者に差し出す。面白いのは、ブレヒトが笑いで物語を異化したように、自作にA〜D段階の評価して突き放しているところだ。この作品にはC評価が付いている。
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作者にとって悲惨な世界に生きるために必要なのは、何人かの相手である。相手が複数必要なのは、一人への愛は独占に向かうが複数への親切はそうならないからだ。一つのことに感情移入しがちな自分に距離を置くよう促すのは笑いである。初エッセイ集である本書には、作者のそんな創作意図が見え隠れするように感じる。大戦後も戦争協力する科学を疑う作者は、占星術や降霊術に国費を使うように促して悲惨さを嘆く方向から距離を取る。インタビューに真摯に応え、祝辞を送る講演で悲惨な話をしたとき、聞き手の間に笑いが起こったのかどうかは不明だ。
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「ふるまい」「ヘルムホルツ主任教諭」「未来派」の3テーマでシリーズを締めくくる本書では、意志と行為の落差によって世界が喜劇に変わる。高校教師とバンドメンバーの音楽への情熱の落差は、この世界に関する読者の考え自体を転倒させる。投資顧問が投資に興味のない顧客相手に苦闘する方が常態であり、平等を徹底しようとして個性を圧殺する意志が行為と一致する社会がディストピアに見えるのは、思いと行為の一致は偶然でありその逆ではない、という作者の確率論的な世界観が垣間見えるからだろう。まぐれを必然と思い込む方が過ちなのである。
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コメディにとって職を得る事は不思議な場所に放り込まれることと同じだ。そこには対極的な人物達がいて、主人公や語り手がどちらかを選ぶか、選ばないままかによって物語の風味も変わる。前者は人間同士の物語となり、後者は選ばせる側の資本主義システムを際立たせる物語となる。育ちと性的魅力、強さと弱さ、若さと老い等の選択肢を選ばされる主人公達は選ぶ/選ばないの二択を与えるシステムの中にいる。本書のテーマは「ロマンス」(承前)と「働き甲斐&富と名声」だが、選ぶ/選ばないを喜劇化する構造では両者共にひねりの効いた笑いを生む。
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ユーザーデータ

読書データ

プロフィール

登録日
2017/02/06(2799日経過)
記録初日
2017/02/06(2799日経過)
読んだ本
3432冊(1日平均1.23冊)
読んだページ
1316452ページ(1日平均470ページ)
感想・レビュー
3432件(投稿率100.0%)
本棚
13棚
自己紹介

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