筆者は「あの時、こうだったら…」という過去の分岐点に焦点を当て、過去の分岐点から派生する現在のパラレルワールドに住んでいる住人なんだと分かった。人間は未来を変えるために努力する能力があるからこそ、過去も変えられたのではないか、と後悔する。最愛の人を求めれば、生まれ得なかった命と自分の人生の岐路を振り返る主人公の葛藤は、人の命の偶然性を際立たせている。

感嘆。色鉛筆画がどれほどの根気と緻密さで描かれているかがわかる本。デッサン不要なのはトレーシングペーパーなどで写真を写しているから。私にはこの根気強い作業は難しいだろうなと思ったので、デッサンの方が向いていそう。ただ、どこまでも美しく描かれる絵を見るだけで楽しい。黒い紙と白い紙への描き方の違いが面白い。

様々な生き物たちの生と死を筆者の視点で静かに描く。東京と森でのニ拠点生活。東京での人間たちの描き方も森の動物たちを観察するような言葉選びがなされ、筆者の静謐な絵の由来が少しだけ分かったような気分になれる。

動物のデッサンは、骨の構造やプロポーションを意識すると、その動物らしさが出る。本書はサイエンティフィクイラストレーション(古生物の化石をもとに書き起こす復元画)を専門の一つとする筆者が様々な種目の動物の骨格や特徴を解説しながらデッサンした絵が愛らしい。知らない種類の動物や知っている動物の意外な一面も知れて、図鑑を読み進めるように楽しく読める。特に、蹠行性、指行性、蹄行性などの手や指、踵の位置での分類は初めて知り、絵を描くとは対象をよく知ることだと改めて感じる。動物園にスケッチブックを携えていきたくなる本。

愛犬と暮らす中で意識するのは、自分とは異なる時を刻む小さな命の「時間」。その時計は進み方がただでさえ早いのに、愛犬と一緒に過ごす楽しい時間はあっという間に過ぎるから、私自身の時計まで早く進むようになったのではないかと思う。愛犬がシニアになったら介護をちゃんとできるだろうか。本書を読んで、赤ちゃんの時に夜中よく起こされたなぁとか、トイレ失敗していたなぁと思い出し、人間も犬も、老いとは生まれた状態に戻ることなんだと改めて思った。一生を共にした家族の腕に抱かれて老衰で命の炎が尽きる。なんて幸せな最期なんだろう。

筆者は「あの時、こうだったら…」という過去の分岐点に焦点を当て、過去の分岐点から派生する現在のパラレルワールドに住んでいる住人なんだと分かった。人間は未来を変えるために努力する能力があるからこそ、過去も変えられたのではないか、と後悔する。最愛の人を求めれば、生まれ得なかった命と自分の人生の岐路を振り返る主人公の葛藤は、人の命の偶然性を際立たせている。