あと、今回は翻訳も素晴らしく感じました。『熊』などは少し前に読んだ『ポータブル・フォークナー』にも入っていたわけですが、今回の全集版のほうが古い翻訳なのに読みやすかった。訳者の大橋健三郎さんというのは日本ウィリアム・フォークナー協会の創立者であり初代会長ということですから、やっぱり違うんでしょうか。少し驚いたのが、『ポータブル・フォークナー』で『熊』を翻訳したのは柴田元幸氏ですが、なんと大橋健三郎氏の弟子らしい。
とは言っても、この全集読むとき毎回思ってることですが、新しい翻訳が文庫類で出てほしいですねー。今回は図書館でしたが、amazonの古書では時価48000円。何とかならないのでしょうか…。
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なお、三番目の「黒衣の道化師」だけ、とても陰惨な話で異色だが、マッキャスリン一族の黒人に対する宥和的な姿勢は特異的な物で、黒人と白人は分かり合えるはずがなく、ちょっとしたきっかけで白人の暴力による黒人への制裁が起こる現実の状況が、この物語全体の背景にあることを提示しているものと解釈している。そして喜劇調で始まったこの小説も、感動的なアイクの決断も、最後には人間としての生の残酷さの影の中で物語りは終焉する。
一つ一つを独立して読んでも鑑賞に耐える作品群だが、長編として読んでこそ、有機的な繋がりが感じられ、それらの素晴らしさが生きる。他にももっと書きたいことが。この小説、私は、フォークナーの作品の中で一番好き、でもここで筆を置こう。でも最後に、最初のページのある人物への献辞。これだけでも心を打つ。