形式:新書
出版社:中央公論新社
子供時代に百科事典を書き写して暗記したとか、大英博物館に通っていた時、嫌がらせしてきたイギリス人をぶちのめして出禁になるとか、人見知りなもんで柳田國男が初めて会いに来た時には酒を飲み過ぎてゲロ吐いて会話にならなかったとか、ギャグなのかマジなのか分からんエピソードが多すぎる。中には聞いたことのある話もあったが、羽山兄弟にまつわるセクシャリティについては初耳で興味深かった。本書では言及されなかった「淫猥のこと一切禁ず」と宣言したという説も、日本を離れることで二人と会えなくなる覚悟から生まれたものなのだろうか。
粘菌の研究が評価され、昭和天皇にその名を歌に詠まれたというのも凄い話だが、それでも職業としての研究職に就くことなく「働きたくないでこざる」の精神を貫き通した熊楠。今もってなお、ありきたりな型で捉えることの出来ない愛情深いナチュラリストであり、先進的なグローカリストであり、妥協なきサタニストだったのだろうと思う。とりあえず、国内外で近代化の暴風が吹き荒れる時代を生きた超ド級のオモシロ偉人ということは確認できたので、これで柴田勝家『ヒト夜の永い夢』にも安心して取りかかれるぞぅ。
先日田辺の南方熊楠顕彰館で展示を見てきたこともあり、理解しやすかつた。熊楠の字が難読といふのは本書にある通りで、日記を始め未整理の資料がまだまだあるといふのも頷ける。
顕彰館の隣の旧邸は、思つたよりも敷地が広くて、熊楠の生活が弟の常楠さんによつて支へられてゐたことがよく実感された。
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