そして、これに伴うベスト・プラクティスへの抵抗力の強さにあると。しかも、経営資源・労働力の流動性の低さが、企業の「老齢化」(経年毎に総資産利益率(ROA、Return on Assets)、特に収益性の低下)を速めてしまう。◇とはいえ、著者は米国流の雇用の流動化を進めるべきだとしているわけではない。これは社会的負担が大きく、全体的な効率性を下げることになるからだが、ここで著者は、東洋紡の例を出し、新規事業の立上げの意義と、これに際して、従業員の社内ないし社外での再教育と配転の意義も提起している。
→ただし読み進むにつれ、それなりに面白い指摘も少なくないことが判り、経営学=金儲け指南書と見れば、それなりの意味あるかなと考えを改める。再読もあり)。◆このイノベーションにはパターンや習性から見られる規則性がある。他方、旧来の秩序や方針、収益源泉の破壊を必須とする。◇ケインズはアニマル・スピリット(野心的意欲、血気盛んなど多義的)のイノベーションにおける重要性を知悉。なお近時、行動経済学やニューケイジアンの立場からこれを再評価し、経済学の枠組みに組込む動きがある(ジョージ・アカロフやロバート・シラー)。
◇イノベーションの重要な要素として①科学的合理主義の採用。②私有財産制。③特許など知的財産権の制度的・実質的保障。④長期的な技術成長戦略。⑤資金融通の容易さ。⑥有限責任制。◆問題点は既存秩序の破壊。①過去の成功要因ないし帰結の利用・活用を阻害(従来製品の製造用機械設備の破棄・陳腐化)。②新規参入による旧来企業の淘汰・駆逐。◆以下、備忘録。◇産業革命、つまりワットの蒸気機関の発明が典型だが、ただ実際は、ワットの開発製品は使い物にならなかった。軽量かつ強い強度、耐久性と加工が容易な金属を要したからだ。
ただ、これが世に出たことで改良、改善の契機となり、結果として蒸気機関はあらゆるところで利用され、加速度的に波及し、イノベーションを促進していった。特許の意義(=技術進歩を秘伝とせず、改良・改善を促す)も実はここにある。◇蒸気機関(蒸気タービン)による集中的発電から個別工場や家庭毎の分散型発電へ。◆日本の高度成長につき、MITのロバート・ソローの高度成長論に従うと、①労働投入量、②資本投入量、③全要素生産性(Total Factor Productivity TFP。イノベーションの代理変数)が全て要因に。
◇ところが、オイルショック以降(失われた20年の始まりよりもさらに20年前)には、③TFPの影響が喪失。①の影響も増加率が徐々に逓減。結局、②のみ。◇失われた20年。ここでは、②の配分効率の悪化が顕著に。その要因は、(1)銀行(間接金融)における健全性基準の強化(貸し剥がし)。(2)間接金融における資源配分の硬直性=健全性毀損・破綻回避、先送りへのインセンティブ(追貸し)。(3)高リスク分野における、直接金融の制度的・心理的限界、未成熟。(4)イノベーション喪失に伴う、直接・間接金融の投資先消失。
◆世界に比し、日本のイノベーションの弱い分野。①医療・医薬・医療機器。②ソフトウェア、映像・音声。③宇宙・航空技術。その上で、日本が破壊的イノベーションを生み出したかという点についていうと無きに等しいと評価されている。何れもキャッチアップ型、改良型・累積型とされるもの(例外はソニーのウォークマンとミニディスク。なおソニーのトランジスタラジオもこれに近いが、オリジナルは米国)。◇では何故そうなのか?。日本の経営・就業スタイルが、ゼネラリスト、集団主義(ただし米国が集団主義ではないという言説は誤りと)にある。
そして、これに伴うベスト・プラクティスへの抵抗力の強さにあると。しかも、経営資源・労働力の流動性の低さが、企業の「老齢化」(経年毎に総資産利益率(ROA、Return on Assets)、特に収益性の低下)を速めてしまう。◇とはいえ、著者は米国流の雇用の流動化を進めるべきだとしているわけではない。これは社会的負担が大きく、全体的な効率性を下げることになるからだが、ここで著者は、東洋紡の例を出し、新規事業の立上げの意義と、これに際して、従業員の社内ないし社外での再教育と配転の意義も提起している。
ただし社会的負担ももう少し増大させた上で、流動性を現状よりは高める政策も検討課題とすべきだともしている点には注意が必要。ここで雇用の流動性に関し、70年代以降、日本の労働者の流動性が米国に比して低いわけではないという事実には注目すべきである(米国労働者の流動性低下傾向とも相俟ってではあるが)。◇自己責任論の問題。①自己責任論=社会的支援のない社会では、野性的イノベーションに取組まず、予測可能な範囲での(つまり非破壊的)イノベーションに留まる。結局、自己責任論の強調はイノベーション施策としては下策に堕す。
②自己責任論を正当化する前提としての機会の平等が担保されない。③②は特に、経済・社会・競争環境の変化が著しく、将来像はもとより、今ある立ち位置すら判然としない中では、自己責任をタテに放置することは、社会全体としての能力の地盤沈下と共に、剥落させられてしまった人々の意欲(野生化)を阻害してしまう。◆研究と企業・大学について。①基礎研究に関し、元来、企業はさほど負担はせず(日米とも研究開発費全体の7%程度)。②大学では、米国は65~70%。ところが日本は72%あった1975以降、55%前後までに比率激減。
③国全体の研究費用支出割合につき、日本では国負担分は20%を割り込んで、国際的に見て極めて低い水準。