393頁。エリツィン政権の柩に最後の釘を打ち込んだのはチェチェン問題だった。チェチェンでの惨敗はエリツィンと多くの政治階級の間の決定的な分裂を引き起こした。この階層は特に軍と治安機関のエリート層で、シロヴィキ(武力を持った連中)として知られていた。399頁。世論調査によると、民主主義者に失望した後でロシア人は秩序を望んでおり、自由を犠牲にしても、独裁的な人物でも辛抱する気でいた。厳格で無表情、酒は飲まないプーチンは、酒盛りが大好きで無鉄砲なエリツィンとは極めて対照的で、ロシア人は強力な指導者を望んでいた。
428頁。膨大な石油埋蔵量と1998年のルーブル切り下げのおかげで、ロシア経済は急成長し始めた。西欧型改革派は、新興中流層が民主主義と市民社会のための砦となることを期待したが、その反対にロシアは独裁と権威主義体制になってしまった。収入の増加はリベラルな価値観をどんどん受け入れていくはずだったが、全く逆の方向へと進んだ。新中流層は自分たちの幸運はプーチンのおかげであり、彼らがプーチンとの間に結んだと信じた社会契約のおかげであると思いこんでいた。中流層は収入増と引き換えに自分たちの自由を投げ出したのである。
473頁。プーチンがロシアで最高権力者であることは疑問の余地がないが、支持者たちがイメージする絶対主義的皇帝とか、彼の誹謗者たちが口にする独裁的専制君主といった意味での権力者でないことは明らかだ。オリンポス山の王座に座っているのではなく、現代版大貴族の集合体の上に座しているようなもので、彼らは資産、政策、甘い汁をめぐって絶え間ない争いを繰り広げている。かつてのソ連共産党政治局の現代版のようなもので、決定は各メンバーの合意か、有力利益団体の力のバランスによってなされている。
492頁。08年春に合衆国はジョージアとウクライナをNATOに加盟させる行動計画が検討されていることを明かし、ロシアの友邦セルビアから分離独立したコソヴォを国家として承認した。ロシアにとっては元のソ連邦所属の共和国のうち、バルト三国以外の地域がNATOの加盟国になることは許容範囲を超えていた。この地域、特にジョージアとウクライナにおいては、1945~47年の東欧の状態に逆戻りしようとしているように見えたのだ。モスクワ・カーネギーセンター所長のトレーニンによれば、両国は「新たな冷戦の獲物であり標的だった」。
538頁。ゴルバチョフはクリミア併合に賛同で、これは彼の持論だった。ゴルバチョフはクリミアをウクライナに割譲したフルシチョフの独断に怒った一人だったのである。540頁。プーチンがウクライナに仕掛けた戦争は、欧米側からは「ハイブリッド戦争」と呼ばれる。クリミア侵攻とドネツク他のウクライナ東部侵攻に際して、プーチンはロシア軍の関与を否定、「軍服などアーミーグッズの店ならどこでも買える」と言い放った。基本的には、ゲリラ戦闘やサイバー戦争その他を混ぜ合わせ、侵略の意図を曖昧にするやり方を「ハイブリッド戦争」と呼ぶ
ところが、ロシア側に言わせると、「情報錯乱」と「欺瞞」を基本戦略とするこの手法は、アメリカ始発だという(ロシア軍参謀総長ヴァレリー・V・ゲラシモフ将軍)。この「ゲラシモフ・ドクトリン」は、2000年代に頻発したジョージアの「バラ色革命」やウクライナの「オレンジ革命」などの「カラー革命」、さらには「アラブの春」などが米側使嗾によるもので、その戦略の究極の狙いがロシアの友邦を突き崩し、ひいてはロシアを転覆させることだとしている。
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393頁。エリツィン政権の柩に最後の釘を打ち込んだのはチェチェン問題だった。チェチェンでの惨敗はエリツィンと多くの政治階級の間の決定的な分裂を引き起こした。この階層は特に軍と治安機関のエリート層で、シロヴィキ(武力を持った連中)として知られていた。399頁。世論調査によると、民主主義者に失望した後でロシア人は秩序を望んでおり、自由を犠牲にしても、独裁的な人物でも辛抱する気でいた。厳格で無表情、酒は飲まないプーチンは、酒盛りが大好きで無鉄砲なエリツィンとは極めて対照的で、ロシア人は強力な指導者を望んでいた。
428頁。膨大な石油埋蔵量と1998年のルーブル切り下げのおかげで、ロシア経済は急成長し始めた。西欧型改革派は、新興中流層が民主主義と市民社会のための砦となることを期待したが、その反対にロシアは独裁と権威主義体制になってしまった。収入の増加はリベラルな価値観をどんどん受け入れていくはずだったが、全く逆の方向へと進んだ。新中流層は自分たちの幸運はプーチンのおかげであり、彼らがプーチンとの間に結んだと信じた社会契約のおかげであると思いこんでいた。中流層は収入増と引き換えに自分たちの自由を投げ出したのである。
473頁。プーチンがロシアで最高権力者であることは疑問の余地がないが、支持者たちがイメージする絶対主義的皇帝とか、彼の誹謗者たちが口にする独裁的専制君主といった意味での権力者でないことは明らかだ。オリンポス山の王座に座っているのではなく、現代版大貴族の集合体の上に座しているようなもので、彼らは資産、政策、甘い汁をめぐって絶え間ない争いを繰り広げている。かつてのソ連共産党政治局の現代版のようなもので、決定は各メンバーの合意か、有力利益団体の力のバランスによってなされている。
492頁。08年春に合衆国はジョージアとウクライナをNATOに加盟させる行動計画が検討されていることを明かし、ロシアの友邦セルビアから分離独立したコソヴォを国家として承認した。ロシアにとっては元のソ連邦所属の共和国のうち、バルト三国以外の地域がNATOの加盟国になることは許容範囲を超えていた。この地域、特にジョージアとウクライナにおいては、1945~47年の東欧の状態に逆戻りしようとしているように見えたのだ。モスクワ・カーネギーセンター所長のトレーニンによれば、両国は「新たな冷戦の獲物であり標的だった」。
538頁。ゴルバチョフはクリミア併合に賛同で、これは彼の持論だった。ゴルバチョフはクリミアをウクライナに割譲したフルシチョフの独断に怒った一人だったのである。540頁。プーチンがウクライナに仕掛けた戦争は、欧米側からは「ハイブリッド戦争」と呼ばれる。クリミア侵攻とドネツク他のウクライナ東部侵攻に際して、プーチンはロシア軍の関与を否定、「軍服などアーミーグッズの店ならどこでも買える」と言い放った。基本的には、ゲリラ戦闘やサイバー戦争その他を混ぜ合わせ、侵略の意図を曖昧にするやり方を「ハイブリッド戦争」と呼ぶ
ところが、ロシア側に言わせると、「情報錯乱」と「欺瞞」を基本戦略とするこの手法は、アメリカ始発だという(ロシア軍参謀総長ヴァレリー・V・ゲラシモフ将軍)。この「ゲラシモフ・ドクトリン」は、2000年代に頻発したジョージアの「バラ色革命」やウクライナの「オレンジ革命」などの「カラー革命」、さらには「アラブの春」などが米側使嗾によるもので、その戦略の究極の狙いがロシアの友邦を突き崩し、ひいてはロシアを転覆させることだとしている。