普段でも過去を振り返ってみて、偶然の積み重ねによって引き起こされた出来事の成り行きに唖然とさせられることがあるが、本書で著者が生み出したテオドールは、この偶然の出来事を人為的に引き起こす存在だ。ただし、興味深いのは、彼の関心が引き起こされる結果ではなく、その波紋の観察にあるという点。実にユニーク。著者はこれを「偶然の巡り合わせを引き起こすアシスト」と呼ぶ。
本書の失敗は、波紋の広がり具合を遠くから観察することが無常な喜びだというテオドールの告白を、青年イヴァンに打ち明けさせたこと。エピローグに向かって半ば強引に、アルベールから数百万ユーロにつながる鍵を受け取るイヴァン。3年に及ぶ刑務所暮らしの埋め合わせ? あれよあれよとテオドールに導かれるイヴァン。「君は策略の中心」? まさか。これなら、オスカルの娘のクロエを殺さず立ち会わせた方が、より展開に無理がなかったろうに。
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普段でも過去を振り返ってみて、偶然の積み重ねによって引き起こされた出来事の成り行きに唖然とさせられることがあるが、本書で著者が生み出したテオドールは、この偶然の出来事を人為的に引き起こす存在だ。ただし、興味深いのは、彼の関心が引き起こされる結果ではなく、その波紋の観察にあるという点。実にユニーク。著者はこれを「偶然の巡り合わせを引き起こすアシスト」と呼ぶ。
本書の失敗は、波紋の広がり具合を遠くから観察することが無常な喜びだというテオドールの告白を、青年イヴァンに打ち明けさせたこと。エピローグに向かって半ば強引に、アルベールから数百万ユーロにつながる鍵を受け取るイヴァン。3年に及ぶ刑務所暮らしの埋め合わせ? あれよあれよとテオドールに導かれるイヴァン。「君は策略の中心」? まさか。これなら、オスカルの娘のクロエを殺さず立ち会わせた方が、より展開に無理がなかったろうに。