Amazonのレビューは2009年くらいから投稿しております。本の長めの感想は、アマゾンの「荒野の狼」の上記URLをご参照ください。本職は医学部で微生物学・免疫学・神経難病などの教育・研究をしております。現在は大阪在住ですが、アメリカで21年間医学教育・研究をしておりました。職場のURLは以下です。
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また武松の司令官一家皆殺しの場面が、三国志演義に先立つ「三国志平話」の張飛の督郵(とくゆう)一家皆殺し似ていると指摘するあたりは、さすがに演義の全訳も行っている中国文学者の著者ならでは。また秦明の家族が処刑されるように計画した宋江を、“底知れない暗さ”を感じるとし、“他人の家族は未練が残らないように、あっさり殺しておきながら、自分の家族には未練たらたら”と鋭い指摘(p46)。
李逵については、宋江が自らストイックに抑えつけている、破壊衝動や反逆性を体現する分身なのかもしれないと考察(p56)。同じ著者が書いた「水滸縦横談」と比べると、内容は両書で、多少重なっている部分はあり、本書が物語の進行に沿って解説しているので通読に適しておりよくまとまっているのに対し、縦横談は連載したものをまとめたものなので、むしろトピックごとに抜読みに適しておりまとまりに欠ける。
書かれている内容量は、ほぼ等しいと思われ、両者の比較すると、本書に軍配があがる。
なお朱仝を梁山泊に引き入れる際に、朱仝が子守をしていた坊ちゃんを李逵が殺害した件で、本書では「この理不尽な幼児殺害は、とっさに呉用が仕組んだ(p70)」と書かれているが、これは不正確。駒田信二訳の水滸伝によると、呉用と雷横は「すべて宋江明の兄貴があのように命令された(51回)」と朱仝に説明しているし、李逵は「晁・宋ふたりの兄貴の命令でやった(52回)」と語っている。
こういった小さなミスは、本書がもともと、著者と岩波新書の古川義子と岩波書店の井上一夫が語り合った録音テープを古川が整理し著者が書き直したという成立過程によるのではと思われる。
123-230ページは金瓶梅の解説。水滸伝と重なる部分の紹介は、水滸伝のファンには嬉しい(全100回の内、武松は最初の10回と後半の数回に、王矮虎と宋江は84回に、藩金蓮のライバルの李瓶児は水滸伝に登場する梁中書の側妾、また四悪人の蔡京も登場)。金瓶梅の全訳は手に入りにくいということもあり、あらすじを知りたいという人と水滸伝のファンには勧めたい。
231-311ページは紅楼夢を「これを読まずして中国小説を語ることなかれ、さらに中国文化を語ることなかれというほど重要な作品」と紹介(p239)。著者は、「これを超える長編小説は今なお中国で書かれていないのではないか」と解説(p233)。ただ著者の曹雪芹(そうせつきん)が著したのは第80回までで、残りの40回は曹雪芹の構想をもとに高鶚(こうがく)が執筆したため前80回の展開とは矛盾などがあり、この部分は補作と考えたほうが妥当としている(p235)。