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荒野の狼
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荒野の狼
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第1部は、4章からなり、1章は書き下ろし、2章は昭和39年に他書に掲載されたもの、3章は昭和35年の“世界の歴史“に掲載、4章は、昭和57年の季報に加筆したもの。ここでは、老子、荘子、淮南子らの説く”長寿“について、以下のように要約。”死んでしまったとしても、その死後に生きていたときの道が変わりなく滅びずに(失われずに)あると自覚すれば -道の永続性を信ずるなら(=道と一体となる)- 、そこで、真の長生きをとげることができる。(p21)
荒野の狼

論語において”天“や”命“という言葉の使い方を参照することによって科学的に考察すると、”天命“とは、”外から迫る運命的なもの、人力ではどうしようもない、ままならぬ偶然性(自然界中の一種の必然性)(p94-95、p119)“ということ。つまり孔子は(56歳にして失脚した苦い体験から)五十にしてはじめて人間能力を超えたままならぬ偉大な運命の力を知り、人としての限界を自覚する段階に至った(p97)。これは、一般に理解されている、”天命“=”天職“(朱子学の思想、p137-138)とするものとは、まったく異なる。

11/14 21:51
荒野の狼

論語には、”天命”の“内的な徳命としての用例“はひとつもなく(p97)、こうした捉え方は、”中庸”新本から(秦・漢以後、p115)で孔子本人のものではない。この意味で“天命”は、“運命をわきまえる”“人生には良いこともあれば悪いこともあるのだということを自覚する諦めムード”であり(p141)、老荘思想の“道”に近い印象がある。

11/14 21:51
荒野の狼

たしかに、著者は、孔子が、自然的宗教(自然や人間の自然性に宗教性をみる概念)ともいうべき人間存在の本質にふれた立場にあったとはしている(p135)。ところが、一方で、著者は、“生涯をかけて立派な生き方を見出して実践するために、人並み以上の努力を続けた孔子が、単純な運命論者であるわけがない(p142)”と熱く語る。

11/14 21:52
荒野の狼

次の著者の結論は、何事も運命と諦めてしまいがちな現代人に勇気を与えるもの。“天命によって阻まれることはあっても、人間の正しい努力を支持してそれに対する正当な報いを保証するのが天の必然たという信念、楽天的な心情、それが孔子の思想を運命的なペシミスティックなものにはしないで、明るい人間的なものにしている(p133)。

11/14 21:52
荒野の狼

第3部の1章は、昭和26年に”文化“に掲載された論文で、2章は昭和44年に”高校資料―社会“に寄稿したものを修正したもの。荀子の”礼が人の欲を養う“ということの解説。まず、”‘物’はすなわち対象物の不足のために欲望がゆきづまって否定されることにならないように、また人の欲望にまかせた奪い合いのためにその対象物がとりつくされてしまうということにもならないようにして、欲と物とが互いに平衡を保って増進されることになる、そうした状態をもたらすために礼が定められた“としている。(p179)

11/14 21:53
荒野の狼

ここでは、”礼“は、単なる外的な規範ではなくて、逆にそれを守ることによってこそ秩序がえられ和合に導かれるものである。礼は、人間の心情を離れて存在するものではなく、内的な人間の心情に従って調節してゆくべきもの(p184。礼をほどよく調節することも人情の自然に適う)と解説される。

11/14 21:54
荒野の狼

最後に、著者は、”欲望の無限性が人間の文化に進歩を与えてきた事実を思うならば、それはまた人間に与えられた神聖な能力であるともみられる(p189)”としている。資本主義と和を尊ぶ日本人には、“礼“が、現代社会で”欲“に対して果たしてきた理論として、頷けるところ。

11/14 21:54
荒野の狼

以下は金言。 真実の智は、己れ自身を知ること。真実の強とは己れ自身に勝つこと。満足を知ることが本当の富み。努力して何かを行っているそこに志、すなわち目標がすでに得られている。(p15) たとえ人としての生を終わって死に入っても、滅びることのない永遠の道と一体になっている人こそは、まことの長寿者である(p22)。 死を懼れるとき、はじめて生命をいとおしむ心がおこる。(p32)

11/14 21:54
荒野の狼

自らの才能の有無をことさらに問題にするなどは、愚かなことである。時の推移とともに変化して、一つの立場に執着するような態度をとらないのがよい。(p41) 世俗的な見解に従って安楽を求めることの愚かさ。世俗的な安楽をのり越えた至楽活身を求める。(p46) 真人は、悠然と去り、悠然と来るばかり。(p53)

11/14 21:55
荒野の狼

”その道を尽くして死す(孟子)”:道徳に精進してこそ正常な運命の受け方であるが、人生をなげやりにして獄死するようなことになれば、それも運命には相違ないが、正しい受け方ではないというのは、人力を超越した運命の存在を強く意識しながら、しかもそれに屈服しないで人としての主体性を保持してゆこうとする、たくましい叫びである。(p102) 不幸な事態は、人間が何よりも自らのあり方の限界を知らないところから来ている(単純な思い上がった人間中心的な歩みの危険性)(p111)

11/14 21:56
荒野の狼

天の性格の一面をわきまえながら、しかもなお天の必然的な秩序への信頼を失わない立場(p124) 伸びようとする”本性”と、それを阻む”運命”とのどちらもが、共に同じ一つの”天”から生じている(p145)

11/14 21:56
荒野の狼

”天”という人間の力を越えた大きな存在によって、自分が枠づけられているということは、同時に自分の分際(ぶんざい)を与えられているのだ。この分際は、現実のあるがままの自分ということだけではなくて、あるべき自分というものをも含んでいる。つまり、そのことにおいて、自分がそれに近づいていくという努力が当然ともなわなければならない。それもやはり、運命づけられている。(p153-154)

11/14 21:56
荒野の狼

”天を怨みず、人を尤(とが)めず”。孔子は”運命”をもたらしたと考えられる”天”を怨まなかった(p157、159) 努力の結果がどういうことになろうと、それはそれでやむをえない。(人間は)ちっぽけな存在だからしかたがない。それを、人間どうしの小さい背比べで他人を羨んだり、世間を恨んだりするのは、愚かなことです。(p165)

11/14 21:57
荒野の狼

欲望は無限に我々を駆り立てるが、我々の能力には限りがあるというところに不幸が生まれる。欲望は事実幸福をもたらしもするが、また不幸をも伴うものであろう。(p169) 孔子において最上のものとされた道は、仁とか忠恕という言葉であらわされるような本来人情の自然にもとづいたもの(p170) (荀子は)欲望が否定することのできない人間本性であることと、その無限性とを認めた(p173) 荀子自身の天に蔽われない立場:人間はここに”天”の拘束を離れ、それとならび立つ自由独立の世界を得た。(p176)

11/14 21:57
荒野の狼

道家の”無為無欲”が、ついに法絶対主義による人間性の否定という法家思想にまで導かれた。その結果は欲しいものも欲しいとはいえないみじめな偽善者を生むこととなる(p176-177)

11/14 21:58
荒野の狼

真の幸福な人間世界は、欲望の肯定と調和の上にこそ築かれなければならない。その調和は人間の歩みを止めるような静止的な進歩のないものであってはならない。欲望とその対象物とが調和的な関係を保ちながら互いに増進せられるというすがたは、幸福を想う心にとって理想的な世界像である。そうした世界を実現させるのが礼。礼儀の現実の機能は、まず”分”である。(p179)

11/14 21:58
荒野の狼

礼とは貴賎に等級あり、長幼に差異あり、貧富軽重にあらしめるものだ。各人は礼儀に従い、それぞれの”分”を知り、その”分”に安んずるなら、そこに不足を感ずるわけがない。(p180) 現実の身分社会に屈服した欲望は、結局そのわく内での自由を許されるに止まる(が、社会秩序を維持する必要からその制約を説いている)。(p181)

11/14 21:59
荒野の狼

善美をつくした礼制は人間の感性的な欲望にも合致する。しががって、それは単なる外在として、人情の自然な欲望と無関係に形式的な”分”を行うものではない(礼制が人情と合致している)。(p181-182)

11/14 21:59
荒野の狼

法家の説く法は人によって定められたものが人を否定する性格を持ち、個人の心情の如何とは無関係に一定のきまった形式的結果を要求するのに対して、荀子の礼は人への信頼を持ち人の参与をまってこそ完全に実現されるものであり、うらなる心情をきまった仕方で表現することが要求される。人によって生命を与えられない礼は、”唯だ法(のっと)らしめて説かざる” 死礼にすぎない。(p182)

11/14 22:00
  • 魅乃乎minoco19860125
荒野の狼

形式的装飾性と実用的人情面が並行してまじりあっているのが、礼の中庸を得たもの。外面的形式的な装飾性と、内面的な素朴な人情そのものとが、ひとしく礼の要素として認められる。(p183)

11/14 22:00
  • 魅乃乎minoco19860125
0255文字
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読書データ

プロフィール

登録日
2020/04/18(1805日経過)
記録初日
1984/08/04(14846日経過)
読んだ本
1401冊(1日平均0.09冊)
読んだページ
326202ページ(1日平均21ページ)
感想・レビュー
1401件(投稿率100.0%)
本棚
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現住所
大阪府
外部サイト
URL/ブログ
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自己紹介

Amazonのレビューは2009年くらいから投稿しております。本の長めの感想は、アマゾンの「荒野の狼」の上記URLをご参照ください。本職は医学部で微生物学・免疫学・神経難病などの教育・研究をしております。現在は大阪在住ですが、アメリカで21年間医学教育・研究をしておりました。職場のURLは以下です。
https://www.med.kindai.ac.jp/microbio/

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