読書メーター KADOKAWA Group

2024年6月の読書メーターまとめ

パトラッシュ
読んだ本
34
読んだページ
11007ページ
感想・レビュー
34
ナイス
7461ナイス

2024年6月に読んだ本
34

2024年6月のお気に入り登録
3

  • たろーたん
  • 倫敦バス
  • えんちゃん

2024年6月のお気に入られ登録
14

  • kratter2
  • toto
  • たろーたん
  • 風香 
  • 桜子七
  • りざーどん
  • しまきりん
  • ぴなもん
  • ちびbookworm
  • よみとも
  • と
  • イナ
  • TS10
  • Schunag

2024年6月にナイスが最も多かった感想・レビュー

パトラッシュ
第一作はノンミステリ作品だったが、続編の本書は強盗傷害事件の犯人探しが核となっている。かなわぬ願いを抱えた事件関係者が、クスノキに引き寄せられるように神社へ集まってくる。その中心に位置することになった玲斗は、千舟の病に気を取られながら皆を助けようと動く。前作同様に本物の悪人は登場しないので犯罪心理小説とまではいかないが、不器用にしか生きられない人びとを結ぶクスノキの力で鬱屈を解き放たれて真相が明らかになる。迷い人に生き方を見つけさせるクスノキが、すべての人を幸せにする絵本をもたらすドラマは美しくも温かい。
が「ナイス!」と言っています。

2024年6月にナイスが最も多かったつぶやき

パトラッシュ

トランプ前大統領に偽証裁判で有罪評決が出たが、岩盤支持層には全く影響がないとの点で衆目は一致するという。なぜそこまで彼は支持されるのか。トランプの剛腕でなければ自分たちが絶望している社会をぶち壊せないと、米国民の半分は感じているからではないのか。2024年5月の読書メーター 読んだ本の数:36冊 読んだページ数:10810ページ ナイス数:7397ナイス ★先月に読んだ本一覧はこちら→ https://bookmeter.com/users/1009613/summary/monthly/2024/5

トランプ前大統領に偽証裁判で有罪評決が出たが、岩盤支持層には全く影響がないとの点で衆目は一致するという。なぜそこまで彼は支持されるのか。トランプの剛腕でなければ自分たちが絶望している社会をぶち壊せないと、米国民の半分は感じているからではないのか。2024年5月の読書メーター 読んだ本の数:36冊 読んだページ数:10810ページ ナイス数:7397ナイス  ★先月に読んだ本一覧はこちら→ https://bookmeter.com/users/1009613/summary/monthly/2024/5
が「ナイス!」と言っています。

2024年6月の感想・レビュー一覧
34

パトラッシュ
第一作はノンミステリ作品だったが、続編の本書は強盗傷害事件の犯人探しが核となっている。かなわぬ願いを抱えた事件関係者が、クスノキに引き寄せられるように神社へ集まってくる。その中心に位置することになった玲斗は、千舟の病に気を取られながら皆を助けようと動く。前作同様に本物の悪人は登場しないので犯罪心理小説とまではいかないが、不器用にしか生きられない人びとを結ぶクスノキの力で鬱屈を解き放たれて真相が明らかになる。迷い人に生き方を見つけさせるクスノキが、すべての人を幸せにする絵本をもたらすドラマは美しくも温かい。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
日本史上の文学的知名度で言えば歌人なら西行、俳人なら芭蕉が首位を占めるだろう。両者は武家に生まれながら家を捨て、旅に人生を送りながら優れた歌や句を残したことが共通する。金も名誉も家族も持たず自分の足で歩き続け、漂白の空に芸術を追求した生き方が敬愛されてきた。とりわけ出家した西行は旅路で仏道と歌道の修行を重ね、仏の教えと戦乱の続く世相を詠み込んだ歌に最高の表現を見い出した。彼の歌と生涯の関わりを丁寧に解きほぐし、静謐な心境にたどり着く姿が日本人の心をとらえるのだ。教養と無欲と信仰に生きた「フーテンの寅」か。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
幕末から明治初期の政治的重大事件は、いずれも国際外交と深い関係があった。徳川慶喜はシャーマン号事件で緊張するアメリカと朝鮮の関係を仲介しようとしたが、外交権奪取を図る薩長は王政復古の大号令を出した。書契問題で揉めた新政府の対朝鮮外交には、アメリカの外交官が助言を与えていた。岩倉使節団派遣中の留守政府は、戊辰戦争を戦った帰還兵が暴発するのを恐れ朝鮮と台湾への外征論に傾斜し明治六年政変につながる。政治が武士以外にも解放された公議の時代だからこそ、内政の不満を外交に転嫁する政治手法が成立する様子が浮かび上がる。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
永田鉄山の言葉「陸軍に於ける平時業務の大部分は教育である」を体現していたのが鈴木庫三ではないか。茨城の貧しい小作人が死ぬほど勉強して士官学校に進み、立身のため学ぶことの難しさを熟知する男が教育将校になったのだから。ただ苦学力行の人にありがちだが自分に強烈な自信を持ち、努力を怠ったり都会のエリート然とした者を許せなかった。彼らより筆も弁も立った鈴木に反論できなかった新聞出版関係者は、戦後すべての罪を鈴木個人になすりつけて自らの正義を宣伝したのだ。「ペンは剣よりも強し」というが、ペンが武器の兵士に勝てるのか。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
『砂の器』ほど繰り返し取り上げられ、様々な機会に上映される映画はない。幼い頃に撮影を目撃した著者が、舞台となった木次線沿線の歴史を掘り下げる本を出せたのも、関係本は何でも読みたいファンが今も多いからだろう。私もそのクチだが、島根へ取材に来なかった清張が読売新聞の支局網を使って情報を集めたり、算盤メーカー社員に作中の出雲弁の監修を頼んだとは初めて知った。また緒形拳が地元の宴会に参加して出雲弁を覚えたり、エキストラとして参加した人の話を読んでいると、あの父子の旅路のシーンが深く心に刻まれているのだと痛感する。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
油絵を扱ったバルザック『知られざる傑作』では、カンヴァスに分厚く塗り重ねられた絵具の洪水が不可解な絵画を生み出してしまう。逆に修正がきかない水墨画は、画家は線ひとつでも絶対に失敗は許されず白い紙の前で立ち尽くす。その「どこまで描けばよいか」を決断できず揮毫会を失敗した霜介は、水墨画家としての自信を失ってしまう。弟子の苦悩を的確に把握した師匠の湖山は、様々な経験を重ねさせ迷いを払拭させようとする。別荘での制作から湖山の引退揮毫会まで描き続けるシーンの連続は、至高の境地を得た芸術家の圧倒的な輝きに満ちている。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
山田風太郎『地の果ての獄』と同時期の樺戸集治監で展開する人間ドラマ。明治史の暗黒面を象徴する場所で青年看守の成長物語に仕立てた山田に対し、本作で描かれる受刑者や看守の愚かさや狂気、ほとんど動物と化した群像劇は『死の家の記録』に近い。そんな面々に囲まれた瀬戸内巽が家族や恋人に裏切られても絶望せず、生き抜こうとする強靭な意志が物語を支える。一方で希望なき現実に苛まれる看守の中田も、巽と同じほど感情を殺すことで正気を保とうとする。そんな2人が脱走者の探索で、初めて互いの真実を知るラストは地獄の底の美しさに輝く。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
航空機上から四国を見下ろすと、険しい深山幽谷の地なのがわかる。人の足でしか動けない時代には、平家の落人伝説が各地に残るのも当然だろう。承久の変に敗れ隠岐に流される後鳥羽院のため壇ノ浦に没したとされた天叢雲剣を求め四国の山々をさまよう男女3人の旅路は、様々な人の運命を巻き込み狂わせながら、稀代の名刀工と謳われた菊一文字則宗誕生の秘話へとつながっていく。神剣とはモノではなく文字通り神の遣わした剣であり、どこにあろうとも国を守る存在だと誰もが悟るのだ。欲望の渦巻く俗世から超越した、本当の神とは何かを問いかける。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
明快なテーマを追求していた著者の過去の室町本と比べ、週刊誌の連載コラムをまとめた本書は軽量級のトリビア本か。ただ真正面から歴史を論じる本ではまず取り上げられない怪異な噂や伝説、嘘みたいな事実やほとんどオカルトな伝承など、よほど歴史の裏に通じているかトンデモ話大好き人間しか知らない話が満載だ。宗教の暴力の実情や権力者の栄枯盛衰、なぜこんなことに命を賭けるかと思える事件に名もなき庶民や芸人の武士への反抗など、ハチャメチャな人の愚かさ丸出しエピソードが実に楽しい。神田伯山が新作講談として演じたら人気になるかも。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
昭和の頃は映画やドラマの撮影現場で女優を脱がせることのできる監督が評価されていた。完全な男性優位社会であった映画界の空気だろうが、今時そんな人はやっていけず代わりに登場したのがインティマシー・コーディネーター(IC)というわけだ。映像での性描写を全員が納得して行わせる専門職が必要とされるほど時代は変わったのか。しかし未だに変化に対応できず、古い考え方に執着する人が絶えないらしい。相手の考えを尊重したり同意を得るのは面倒だが、その軋轢を少しでも解消するためICの存在が不可欠になった世の変遷を痛感させられる。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
よく「誰それが築いた城」と言われるが江戸城は違う。家康から秀忠、家光まで三代30年をかけて、徳川氏単独でなく天下普請により日本最大の城が建設されたのだ。そんな江戸築城の歴史を地形から土地の造成、石垣造りや惣構まで土木技術の側面から跡付けていく。城の縄張から周囲の大名屋敷配置まで、徳川の権威を目に見える姿とする新首都建設の全貌を明らかにする。のみならず堀や上水道整備、度重なる地震や火事からの復興、施設の維持管理まで城下町の都市計画が見えてくる。江戸は城郭を中心に構築された計画首都であったと再認識させられる。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
末端の鎌倉武士は国全体など考えず、家の栄光と領地拡大に狂奔した。特に承久の変で没落した河野家では、一族内の分裂と自分たちの優位を図る陰謀が相次ぎ滅亡の淵にあった。数々の悲劇をくぐり抜け大国の犠牲となった令那と繁に感化された河野通有には、国難である元寇も自分が経験してきた無駄な殺し合いの拡大版にしか思えなかったのだ。だからこそ弘安の役で手柄を立てながら、休戦を呼びかけたり敵兵を殺さず救うなど武士らしからぬ行動をとり続けた。知識人としての武士が最前線で戦うという、カタルシスに乏しい複雑な戦争ドラマを描き出す。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
明治における言文一致体の成立こそ、近代文学史上最大の事件だろう。文学史では坪内逍遥と二葉亭四迷に功績を帰しているが、実際は新しく導入された速記術で落語を読めるようになったのが大きな理由だったとは。速記による落語の記録が本や雑誌として出版されると、庶民は急速に口語体の文章に慣れていった。演芸に親しんでいた江戸っ子の夏目漱石にとって、自分が小説を書くには言文一致のほうがやりやすかった。従来ほとんど知られてこなかったのは、研究者にとって最も重要な文体が速記や落語の影響下で改造された事実を認めたくなかったのかも。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
最前線で活躍する若手ミステリ作家5人が「脱出」というテーマに挑んだ競作集だが、各作品とも「なぜ脱出せねばならない状況に陥ったのか」がメーンとなっており題名とは微妙にズレている。「屋上からの脱出」は誰と誰が結婚したのかが謎の中心だし、「名とりの森」と「罪喰の巫女」はオカルトファンタジーの色彩が濃厚だ。「鳥の密室」と「サマリア人の血潮」に至っては、狂気の域にまで達した人間の意思が作り上げた密室の凄まじさを誇るようだ。それぞれの設定の独創性は疑いないが、「十三号独房の問題」のような脱獄ものを1作は読みたかった。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
ブリュメール18日のクーデタはナポレオンによる権力掌握と理解されていたが、実際はテルミドール反動後も政治的社会的混乱を収拾できない総裁政府の無能を見切った勢力が主体であった。特に地方行政や選挙制度で統一システムを構築できず、ふくろう党を始めとする反乱が相次いだ続いたため、穏健共和政派や立憲君主制派は軍事的英雄のナポレオンを担ぎ上げたのだ。強力な中央集権国家建設では一致していたナポレオンとブリュメール派だが、状況が落ち着くと各勢力は再び分裂を始めた。そこを強力に統制するため、第一帝政成立は必至であったのだ。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
有名な戦国武将8人について、今村流の推理で謎とされる側面を分析していく。信長は燃え尽き症候群で本能寺から逃げず、秀吉は汚れ仕事をこなして出世し、家康は人質になったおかげで英才教育を受けられたとは従来にない視点だ。軍事的業績で名高い信玄や謙信だが、むしろ内政面の有能さで国を豊かにした。松永弾正や石田三成を主人公にした作品を書いたのも、有能で人間的魅力があっても不器用な生き方しかできない人物像に惹かれた故か。様々な失敗や錯誤を重ねながら明日を賭けた戦いに果敢に挑み、歴史に名を残した男たちの生き様は熱く激しい。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
題名に偽りあり。2人の女詐欺師の出会いから壮大なコンゲームに発展するかと思いきや、みちるの復讐を藍が手助けする話だとは。その復讐の手段や方法が複雑怪奇で、偶然頼りが目立つなどプロらしからぬ有様。また敵の内懐にもぐり込んでも、相手の家の中で盗聴されるのを考えもせず犯罪計画を大声で議論するなど犯罪者としての自覚に欠けている。しかも後味の悪すぎるラストは、はっきり言って読まなければよかった。川瀬作品はユニークな登場人物が奇妙な道具立てで物語を引っかき回すのが魅力だったが、その全てがあらぬ方向へ暴走してしまった。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
戦争は科学技術を発展させるといわれるが、疫学も同じだ。欧州諸国は植民地での労働力確保のため、大量の黒人を奴隷としてアフリカから移送した。流行病に襲われる原住民に医療支援を行う医師は称賛され、クリミア戦争で負傷兵を看護したナイチンゲールは偉人伝の常連だが、いずれも領土拡張主義がなければ起こらなかった。南北戦争は公衆衛生を広めた反面、アメリカに人種差別を根付かせる一因となった。それによる医学の恩恵を受ける現代人は、犠牲になった無数の人びとに思いを馳せることはない。疑わなかった歴史観を根底から引っくり返される。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
特別地名手配容疑者として17年間も追われながら、啓美の逃亡生活には暗さや悲愴さがない。長く毒母と宗教に囚われた生活を送ってきた女が、頼る者もなく名や過去を偽って暮らすようになり逆に生き生きと過ごす姿はまさしくヒロインだ。おかげで思いがけず大金を得たり、支配者面をしていた両親や教団上位者の惨めな有様を確かめられたのだ。しかも不法滞在者や自殺未遂者だが好きな男を得て子を生んだとは、フィクションにしても出来すぎか。ただ法や警察の鼻を明かして自由に生きる喜びを感じたのは、モデルの菊地直子も同じではと思えてしまう。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
よく考えられた本格ミステリのステーキに、オカルトとユーモアの肉汁が程よくミックスしたグレイビーソースがたっぷりのメインディッシュ。頑固な職人気質の刑事が、よりによって呪い絡みの事件を扱う部署に異動してしまう前菜に続き、娘の結婚したい相手が怪談師というスープが。そんなものいらんと合理的解決のソルベに逃げても、否応なくメインに手をつけざるを得ない。ところが大嫌いなはずの料理を自分で作ると思いがけず好評で、違う違うと叫ぶのも虚しいブラックコーヒーの苦さ。何より語り口の巧みさに食べさせられるフルコース料理でした。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
『まいまいつぶろ』で主従を見守った家重の祖母、老中、息子と忠光の妻子らは、将軍という絶対権力者に関わって様々な喜怒哀楽の嵐に巻き込まれた。家重を見た目で判断した人は痛い目に遭い、その苦しみを悟って心を苛まれる。また家重の明晰さを知った御庭番は、治政を裏から支え名君に仕えた喜びを味わう。光あるところに生まれた影にも人の数だけ思いがあり、生きた証を刻んでいく有様が人生の哀歓を描き出す。上質な外伝として面白かったが、読者としては万里が「勝手隠密」で言及された郡上騒動で家重の密偵として活躍する長編を読みたかった。
エル・トポ
2024/09/25 22:57

私もそちらを期待していました。

まる
2025/01/13 15:21

そのような活躍を期待して本を開いたのでしたのに。かなり残念に思いました。

が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
SFファンタジーの形をとりながら、実は「死とは何か」という重いテーマを追求している。死んだはずの親友が生き返り昔と同じくバカ話できる話が実現したら、みんな大喜びするだろう。けれど彼は教室の声として話せるだけで、最初は楽しんでいた仲間も否応なく死について深く考えざるを得なくなる。ハイティーンの少年にとって相当辛い体験で卒業後は足を向けなくなり、甦った親友は動けない深い孤独に押し込められてしまう。最後まで気にかけてくれた友人の手で山田が本当の死を迎える結末は、人は永遠の生命を得る資格がないと訴えかけるようだ。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
ポーの場合、SFとは現実と空想のスキマに漂う感覚を描く「すこしファンタジー」ではないか。大自然の脅威に人造義肢、精神病院の開放病棟や自動人形など、書かれた当時は魔術か奇想に等しい話をリアルに引き付けてドラマ化したようだ。欧州で発展したゴシックロマンを異質なアメリカの風土で再生させ、隣に存在しているかのように緊張したシチュエーションを再現させる筆力は鮮やかだ。作家の空想した技術が科学の発展で現実化したのはガーンズバックが有名だが、ポーも負けず劣らずだろう。あまりに濃密な世界を書き続けて早逝してしまったのか。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
理系作家の小説では、金欲と物欲と権力欲にまみれた俗物が出てこない。その点が著しい林SFだが、今作でも自分の任務を心得た理系のプロフェショナルばかり登場し、私利私欲を満たそうとする政治家や企業家、他者を支配を図る悪徳官僚や情報を盗むスパイなどの出番はない。この結果、従来は物語は面白いのだが、淡々と話が進み予定調和に終わるパターンが多かったのが、第2巻では海上自衛艦が攻撃を受けたり、異生物に乗っ取られた小隊長が思わぬ場所に出現するなど新しい可能性が芽吹く。これで地球側の政治や欲望と衝突すれば面白くなるのだが。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
『モルグ街の殺人』にある「独創性とは空想的なもので、優れた想像力は分析的なもの」との一節は、ポーのミステリ論そのものだ。デュパンが異常な殺人事件の犯人を突き止め、盗まれた手紙の隠し場所を推理できたのは常識に囚われない分析的想像力の結果だろう。黄金虫に秘めた暗号解読だけで立派な小説が成立すると証明できたのも、誰の真似でもない真の独創的な文学の先駆者たり得たからだ。『群衆の人』のマジックリアリズム的要素や、黒人リンチが普通の時代に『ホップフロッグ』の恐怖は鮮やかの一言。作家のオリジナリティーの高さに納得する。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
「古典部」シリーズの面白さは、脱力系とミステリが独特の語り口で巧みに融合されている点にある。優秀な探偵眼の持ち主ながら省エネ主義者のホータローが、好奇心の塊である千反田えるに背を押されブツブツぼやきながら事件解明に乗り出すお約束がいつも楽しい。そこに里志が知恵を出し、煮詰まると摩耶花が引っかき回す掛け合いは、ほとんど4人組の漫才そのもの。未完のシナリオには何が書かれるはずだったのかという一見くだらない話が、実は高校生らしい友情と若さ故の過ちを認める物語に収斂していく展開は青春ドラマの見本を見ているようだ。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
創元推理文庫版『ドラキュラ』の解説にある作品が書かれた経緯を小説化している。ブラム・ストーカーが傲慢な天才俳優アーヴィングに振り回されながら、様々な経験を重ねて名作を発表するまでを虚実取り混ぜたドラマに仕立てた。世紀末ロンドンやダブリンの演劇界や切り裂きジャックの跳梁、ストーカーの私生活などは確かに面白いが、そちらが主となって吸血鬼物語誕生プロセスはほとんど描かれない。特にアミニウス・ヴァンベリとの出会いや執筆中の状況など最も関心のあった部分は全く触れられず、題名通り意味不明な影絵芝居を見せられた気分だ。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
収録の小説3作は未単行本化の理由がわかる。表題作は長編の前半部分のみ発表し、後半が書かれず尻切れトンボに終わった感だ。本来なら会話体になる部分が地の文のままだったり説明記述が多く、書きかけの作品を強引に掲載してしまったのでは。「よごれた虹」と「雨」も短編として成立してはいるが、長編向け素材を無理に短くまとめたようだ。むしろ資料編で「現代文学の行き詰まりを打開する方法としての推理小説」を提唱したり、志賀直哉を「才能がない」と公言するなど刺戟的発言が多い。自分は単純な娯楽小説作家ではないとのプライドがにじむ。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
古代ローマの共和政から帝政への移行については塩野七生さんの本でひと通り知っていたが、征服される属州側からの視点は欠けていた。征服地を植民地として地元民を弾圧し退役兵に農地を分配しながら、政治的には一方的な支配構造を変えようとしなかった。小さな都市国家に過ぎなかったローマが周辺を切り従えて領域を拡大しながら、政治制度の固守を望んだのが問題の根源と理解できる。同様の事態は近代の植民地でも見られ、南米やインドの支配体制を思い起こさせた。自らを変革できない国は大きくなれないとは、人類の歴史で繰り返されてきたのだ。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
単純に殺人という言葉ではくくれない。英国で近代的法制度が整備されてきた過去3百年を振り返り、殺意の有無に正当防衛か否か、暴力や挑発への反抗、狂気の判定など事件の理由で分類され、この罪にはこの罰という罪刑法定主義が定着されるに至ったのかを跡付けていく。伝統を重視する国柄とされるが、「正しい裁き」を求める社会の思いを議会や政治が受け止めて法改正を重ねてきたのだ。現在、最も議論されているのは企業が原因の事件を罪に問えるかであり、鉄道事故など同様の案件を抱える日本にも法の未来を考える上で重要な示唆を与えてくれる。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
ネタバレコロナ禍で顕在化した貧困問題に仲田・真壁コンビが挑むドラマだが、正直コロナの関わりは薄い。プライドばかり高いが生活無能力者である野原父こそが諸悪の根源であり、彼の愚かな正義感が娘をはじめ周囲に迷惑や悲劇をまき散らす。他者を痛めつけるのが正しいと信じる彼がいなければ、多くの人の苦しまずに済んだ。その意味で昔から繰り返されてきた、男の身勝手に振り回される女子供の悲劇を描く正統派の家族劇といえる。不要な苦しみを味わう子らを想像力で温かく見守る仲田の優しさが、社会に絶望する一歩前で救いのカタルシスをもたらすのだ。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
当たり前のように食べてきた豆腐だが、これほど深い歴史があるとは思わなかった。前漢期の中国に誕生して平安日本に伝来し、室町には庶民の口に入るようになる。江戸時代には各地に名産地が生まれ、豆腐料理が広まるまでを豊富な史料と絵図で辿っていく姿は読んでいて楽しい。特に様々な種類の豆腐が考案され、専門料理本『豆腐百珍』が刊行されるほどの人気になる部分は、外国の食材を取り込んでしまう点で洋食の先駆にも思えた。町の豆腐店が消えてスーパーで買うものになってしまった豆腐だが、下手なサプリよりよほど重要な健康食品ではないか。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
数十年ぶりにポーを真剣に読み直して、その真骨頂は圧倒的な描写力にあると再認識した。本書収録の6短編では、破滅に至るまでの状況と追い詰められた男の心情が強烈な迫力で描かれていく。死体を壁に塗り込めたり、拷問の恐怖に苛まれたり、滅びゆく家系に屋敷までも運命を共にする物語を夢中になって読ませるのは、情景をありありと再現させる文章の力あればこそなのだ。作家の真の実力は純文学やSF、ミステリなどジャンル分けでなく、読者の心をわしづかみにできる筆力の有無に尽きる。その点でポーは、世界文学の最高位を要求する資格がある。
が「ナイス!」と言っています。
パトラッシュ
(承前)各チームの監督が全国からスカウトしたエリート選手しか、箱根駅伝を走る資格はない。そんな彼らやテレビ中継担当者にとって、新人監督率いるバラバラの戦力でしかない学生連合など問題外だった。しかし見下された側も黙っておらず、戦い方を工夫することで勝利へのピースがはまっていく。仲間と共に走れなかったからこそ、唯一の機会に全てを賭けた選手と監督の意地が大人の事情を覆すドラマを生む。華やかな箱根の舞台裏には様々な問題があるとは多くの指摘があるが、青春を燃焼し尽くした激走の前には一切を忘れて圧倒されてしまうのだ。
が「ナイス!」と言っています。

ユーザーデータ

読書データ

プロフィール

登録日
2019/05/20(2102日経過)
記録初日
2019/05/20(2102日経過)
読んだ本
2246冊(1日平均1.07冊)
読んだページ
730928ページ(1日平均347ページ)
感想・レビュー
2246件(投稿率100.0%)
本棚
9棚
性別
現住所
千葉県
自己紹介

人間の友人はほとんどいませんが、読書だけに浸っていれば満足している変人です。いい年なのに独身ですが、下手に家族を持ったらため込んできた本を捨てられそうで婚活もしていません。私のような存在が少子化の元凶かもしれませんが、知ったこっちゃありません。もし読書を禁止するような政府が成立したら、命を賭けて戦う覚悟だけはあります。

読書メーターの
読書管理アプリ
日々の読書量を簡単に記録・管理できるアプリ版読書メーターです。
新たな本との出会いや読書仲間とのつながりが、読書をもっと楽しくします。
App StoreからダウンロードGogle Playで手に入れよう