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2024年10月の読書メーターまとめ

無重力蜜柑
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感想・レビュー
9
ナイス
241ナイス

2024年10月に読んだ本
9

2024年10月のお気に入られ登録
1

  • ナハチガル

2024年10月にナイスが最も多かった感想・レビュー

無重力蜜柑
非常に面白い。ソ連時代から今日に至るまでロシアを支配し続ける諜報機関。その歴史、組織、技術を詳細に分析して「諜報国家」としてのロシアを描き出す。日本語でここまで詳細にKGBやFSBを論じた本は少ない。貴重な成果だ。特にロシア諜報機関の世界観やイデオロギー、政治技術を取り上げているのが面白い。もっとも、面白いだけでなく現実的な危機と直結した話でもある。あらゆる場所に国家が「遍在」していたソ連が崩壊し三十余年、ロシアは表面上は自由主義に移行した。だがその体制の中核にあった諜報機関網は生き残った。
無重力蜜柑
2024/10/30 21:18

筆者曰く、ロシア体制にとって都合の悪いあらゆる事象に「西側」や「CIA」の影を見ようとするのがチェキストの思考だという。しかし、これと上記の「あらゆる反米的、反体制的言説の影にFSBの影を見る」思考はどう違うのか? 無論、実際にFSBは手段を選ばない諜報をやっているのだろう(その証拠もある)し、こうした懐疑主義や相対主義がロシアに付け入る隙を与えるのだろう。筆者曰く、西側とロシアのメディアの「中間ですら、まだ十分に「嘘」なの」だそうだ。ではロシアによる陰謀とそうでない事象をどのように見分ければ良いのか。

無重力蜜柑
2024/10/30 21:24

筆者はウクライナに残されたKGB資料から本書を執筆したそうである。このように「確実な」情報を当たるのが一つの手段だと言えばそうだが、これは一般人の担える情報コストではない。だいたい、専門のロシア研究者や政治家すら取り込まれるのが実情なのだ。一般人が対処するのは不可能に近いだろう。……このように、陰謀論的な世界観に基づくロシアの手段を選ばない諜報活動は、対処にも一種の陰謀論的な色彩を帯びた容赦のなさを必要とする。この自由民主主義の基盤に対するダメージこそが、諜報国家の最大の脅威だと思う。

が「ナイス!」と言っています。

2024年10月にナイスが最も多かったつぶやき

無重力蜜柑

大学に入ってから記録をつけ始めたが読んだ冊数がようやく重複除いて1000冊を超えたらしい。在学中に1000冊を一つの目標にしていたので感慨深い(大学院で二年ほど延長したが)。内訳はSFが290冊、ラノベが260冊、人社系の書籍が320冊、残り130冊ほどがその他の小説や新書。来年から就職で読む冊数は間違いなく減るだろうが、それでも次は1500冊を目標にやっていきたい。

が「ナイス!」と言っています。

2024年10月の感想・レビュー一覧
9

無重力蜜柑
非常に面白い。ソ連時代から今日に至るまでロシアを支配し続ける諜報機関。その歴史、組織、技術を詳細に分析して「諜報国家」としてのロシアを描き出す。日本語でここまで詳細にKGBやFSBを論じた本は少ない。貴重な成果だ。特にロシア諜報機関の世界観やイデオロギー、政治技術を取り上げているのが面白い。もっとも、面白いだけでなく現実的な危機と直結した話でもある。あらゆる場所に国家が「遍在」していたソ連が崩壊し三十余年、ロシアは表面上は自由主義に移行した。だがその体制の中核にあった諜報機関網は生き残った。
無重力蜜柑
2024/10/30 21:18

筆者曰く、ロシア体制にとって都合の悪いあらゆる事象に「西側」や「CIA」の影を見ようとするのがチェキストの思考だという。しかし、これと上記の「あらゆる反米的、反体制的言説の影にFSBの影を見る」思考はどう違うのか? 無論、実際にFSBは手段を選ばない諜報をやっているのだろう(その証拠もある)し、こうした懐疑主義や相対主義がロシアに付け入る隙を与えるのだろう。筆者曰く、西側とロシアのメディアの「中間ですら、まだ十分に「嘘」なの」だそうだ。ではロシアによる陰謀とそうでない事象をどのように見分ければ良いのか。

無重力蜜柑
2024/10/30 21:24

筆者はウクライナに残されたKGB資料から本書を執筆したそうである。このように「確実な」情報を当たるのが一つの手段だと言えばそうだが、これは一般人の担える情報コストではない。だいたい、専門のロシア研究者や政治家すら取り込まれるのが実情なのだ。一般人が対処するのは不可能に近いだろう。……このように、陰謀論的な世界観に基づくロシアの手段を選ばない諜報活動は、対処にも一種の陰謀論的な色彩を帯びた容赦のなさを必要とする。この自由民主主義の基盤に対するダメージこそが、諜報国家の最大の脅威だと思う。

が「ナイス!」と言っています。
無重力蜜柑
ネタバレ最近昭和の言語SFを立て続けに読んだが、その上であらためて神林長平を読んでみると同時代的な革新性が分かる。「言語が自律的に展開する」という小説観で綴られる物語は思弁的であり弁証法的。既存のサスペンスやSFの枠組みを前提に、言語を道具として使っている同時代の言語SFとは明らかに一線を画する。もっとも、今読んで面白いか否かはまた別の問題だ。彼の小説観に現代的な新しさがないのは否定し難いだろう。それ以上に気になるのが全短編に失恋と倒錯の色が濃いことだ。当時の作者は嫁と上手くいかないかフラれるかしていたのだろう。
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無重力蜜柑
ネタバレ第五回SF大賞受賞作。作者は『ラバ空』で有名な人だが本作は人文系インテリな言語SFでギャップに驚かされる。一九四〇年代の無名のフランス人が書いた詩を巡る架空文学史であり、後世の「呪いのビデオ」に通ずるミーム感染ものでもある。難解な前衛詩ゆえの感染力の低さと、それゆえに却って突発的に社会へ染み出してくる恐ろしさ。こうした言語芸術の持つメディアとしての特性が、過去のフランス、現代の日本、未来の火星を股にかけることでSF的に落とし込まれている。一方、肝心の「時の黄金」のメカニズムは完全にブラックボックス。
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無重力蜜柑
「権威主義」という政治体制について極めて実証的、網羅的に解説した教科書。第二次世界大戦後に成立した数百の権威主義体制をデータベース化し、権威主義についてのあらゆる問いに量的な根拠でもって答えていく。数字に密着した徹底的に「薄い」記述がまさにポリサイという感じ。権威主義というイデオロギー色が強く容易にレッテルに堕す現象を扱うには、こういうスタンスの方が健全だろう。もっとも、プロパガンダや検閲を駆使し私的コネクションで政治を進める権威主義を、量的に研究するのは容易ではない。そうした断りが最初に入るのも好印象。
無重力蜜柑
2024/10/19 20:39

重要なのはどちらも民主主義とは結び付かない点である。共産主義は共産党一党独裁に繋がり、反共主義は軍事独裁に繋がった。そうした権威主義的な小国をソ連も米国も熱心に支援したわけだ。しかし冷戦終結後、事態は大きく変わる。まず東欧を始めいくつかの共産主義国が崩壊し、ついで残った権威主義国に対しても米国を始めとする西側諸国から民主化の圧力がかけられるようになった。軍事独裁のような分かりやすい独裁は維持困難になったのである。こうして権威主義は民主主義に適応していく。選挙や市民団体を統治に取り入れるようになったのだ。

無重力蜜柑
2024/10/19 20:50

これは一面では市民の政治参画の進展を意味するが、それが必ずしも民主化に繋がるとは限らない。現代の権威主義は市民の選好を知り、ライバル集団にもポストを与え、部分的な寛容の姿勢を見せる。それは苛烈な専制という独裁のオールドタイプよりも民主的な体制だが、安定的な権威主義ということでもあるのだ。

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無重力蜜柑
かつて国際関係論において帝国の研究が大流行したことがあった。その起爆剤としては一方にネグリ・ハートの〈帝国〉があり、他方にブッシュ政権を始めとするアメリカ「帝国」の横暴があった。だがこの二つの帝国の意味合いが全く異なるように、その流行はアカデミックというよりはイデオロギー的、消費的なものだった。帝国はゼロ年代のバズワードだったわけだ。そんな帝国概念について、二〇〇六年時点での中間決算を行なおうとしたのがこの本。七本の論文が収録されており、いずれも一種の「帝国論」論、メタ国際関係論のような内容になっている。
無重力蜜柑
2024/10/18 22:04

どの論文も短いながらも知的強度が高く手面白かった。が、流石に今読むと古さはぬぐえない。〈帝国〉論にしろ「帝国」論にしろ、そこではある種の国民国家体制の変容というものがイメージされている。しかし、この十年程度のトレンドはアメリカの相対的地位低下と国家の復権だ。グローバル化は恐らく国家を骨抜きにしないし、一国や一連合が覇権を確立するような未来像も当分見えない。そんな現在から二十年前の帝国論の意義を見つけるとすれば、マルクス主義的な色彩にまみれていた帝国という言葉を使い潰し、徹底的に風化させた点になるだろう。

無重力蜜柑
2024/10/18 22:11

しかし、この時代にはまだ素朴な進歩史観が逆説的に残っていたように思える。「歴史の終わり」史観というか、ポスト冷戦という形で未来に対して補助線を引く姿勢というか。ロシアにしろイスラエルにしろ、世界が冷戦や帝国主義の時代に舞い戻るかのような状況で、いよいよ本格的に「次の国際関係論」のようなものが見えなくなっている気がする。

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無重力蜜柑
ナチスには一種の道徳的潔癖症のイメージがついている。国民生活の隅々までを支配した全体主義権力は、個人の欲望を抑制し統制したはずだ、と。実際、彼らはワイマール共和国の風紀紊乱と頽廃を盛んに糾弾した。しかし、それは事態の一面に過ぎない。ナチスとは性欲の喚起と歓喜をエンジンとする体制だったのだ。本書はこの基本テーゼを様々な史料で多角的に「実証」していく。大量のドイツ語史料を用いてはいるが、ある意味極めて単純な本だ。そこでは欲望の解放と動員のメカニズムがいくつかの段階に分けて描き出されている。
無重力蜜柑
2024/10/16 18:50

第一に、性道徳におけるナチズムの闘争は二正面作戦であった。彼らはワイマールの退廃(筆頭が同性愛などの倒錯)を糾弾した。だが同時に保守勢力の「上品ぶり」も嘲笑した。ナチスはもっと明け透けに「生の喜び」を称賛した。それは保守的道徳を解体し個人の欲望を解き放つものであった。第二に解き放たれた欲望をナチスは生殖や戦争に動員した。そして第三に、こうした動員の試みは必ずしも上手くいかなかった。政府高官のスタンスの違いで当局の対応は混乱していたし、何より一度解体された道徳は国家の意図通りに再建されたりはしなかった。

無重力蜜柑
2024/10/16 18:50

全体として興味深い論考ではあるのだが、一見予断にも見える断言が進出する文体が気になり過ぎて素直には読めなかった。例えば「明らかである」「疑いない」「想像に難くない」といった力強い表現がやたらと多い。筆者の癖なのかもしれないが、政策の意図や民衆への受容のされ方、自発性の有無といったセンシティブな部分の記述で飛び出す傾向があるうえ、そこから力強い道徳的判断へ誘導するので油断できない。この筆者は少し前にナチスの功罪を論証する本で炎上していた記憶があるが、あのときと同じ歴史学的不誠実さの印象を抱い

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無重力蜜柑
シュミットとドメストルについての文章が読みたくなったので手に取った。が、微妙。面白くなりそうで、ならない。というより掴みどころがない。全体としては時系列順になっていて、シュミットの思想の展開を当時のドイツ政治や国際法の文脈で描くというもの。だが、文脈の部分がマニアックすぎて興味を惹かれないというのが正直なところ。ヨーロッパ公法史やドイツ政治史、キリスト教神学なんかは全く素人なので議論を追うだけで精一杯。政治神学やパルチザンの話などは面白いんだけれどな。なかなか苦しい読書だった。
無重力蜜柑
2024/10/10 15:22

この辺については、文献案内で述べられている日本におけるシュミット受容の偏りの話が参考になる。曰く、シュミットといえば「非常事態や独裁といった一国の憲法問題・内政問題での発言に関心が向けられて」おり、とはいえ「法学・憲法学の分野においてシュミットに正面から取り組んだものは多く」なく、歴史的文脈を抑える場合でも「「プロイセン・ドイツ史」の枠組みでなされており、革命以降のフランスの内政・外政との関連、オーストリア・ハプスブルク帝国との関係などにまで視野が及んでいない」らしい。

無重力蜜柑
2024/10/10 15:24

つまるところ、シュミットは法学や国際政治学より一国内規模の政治学や思想史の文脈で捉えられてきたのだろう。本書がそうした偏りを是正する意図を持って書かれたことは明らかだが、自分がシュミット論に期待していたような議論が出てこないのもまた明らかだろう。

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無重力蜜柑
面白過ぎる。軍事通として名高い新首相(なお……)も愛読していた戦記雑誌『丸』を題材とするタイムリーな文化史。ちなみに彼についても言及される。戦後日本の戦争像を論じる研究は色々あるが、いわゆるミリオタに焦点を当てた研究はほぼないのでは。非常に希少性のある本だと思うし知的刺激に富んでいる。期間としてはだいたい戦後から二十世紀末まで。敗戦直後の混乱の中で軽めの総合雑誌として始まった『丸』は、戦争遺族や帰還兵の慰め、情報交換の場として勇壮な戦記を掲載するようになり、やがて戦記雑誌へとシフトしていく。
無重力蜜柑
2024/10/04 19:16

自分は『丸』を読んでいないが、最近の同誌の特集を見ると一式陸攻や赤城でまるで変化がない。懐古趣味としか言いようがないだろう(別に批判するわけではない)。現代の若いミリオタが読んでいる軍事雑誌は……まあ若者はもう雑誌を読まないと思うが、強いて挙げるなら『あくしず』と『軍事研究』なんじゃないだろうか。これは現代日本のミリタリー趣味の二極を示していると思う。一方に戦争の脱文脈化を極限まで進めてフェミニンな可愛さと接合してしまった「萌えミリ」があり、他方に専門知識から冷徹に安全保障を分析する「リアリズム」がある。

無重力蜜柑
2024/10/04 19:19

どちらも『丸』にあったような当事者的な情念から程遠い点では共通だ。これは実体験としての戦争が遠くなり続けていく以上、仕方のないことだろう。こうした流れが今後もずっと続くのか、あるいはどこかで「有事」が起きて日本人の戦争観がリセットされるのか。それは分からないが、自分としては三十年後くらいに出るであろう『〈美少女〉としての戦争 萌えミリ雑誌『あくしず』の文化史』が楽しみだ。

が「ナイス!」と言っています。
無重力蜜柑
ネタバレ日本だと恐らくエヴァとの繋がりで一番有名なシリーズだと思うが、読んでみると「人類補完」の文字以外に特に共通点はなかった。冷戦の裏面史→近未来→ポストアポカリプス→太陽系文明→銀河系文明へと拡大していく人類の一大年代記。訳が古びていない流石だがストーリー自体は今読むと古く、まさにスペオペという感じで趣味ではない。ただ「スズダル中佐の犯罪と栄光」「黄金の船が――おお!  おお!  おお!」は面白かった。人類補完機構の設定は大サトーの地球連邦に近いところがある。続編を読むかは検討中。
が「ナイス!」と言っています。

ユーザーデータ

読書データ

プロフィール

登録日
2019/06/29(1976日経過)
記録初日
2019/04/10(2056日経過)
読んだ本
1018冊(1日平均0.50冊)
読んだページ
324921ページ(1日平均158ページ)
感想・レビュー
885件(投稿率86.9%)
本棚
19棚
性別
職業
大学生
自己紹介

人文系の学生。専門は科学史。
他には哲学、冷戦史、軍事学、左翼思想、大日本帝国など。
小説はSFとラノベ中心。
歴史改変、ミリタリーSF、サイバーアクション、現代異能バトルなど。
英雄と運命を強靭に肯定する小説が読みたい。

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