貴重な歌が多い中で、亡き歌の師たちを悼んだ歌も注目される。五島美代子への哀悼歌「天翔るみ魂にそひて楽ありと ふと想ふ終のみ歌ならむか」。佐藤佐太郎を悼んで「みよはひを重ねましつつ弥増せる慈しみもて教へ給ひぬ」、そして「夜の風に吹かれて君ら見しといふ鶏頭のそよぎ我を見てゐし」。これには「佐藤佐太郎『未来より吹きくる風の心地して夜の鶏頭のそよぐを見つつ』を思ひだしつつ」との詞書がある。更に佐太郎未亡人志満を悼んだ三首の内の「那須の野に山百合咲けるこのあした君いまさぬを思ひさみしむ」も良い。
グループ内でなぜか摘発を逃れた者がいると、そいつが仲間を売ったのではないかと疑いたくなる。実際そうだった例も多いが、濡れ衣である例も少なくない。昭和15年、「京大俳句」は反戦派の急先鋒と見なされ大弾圧を受け、メンバーが11人検挙される中で「逮捕されて当然の歯科医の西東三鬼だけはひっぱられていない。当局に協力したのではないか」と言われる。山本健吉らは特高がわざと泳がせて疑心暗鬼を生もうとしたと弁護したが、本人も苦悩して、早く自分も引っ張ってくれと思ったという。
【名刺代わりの推し短歌3首】
馬追蟲(うまおひ)の髭(ひげ)のそよろに來る秋はまなこを閉ぢて想ひ見るべし/長塚 節
かきくらし雪ふりしきり降りしづみ我は眞實を生きたかりけり/高安國世
あはれしづかな東洋の春ガリレオの望遠鏡にはなびらながれ/永井陽子
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