ポイントになるのは「機械『が』愛する権利」というところ。フィクションにおいてAIは人を愛することができるのかというテーマは結構見るが、そもそもAIにだって選ぶ権利があるだろうという視点を取り入れた作品はあまりなかったと思う。 近未来SFとしてはやや牧歌的・楽天的に過ぎると感じる部分もあるが、柔らかい読み心地の中にしっかりスパイスを効かせた作品だった。
不木の乱歩への評価はとにかく高く、まるで探偵小説界の救世主であるかのように猛烈に持ち上げるようになっていく。自身に対する鬱屈した思いを抱え執筆から離れたがっていた乱歩が、不木の強すぎる熱意を敬遠しようとするのもやむをえないところがある。 不木は純粋な善意の人なのだが、乱歩を信じるあまりとにかく頑張ってほしい、書いてほしいと押しの一手なのがかえって逆効果。読んでいて「押すな不木!一度引け!」と思わずツッコんでしまった。 本人たちは大変そうだが、彼らの人間味を強く感じられるあたりは実に興味深かった。
陰影に富んだ登場人物たちも地味ではあるが奥行きを感じさせるし、事件への興味からではなくライト家の人々を守るために深慮をめぐらすエラリイにも初期作品とは異なる落ち着いた魅力を感じた。 被疑者として裁判にかけられた人物のためにエラリイが奔走するという『中途の家』に近いプロットながらメロドラマ的な甘さは拭った渋い大人の作劇、後年の『九尾の猫』『ガラスの村』を思わせる群集心理の暴走シーン、悩める名探偵の萌芽などクイーンのターニングポイントとなる重要作という評価はなるほどその通りだった。
ベストは「標的はどっち?」。短めの話の中で展開される入り組んだストーリーと鮮やかなロジックが、意外な動機のインパクトを上手く支えている。1話あたり30頁程度の短めな話ばかりなので物足りなさを覚える部分もあるけれど、その腹八分感も含めての雰囲気を楽しむべき作品だろう。
お気に入りの喫茶店でコーヒー片手に読書をするのが数少ない趣味。 ※レビューはネタバレしていることが多いのでご注意ください。
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