小説ってそうだった。時間の目盛りが簡単に歪むのが文章だった。夏の夜にラジオをかけて、バカみたいに生活感溢れるキッチンでダンスして、ラジオのCMに邪魔されて、電話のベルの間隔は無限に長くなって、夜と昼がなくなるのが恋愛で、そういうのが恋愛小説だった。
一方、何となく先行きが予見できてしまう会社の自転車操業がありありと伝わってきて、これが物語を進める大流として機能しており効果的だった。 そして冒頭の展開は見事であった。特に人物像の立ち上がりが最速で、人々の会話は生き生きとし、会話文の合間に埋め込まれた仕草と相まって、彼らの声がそのまま聞こえてくるようだった。作者は喋り言葉由来の語順やサウンド感を扱いきれる人のようだ。しかしこの語調が地の文にも展開されすぎると、冒頭にも述べた通り、説明過多の印象に転じた。読者の読解力をもう少し信用してみてもよいのでは。
作者は生物学に詳しい人なのかな。物理とAIとエコフェミニズム?あたりのお話になると、ちょい歯切れが悪くなっていたように思います。AIのジェンダーバイアスめっちゃわかる。アシスタントロボを女にすんな。
一作目、彼女と彼女との記憶について。やはり記憶という時間軸の交錯、事実と現実の錯綜はこの短編集の一つのテーマだったように思われる。一作目も良かった。こちらはぞわぞわとする奇談を予感させながら、実はただの現実だったという話。短編だから着地は放棄してますね。
彼女はpp(ピアニッシモ)が書ける作家なのだろう。手紙の署名の前にLove,が付いていただけで、ドーナツを差し入れただけで、昔の恋人と一言話しただけで、家に寄っただけで、どうしようもなく動いてしまう感情の、それも若くはない壮年期の感情のささやかでどこにも行き場のないうごめき。
読書欲に波があります。
きれいな言葉、不思議な世界観、皮肉やユーモアの効いたお話がすき。
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一方、何となく先行きが予見できてしまう会社の自転車操業がありありと伝わってきて、これが物語を進める大流として機能しており効果的だった。 そして冒頭の展開は見事であった。特に人物像の立ち上がりが最速で、人々の会話は生き生きとし、会話文の合間に埋め込まれた仕草と相まって、彼らの声がそのまま聞こえてくるようだった。作者は喋り言葉由来の語順やサウンド感を扱いきれる人のようだ。しかしこの語調が地の文にも展開されすぎると、冒頭にも述べた通り、説明過多の印象に転じた。読者の読解力をもう少し信用してみてもよいのでは。