とても綺麗な恋愛小説。ドロリとした感情や火傷しそうな程に苛烈な感情は薄靄の中に隠されて、ふわふわとした感覚のまま、好きなのかなあ。という雰囲気だけが楽しめる。

とても綺麗な恋愛小説。ドロリとした感情や火傷しそうな程に苛烈な感情は薄靄の中に隠されて、ふわふわとした感覚のまま、好きなのかなあ。という雰囲気だけが楽しめる。

昔の小説らしく無理矢理な解決もあったけど、概ね星新一的意外性があって楽しかった。最後の締め括り方も、王道と評価できる。どんな心理状態であっても問題なく読める優しいお話だった。

記憶を好きなように組み替えて再生できるようになった人間は、死後の世界を失った。死後の世界を失うことで、救いを得られなくなった人間は、再び死後の世界を作り出した。死後の世界とは承認欲求の末に生み出されるものということなのか。何をせずとも、死が訪れれば他の死者と同じになれる。自分でさえ見放した自己を他者が受け入れてくれる。死後の世界はメンヘラパラダイス。

虫になってしまった男の人の話は有名。その後を知らなかったから読んでみた。今まで家計を一人で支えていたのに、虫になったら数ヶ月でお払い箱にしてしまう家族が冷血だと思った。妹だって、最初はナウシカにでもなったかのようなつもりで世話をしてくれていたのに、自分でお金を稼ぐようになれば、虫を蔑ろにする。この虫になったグレーゴルというのは、うつ病で閉じ籠もりになったのだと解釈しても良い気がする。

ベルリンを散策しながら主人公の妄想に浸る話。多和田葉子っぽさはあるが、批判が一般的過ぎてつまらない。つまらない批判だと思ってしまうことを、批判しているのかもしれない。