旧知の間柄の80代の男女３人が大晦日の夜、ホテルに集まり、飲んで食べて語り合った後、命を絶った。一人は治癒の見込みのない癌を患い、もう一人は金に困っており、もう一人はほしいものも、行きたいところも、会いたい人も、もうなかった。事件を知った彼らの家族や友人知人は驚き、憤り、彼らに思いを馳せる。自分たちは彼らのことをどれくらい知っていたのだろうと。家族や友人知人の人生や新たな心の動きも丁寧に描かれている。人は所詮、生まれてから死ぬまで一人だが、それは必ずしも不幸ではない…これがこの物語の通奏低音かもしれない。

小川洋子さんのエッセイを読んだのは初めてかもしれない。ちょっとレトロで素朴だった大学生時代やお勤め時代のエピソード、小説を書くということ、主婦としての、一人息子の母親としての、そして（亡くなった）愛犬との暮らしぶり、仕事や私生活で出会った人々に対する思いなどが謙虚に、しかし鋭い観察眼で丁寧に綴られていた。小川洋子さんのこうした経験や物の見方があの静謐で美しい小説の数々を生み出してきたのかと思うと感慨深かった。特に本、映画、アウシュビッツに関する話、そして世の中の周辺で黙々と働く人々への敬愛が印象的だった。