意味内容にモザイクかけて情報をいちいち遮断させる筆運びに閉口した。先が気になる、と思わせるための読者への誘引が、記述による魔術ではなく、低俗な広告メソッドみたいなせこさで、いわば面白さがかさ増しされている。ルール度外視。フェアじゃない。好き嫌いの土俵にすら上がらない。

前へ前へと読ませる力にあふれていた。冒頭の「よくわからないが大変なことが起こっている」時点に最も追い詰められた緊張があり、そこがピークだった。

意味内容にモザイクかけて情報をいちいち遮断させる筆運びに閉口した。先が気になる、と思わせるための読者への誘引が、記述による魔術ではなく、低俗な広告メソッドみたいなせこさで、いわば面白さがかさ増しされている。ルール度外視。フェアじゃない。好き嫌いの土俵にすら上がらない。

よくできているなあで終わってしまった。

大掛かりな舞台設定がどのようにプロットに組み込まれているかそわそわしながら読み進めたが順当に事件が進展し順当にサスペンスして順当にアクションして順当にドラマして終わった。ひたすら順当だった。

ただごとではない読書体験。一行一行にそれぞれ人格が宿っている。十行読めばさながら十人分にあたる人格群と向き合ったような汗に見舞われ、へとへとだ。本を構え読みながら、まるで向こうから読まれているかのような緊張感まで張り詰めて気が抜けない。日本で最も名のある文学賞を得てしまったばかりに純粋な読み方がされにくいのではと心配してしまう。「現代日本の切り抜き」として読むのはもったいない。これは個人の魂の実態への接近だ。その死にものぐるいの挑戦を存分に観戦できてありがたい。

19世紀時点の社会を語る文章でこれほどまで読ませるとはと舌を巻いた。論点にれっきとした核があり、その核を読み手に共有させるために、知識、弁術、論法が駆使される気持ちよさ。とりわけシャルル・フーリエ（一派）への批判が徹底していて面白かった。

幼児が絵本をいかに「体験」するかの記述がいちいち納得できて小気味良かった。全体的に、理論の積み重ねで話が進んでいくのだが、理論に引っ張られすぎの感はあった。しかしバタイユの溶解体験のくだりは理論と論理の運びがみごとに合致して、力強く心地いい説得力にひたれた。