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2024年11月の読書メーターまとめ

ひるお
読んだ本
30
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感想・レビュー
28
ナイス
69ナイス

2024年11月に読んだ本
30

2024年11月にナイスが最も多かった感想・レビュー

ひるお
ネタバレまさかここで終わってしまうとは! そして、転職する気がなくても、こういう形で転職を迫られる場合もあるのだな、と思う。相手企業にとって自分がどう“役立つ”か、どう“活躍”できるのかを説明させられるのには反吐が出るが、だからこそ、“私にはあなたが(御社が)必要だ”という鶸田の言葉には感じるものがあった。働くって何なのか。電池扱いされることに、私(たち)はどう抗えばいいのか。終わりはどうあれ、一石を投じた作品だったと思う。
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2024年11月にナイスが最も多かったつぶやき

ひるお

2024年10月の読書メーター 読んだ本の数:35冊 読んだページ数:7812ページ ナイス数:60ナイス ★先月に読んだ本一覧はこちら→ https://bookmeter.com/users/684547/summary/monthly/2024/10

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2024年11月の感想・レビュー一覧
28

ひるお
毎日新聞の書評欄「今週の本棚」内の1コーナー、「なつかしい一冊」。小説家、映画監督、研究者にエッセイスト。さまざまな職・世代・専門の人々が紹介する、それぞれの“なつかしい”本。役に立った本、その後の人生を決定づけた本もあれば、なぜだか出会い、特に理由もなく手に取り、その結果棘のごとくに体内に残ってしまったような一冊もある。時代を代表するベストセラー、名著と名高い古典。自分を形作った“なつかしい一冊”は何だろうと考えたくなる。
ひるお
2024/11/30 14:15

谷崎潤一郎『陰翳礼讃』における女性観はラカン的だ。「文楽芝居の人形が人間以上に「女らしさ」を感じさせるのは、人形が女の指標を徹底的に排除したからだ」「文楽の舞台で活躍する小春や三勝が女であることを示すものは、わずかに顔と両手の先だけに過ぎない。肝腎の身体は衣裳で隠されている。」「「女らしさ」は、人形本体のものではなく、本体を包み隠す闇から生まれてくる。」(:184-185、高階秀爾)容貌・姿態ではなく声や香り、手触りといった断片の集積としての「女性」。

ひるお
2024/11/30 14:16

「ゲバラは医学の革命を望むには先に革命家になる必要があったと述べる。革命という言葉はいかめしいが、社会を変えなければ医学を正しく生かせないという意味だと考えれば、専門家の声に政府が耳を傾けないので感染を抑えきれないコロナ禍の日本の現状にも見事に該当する言葉ではないか。」(:215、武田徹)

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ひるお
幕末、和歌山から江戸に赴任し、叔父たちと長屋で共同生活を送った下級武士・酒井伴四郎。酒を飲みまくり、季節を楽しみ、でも節約し、旬の安い食材でやりくりしながら日々を過ごす彼の生活を、今に残る日記から探る。蕎麦や寿司、どぜう鍋など、ザ・お江戸的食べ物は、本当に高頻度で食されていて、本当に庶民の食べ物だったのだと実感できる。伴四郎が日常的に料理をし、作り置きまでしているのも印象的で、まさに江戸のグルメエッセイの趣。
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ひるお
現代日本ではアートとはみなされない、しかしギャラリーや美術館の中にはない、強烈なエネルギーをもった“作品”たち。ラブホテルやイメクラ、証明写真に喫茶室ルノワール。世界が唐突に“芸術”に開かれる瞬間。作品にもだが、都築響一の嗅覚にこそ圧倒される。しかしエロ(に分類されるであろうもの)の比率の高さよ! 性的コンテンツが日常の風景の一部と化しているにも関わらず、同時に忌避されてもいる謎の国が日本だ。異様な潔癖と、それ以外のものへの無感覚。この矛盾の裂け目に迸っているのが、本書に登場する“アート”なのだと思う。
ひるお
2024/11/28 21:21

演劇集団〈ブレッド&パペット〉の<the WHY CHEAP ART? manifesto =なぜアートはチープでなくてはならないか宣言>、最高だ。

ひるお
2024/11/28 21:21

「アートは美術館や金持ちだけに許される特権とされてきた、あまりにも長く。アートは金儲けじゃない! 銀行のものでも、おしゃれな投資家のものでもない、アートは食べものなのだ。アートを食べはできないけれど、アートは君を生き延びさせ、育ててくれる。アートはチープで、だれにでも手に入れられるものでなくちゃならない。アートはどこにでもあるべきだ。だってアートは僕らの生きる世界のうちにあるものだから。」(:222-223)

ひるお
広告とは何か? それはどんな構造をもち、どのような経緯を辿ってきたのか? 〈八〇年代〉、パルコを中心に西武が作り上げた渋谷や、資本を不可視化するディズニーランドを取り上げ、「広告都市」としての東京を論じる。もともと筆者の講義の教科書として書かれたそうで、社会学・メディア論の基礎づくりに役立つが、個人的にはリアリティがなかった(ここでの「リアリティ」とは「作用するかどうか」を意味する)。〈八〇年代〉や渋谷への時間的・空間的・文化的距離にもよるのだろうが、自分はもっと人間の諸相、具体的な様相を読みたいのだ。
ひるお
2024/12/01 13:30

「①資本の論理とは、交換の動機づけを得るために、空間的・時間的・記号的差異を自己調達する資本の行動原理のことである。つまり、資本はつねに共同体(内部)の外部を〈発見〉もしくは〈創出〉しなければならない。②広告は、差異を創出する資本の技術であり、私たちの日常生活と資本の論理とを媒介するメディエイターである。」(:23)

ひるお
2024/12/01 13:32

「受け手の視覚・聴覚・触覚へと働きかけ」る広告が規制された結果、「かえって視覚という局所的な身体感覚を極限まで発達させていく。その成果が、雑誌や新聞、そしてポスタ 1におけるグラフィカルな広告様式の開拓であり、また、ショーウィンドウや店内装飾などの三次元的な視覚装置の発明、ネオンや大規模な装飾看板広告の開発であった。」(:55-56)

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ひるお
J-POPの歌詞、『ホットロード』などの少女漫画、『ティーンズロード』の読者投稿、コンビニ・TSUTAYA・ブックオフといったロードサイドチェーン。こうしたものを背景に「文壇的なもの」からの「歴史的断絶」として生まれた“ケータイ小説”。既存の価値体系の外部で、雑誌投稿や少女漫画を参照しながら、作者と読者の境界を限りなく曖昧にしながら生まれたケータイ小説は、ある種やおいにも近似する。生きるのに物語が必要であるということ、そうして世界を作り変えるということ。その切実さを実感できる良書。
ひるお
世界を席巻し、今や観光地には必須のものとなったショッピングモール。日本では荒廃する郊外/地方の象徴とみなされることが多いモールの歴史・表象・現在を、公共施設や観光など都市論とも絡めて論じる。東京、郊外、モールなどに関心を持つ中で手に取った本だが、モールの歴史や形態、時代背景などがコンパクトにまとまっており、基礎づくりにも復習にも適している。冒頭の、公共施設とカフェチェーンの関係は導入として具体性が絶妙で、思わず引き込まれた。大山顕らの著作とも合わせて読みたい。
ひるお
2024/11/24 21:24

「一九七〇年代以降のショッピングモールとは、金銭消費型から滞在・滞留型へと進化します。つまりは、消費をするために集まった人びとにお金を使わせることが、本来のモールの消費の在り方でしたが、七〇~八〇年代のモールは、足を運んだ人に消費の機会を突きつけるというものに変化したのです。」(:153)

ひるお
2024/11/24 21:25

「ショッピングモールは、業態で言えば不動産業、不動産賃貸業に属します。デベロッパーと呼ばれる開発主体が、箱となる建物の計画、設計、建築を行い、賃貸としてその売り場を提供するビジネスを行っています。モールの場合、デベロッパーが運営するのは、箱となる建物全体で、店舗の運営は個々のテナントとして入居した店子が行います。一方、デパートは、小売流通業の一形態で、基本的には仕入れた商品をデパートの店員が販売しています。」(:172)

ひるお
世界各国を飛び回り、“チセイ”と“荒技”でトラブル解決。地政学を武器にリスクコンサルタントとして活躍する主人公を描く、交渉×アクション漫画。表紙に惹かれて気になっていた作品で、無料期間に試し読み。ミャンマー編とタンザニア編を収録する1巻は、個人的には目新しさに欠けるという印象。エピソードがさらっとまとまっているところに危うさも感じる。
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ひるお
広告や歌の歌詞、日常の会話、映画や漫画や小説の台詞、メールや寝言に至るまで、生活のあわゆる場面で生起する不思議な言葉たち。詩とはみなされない、しかし詩でありうるそれら「偶然性による結果的ポエム」を捕まえるのが歌人・穂村弘。若者たちの会話に「不定型で無限の未来」からくる「光」を感じ、パニックや理不尽、不一致から生じる不穏な瞬間に、日常に開いた裂け目を見る。“標準語”によって隠されたところに、形の定まらない生の言葉がある。それぞれに奇妙な形をした言葉たちが、今日もホムラに見つけられたがっている。
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ひるお
オーソドックスな、それこそ美術の教科書に載っていそうな作品ではなく、奇想天外、異端でトリッキーな作品を集め、紀元前からAI時代までをたどる骨太な一冊。私が芸術作品を見たいと思うとき、期待するのはこういうものだ。クオリティーはもちろん、発想・文化・意思の鋭さと面白さ。驚きたい、圧倒されたいという気持ち。そういうものが存分に満たされる。デュクルーによる自画像など、伝統を無視して描かれた作品は、当時の人も(やっぱり)そういう表情をしたのだ、という、当たり前の事実を教えてくれる。
ひるお
2024/11/23 11:00

『モナ・リザ』は複数存在する(ダ・ヴィンチと弟子サライの関係性が最高)、まるで萌えキャラ(または戦闘美少女)のようなアンヘル・アルカベセロ、リチャード・ダッド『お伽の樵の入神の一撃』、ゴヤの『黒い絵』。『ヘリオガバルスの薔薇』のグロテスクさ、アブラモヴィッチのパフォーマンス・アート。

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ひるお
渋谷、青葉台、足立区、池袋。それぞれの街を起点に、哲学者・東浩紀と社会学者・北田暁大が、街の個性、広告都市の変貌、郊外のセキュリティ化など都市/郊外としての東京を/から考える対談集。2007年刊行ながら、約20年後の現在を先取りしているような記述もあって興味深い。人間が生きる場としての都市、入れ物としての都市。メディアとしての、コミュニティとしての、ネットワークとしての都市。都市の見方や歩き方の一端をインストールするにはもってこい。
ひるお
ネタバレ鹿島戦、ついに決着。前巻を読んで、これ、ETUが勝っちゃったら話は終わりだし、かと言って鹿島が勝っても話は終わりだし、どうするんだろうと思っていたのだが、こういう展開(選択肢)が残っていたか。ただ単にタイトルを取るだけでは終わらない/終われないだろう物語がどのように閉じるのか、見逃せないという思いを強める。今回の個人的白眉は殿山。彼のこれまでを知ることができて嬉しい。
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ひるお
ネタバレまさかここで終わってしまうとは! そして、転職する気がなくても、こういう形で転職を迫られる場合もあるのだな、と思う。相手企業にとって自分がどう“役立つ”か、どう“活躍”できるのかを説明させられるのには反吐が出るが、だからこそ、“私にはあなたが(御社が)必要だ”という鶸田の言葉には感じるものがあった。働くって何なのか。電池扱いされることに、私(たち)はどう抗えばいいのか。終わりはどうあれ、一石を投じた作品だったと思う。
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ひるお
通称“ヤクザマンション”に居を構え、自転車で夜の新宿を周回する筆者が出会った、ホスト、スカウト、風俗嬢、売春中毒者、カメラマン。語られるかつてとは違う、しかし依然として強い光と闇に彩られる、歌舞伎町の今を切り取ったルポルタージュ。盛り場関連の本を続けて読んでいて思うのは、例えばひとくちにホストと言っても、頂点から搾取される側まで、人の数だけ異なる状況があるということ。人間があらゆる形で価値や欲望に絡め取られているということ。生きるって、食うって何だろうか。考え続けたいと思わされる。
ひるお
2024/11/19 20:39

本書で一番印象的な人物は、(もちろん)ストーカー仕置人のチャーリー氏。憎めないしむしろチャーミング、だが同時にものすごく怖い。すごいキャラの強さ。

ひるお
2024/11/19 20:40

「私の友人にあまりの暴力性の強さに周りが怯え、学生時代ひとりも友人がいなかったという男がいる。その男は、「人に避けられたときに一番孤独を感じる」と言っていた。/自分が怖いのが悪いわけではあるが、「怖がっていないフリ」をしながら距離をとられるとさらに殺してやりたくなるという。」(:170)ここもなかなかすごい、そして含蓄あるくだりだ。

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ひるお
奇抜な外観、摩訶不思議な名前、極振りしたアミューズメントの数々。その成り立ち・経営・利用・宣伝まで、様々な角度からのラブホテル研究。家族やカップル、友人といった人間関係のあり方、社会における性のイメージ、どうしたら売れるかという創意工夫。どうしてもいかがわしい印象を抱かれがち・忌避されがちなラブホテルの世界に一歩踏み入れば、そこには社会の諸相が現れている。男性が選ぶものだった時代から、女性が選び、さらにはオフ会などにも利用される時代へ。真の/進化する多目的スペースとしてのラブホテルを学んでおいて損はない。
ひるお
2024/11/19 20:11

「ラブホテル健設を訪ぐために定められた条例が、逆に連れ込み宿のような部屋を増やす原因になっている[中略]ラブホテルにとって厳しい条例が定められても、その条件を呑んで十五平方メートルほどの部屋をいくつも作って新築のホテルが建てられることはある。狭い部屋は料金を安くせざるをえない。そうすると、未成年やホテルヘルスなどの利用率が高くなり、逆にいかがわしいホテルになってしまう可能性が高い。[続]」

ひるお
2024/11/19 20:11

「ホテル側も氾罪などには当然関わりたくない。できれば広くていい部屋をたくさん作って、ホテルの質も客単価も上げたいと考えている。しかし、条例があるのでできない。そのような皮肉な循環が起きているのが現状なのである。」(:112-113)

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ひるお
ストリップ、韓国クラブ、新宿二丁目、トルコ風呂、興行、三業地。東京の、あるいは各地の“盛り場”で、その歴史を目の当たりにし、さらには自らもその一部として生きてきた11人に迫ったノンフィクション。ライフヒストリーを読むのが好きだ。稼業も場所もさまざま、しかしどの人にも意志が見える。と、言ってしまうのは簡単だ。どの人にもそれぞれの苦渋があったのだから。でもそれは、意志や欲望がベクトルのようにその先を決定づけることの証左だ。場所や時代の制限を受けつつ、自分もまた意志という方向性と運動性を持っていたい。
ひるお
2024/11/17 20:52

「祭りの賑わいにノスタルジーを感じながら、それを規制する法が作られてしまえば、上から与えられた暴力集団を見るまなざしをまるごと受け入れて職人集団を眺める。彼らが街を追いやられても、もう、それ以上関心を向けることはない。[続]」

ひるお
2024/11/17 20:52

「かつて職人集団が街中でどう暮らし、どう商売していたか、自分たちとどう付き合っていたか、自分たちの親や爺ちゃん婆ちゃん世代が、肌で知っていた機徴を忘れる。もたらしてくれていたものも、まとめてあっさりと捨て去る。街を退屈にし、息苦しくしていく似たような組み立ての仕打ちが、あちこちで起きてはいないかー。」(:332-333)

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ひるお
平野紗季子による散歩+食エッセイ。再読。何度読んでも最高だ。通してじっくり読むのも、ぱらぱらめくるのもいい。大好きな友人のSNSを見ているような気持ちになる。お腹がすくこと、一人で店に入ること、いくつも/色々頼んで食べること、全部やっていい。おいしいと思ったり、驚いたり、安心したり、戸惑ったり。食をとりまくあらゆることが、友人から聞く話のように、すぐそばの温度感で記録された稀有な書。新刊、楽しみすぎてまだ読めていない。
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ひるお
神漫画。狂った世の中で正気を保つために必携の書。
ひるお
オテル・ドゥ・ミクニで知られる三國シェフのレシピブック。タイトルにある通りスーパーで買えるお馴染みの食材を用い、家庭用にアレンジされたレシピが並ぶのだが、その心は真摯で本格派。アロゼに始まるテクニックも満載、料理ごとに合う飲み物の記載もあり、フランス料理入門書としてぴったりなのではないかと思わされる。オーソドックスな料理だけでなく、メロンのスープなども登場。味わうこととは、おいしさには、安心や安定だけでなく驚きも必要だ。前菜や野菜料理のラインナップが充実していてうれしい。
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ひるお
男女二元論ではなく、関係と所有という観点からジェンダーを、あるいは欲望を捉え直す挑発的な試み。タイトルで敬遠していたが全くの誤りだった。世に数多ある怪しげな脳科学本の類のパロディ、あるいはそうした本に対する意趣返しだったのか。第一章・第二章はオーソドックスにまとまっていて、非常に勉強になる。そして第三章以降は斎藤環らしさ溢れるスリリングな展開。『関係の化学としての文学』、積んであるので近々読みたい。
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ひるお
スリランカからイギリスへの3週間の船旅。11歳の少年マイケルが船の上で出会い関わったのは、その後の彼の人生を決定づけるに充分な、濃く鮮やかな人々だった。作者本人の人生を思わせる、まるでノンフィクションのようなリアリティを持った小説。長さのさまざまな章が連なる構成なのだが、短いことも多いエピソードの蓄積は、日記のようでも映画のようでもある。あるいは記憶の層のような。ドラマティックな後半も魅力的だが、船上生活のディテールに満ちた前半も楽しめる。アレックス・シアラーが好きな方におすすめ。
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ひるお
昭和の伝説的ラブホテル建築/部屋写真集。関連年表やインタビュー、対談なども収録した充実の内容。派手さやアミューズメント性を高め、奇妙な方向へと突き進んだ時代を、あらゆる角度から味わい実感できる。「マーケティングを全然していない。人の頭の中をそのまま再現しました、という」(:123)カオス空間。「マーケティングが世の中をつまらなくしてるんだよね。衝撃的なものは、そこから絶対に生まれない。」(:同)という村上の言葉に深く頷く。セックスのための部屋、だったはずなのに、行き先のわからないエネルギーが溢れている。
ひるお
小説家・諏訪哲史によるエッセイ集。ハイテンションで無限に連なっていくような文章があるかと思えば、読んでいてしんみりとしてしまう静かな作品があり、地元・名古屋への愛情溢れる会話文があり、と、筆者の作風の幅の広さを実感できる。名古屋文化圏で育った者としては、東海の方言が活字になっているだけで面映いような感じがする。こういうおばあさんの会話、本当に結構な頻度で耳にするのだ。
ひるお
臨海副都心・六本木・秋葉原といったエリアへの着目、文学・映画・音楽などメディアという視点、新宗教建築・ハイキングなど意外な切り口。さまざまなテーマで“東京”を分析する論考集。2005年刊行の書ということもあり、今や古さを感じる箇所もあるのだが、それでも当時の空気感の貴重な記録だ。自分が関心を持っているのは何か、あるいは、自分にとってリアリティを持つのは何か。こういった論考集を読むことの意義とは、自分の立ち位置と、差し当たっての進行方向を再認識できるところにこそある。
ひるお
2024/11/04 20:58

田中研之輔「新宿ストリート・スケートボーディング」で挙げられる「ストリート文化の記述をめぐる「危うさ」」は、あらゆる文化批評において重要な指摘だ。対象の営みに「支配的な権力作用を転覆させる <抵抗>の契機」を見いだすことは魅力的だが、そこには「観察者によるレッテル貼りの行為の一端を担い、現実からの遊離を引き起こす危険性」がある。さらに、「下位文化の「非日常性」という視点に拘泥」すれば、それは彼ら/彼女らの行為の「日常性」を切り捨てることに繋がってしまうのだ(:115-116)。

ひるお
2024/11/04 21:01

「ある地域に暮らす人びとの多くが当該の地域内部にではなく、そこから通勤可能な都心に就労しているということは、農村や伝統的な都市とは異なり、生活の糧を得るための生産・流通活動を通じて人びとがその地域に結びつく契機が存在しないということだ。郊外住民にとってある地域に居住するということは、都心に通勤可能な同程度の条件の地域の中から選択可能な住居を一つ選択するという、言ってみれば偶有的な事態である。」(:142-143、若林幹夫)

ひるお
渡辺克巳が新宿の30年を写した写真集。1969年から1997年まで。その蓄積。忘れ得ない人、いなくなった人、ここでないどこかに今もいる人。すごいものを見てしまった、という思い。ゲイボーイ、ヌードスタジオ嬢、ヤクザ、演歌師、暴走族。皮肉、欲望、強かさ。どの人も表情が強く、くっきりと心に残る。厳しい時代であり、厳しい仕事ばかりだっただろうに、いや、だからこそだろうか、どの人のことも心底愛おしくなってしまう。それは、写した渡辺がそう思っていたからか。写真の合間の文章もいい。絶望に抗うために必要な作品集だと思う。
ひるお
2024/11/03 21:43

『新宿、インド、新宿』にも収録されていた、浄水場跡地の足跡だらけの雪道の写真。これがすごく好きだ。多くの人が来て、そして去っていった道を、自分もまた歩いている。一人で。それは決して悲しいことではない。

ひるお
1960年代末、西武新宿線沿線に建てられた滝山団地。三千戸を上回るマンモス団地の小学校で、子供たちの自主自律を目指して行われた試み。それは「班競争」や各種委員会、行事による異様な“体制”だった。筆者自身の実体験を綴ったノンフィクション。舞台は1970年代だが、児童生徒に班やクラス単位で相互監視・管理させる、という歪な仕組みは、90年代生まれの私自身も経験した悪夢だ。それは決して過去のものではなく、現在進行形の強迫でもある。権力とは? “一人”であることの強さ/弱さとは? 集団社会を生きる上で必読の書。
ひるお
2024/11/02 15:27

「ーーここにいるのは「みんな」ではない。ぼくだ。「ひとり」だ。」(:262)

ひるお
2024/11/02 15:30

桐野夏生の解説より。「車での移動は、観念的な経験である。今でこそ、ナビがあって緑上の移動というイメージを持つようになったが、元々は、時間の過ぎ方がそれぞれの意識に刻まれるものだった。鉄路の移動は、逆に肉体的経験に近いかもしれない。」(:337)

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ひるお
山高登。編集者・装丁家・版画家など、さまざまに活躍した彼の話を、夏葉社の島田潤一郎が聞く。水上勉、吉屋信子、内田百閒といった作家の人柄にじむ思い出、戦後東京の出版界。貴重なエピソードだけでなく、山高氏による写真や装丁、版画まで収録された贅沢な一冊。個人的に、千住火力発電所のお化け煙突の写真が嬉しかった。カラーではなく、あえてモノクロで撮られた写真の数々。氏の編集も装丁も版画も、きっと、こうした写真を撮るのと同じような眼でなされた。逃げ去っていく瞬間を捕まえたいという思い、焦燥、欲望なしにはできないことだ。
ひるお
電車内、喫茶店、洋食屋。街のあちこちで盗み聞きした、他人の気になる会話。サラリーマン、OL、大学生、中学生、ギャル、ヤンキーなど様々な人物が登場するが、そうしたカテゴリーを挙げられるだけで何となくその場の、その会話の雰囲気を感じ取れてしまう、そのこと自体に驚く。類型化・キャラ化という行為の強さ。それぞれの会話の色気、不穏さ、ぎこちなさ。それこそ能町氏の『雑誌の人格』シリーズにも重なる。
ひるお
消えつつある、あるいはすでに喪われた、東京の風景。ノスタルジアを喚起するそれらを集め、記録した一冊。登場する場所や建物には、つい先日読んだ『東京ディープツアー』とも重なるものが多いが、タイトルからもわかる通り、本書の方がより“ノスタルジー”に重きを置いている印象。収録写真はいずれも、東京で生まれ育っていない者にも愛着を覚えさせるような、不思議な引力を持つ。行ってみたいのはニュー新橋ビル。このカオスの空気、絶対に吸っておきたい。

ユーザーデータ

読書データ

プロフィール

登録日
2016/06/12(3112日経過)
記録初日
2016/01/13(3263日経過)
読んだ本
4025冊(1日平均1.23冊)
読んだページ
916170ページ(1日平均280ページ)
感想・レビュー
1493件(投稿率37.1%)
本棚
8棚
自己紹介

割と何でも読む。お気に入りの本を「365冊」本棚に入れています(自分にとって大切な本、すごく面白かった本などを、蠱毒みたいに365冊集めようという計画)。「参考文献」は研究関係(ジェンダー、セクシュアリティ、BL、ファンダム、精神分析、現代思想などなど)。感想・レビューはコメント欄に続きを書くことがあります。

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