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2024年10月の読書メーターまとめ

ひるお
読んだ本
35
読んだページ
7812ページ
感想・レビュー
31
ナイス
60ナイス

2024年10月に読んだ本
35

2024年10月にナイスが最も多かった感想・レビュー

ひるお
ネタバレ“フードサイコパス”稲田俊輔による各国料理エッセイ。フレンチ、中華、そしてもちろんインド料理、さらには“エスニック”としての東京の味まで、国別に発展を遂げた各ジャンルの浸透と拡散の過程を分析する。エッセイであり、一人の人間の個人史・味覚史でありながら、日本における外食の歴史・批評としても成立していて、毎度ながら筆者の観察眼と分析力に唸る。最後に江戸・東京の味が登場するのも、定番ながら心憎い構成。東京的な弁当やおでんが食べたくなってしまう。
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2024年10月にナイスが最も多かったつぶやき

ひるお

2024年9月の読書メーター 読んだ本の数:38冊 読んだページ数:9559ページ ナイス数:73ナイス ★先月に読んだ本一覧はこちら→ https://bookmeter.com/users/684547/summary/monthly/2024/9

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2024年10月の感想・レビュー一覧
31

ひるお
高島屋史料館TOKYOで開催された展覧会『モールの想像力 ショッピングモールはユートピアだ』。これをもとに、展示作品の図版や作品解説はもちろんのこと、座談会や対談を加えて作られたのが本書。モールと対置される百貨店の展示室で開催されたということ自体驚きだが、展示内容の幅広さ、「想像力」というほかない思考の縦横無尽さにひたすら圧倒される。展示作品のメディアひとつとっても、マンガ・アニメ・ゲーム・小説・写真・映画と様々。『ショッピングモールから考える』の復習としても、その発展としても楽しめる。
ひるお
2024/10/30 21:26

「擬木とは、いわば生の植物からバックヤード性をはぎ取ろうとするものだ。商業施設内でお客さんがグリーンに期待することはもっぱら視覚的なものである。「グリーン」という言い方にそれが表れている。水やりや栄養剤の補給、虫の駆除、定期的に光に当てるなどといった世話はコストであり、お客さんに積極的に見せるべきものではない。これは、生きているということはバックヤードを必要とする、ということだ。」(:165)

ひるお
2024/10/30 21:27

「内部にバックヤードを抱えた理想の街であるモールは、それ自体が都市市民の生活を支えるインフラでもある。バックヤードは入れ子状になっているのだ。」(:166)

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ひるお
ネタバレ“フードサイコパス”稲田俊輔による各国料理エッセイ。フレンチ、中華、そしてもちろんインド料理、さらには“エスニック”としての東京の味まで、国別に発展を遂げた各ジャンルの浸透と拡散の過程を分析する。エッセイであり、一人の人間の個人史・味覚史でありながら、日本における外食の歴史・批評としても成立していて、毎度ながら筆者の観察眼と分析力に唸る。最後に江戸・東京の味が登場するのも、定番ながら心憎い構成。東京的な弁当やおでんが食べたくなってしまう。
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ひるお
「味わわせる」と「味あわせる」ではどちらが正しいのか? 「夜もふけてまいりました」と言うとき、夜以外に何がふけているのか? 日々の生活の中でちょっと引っかかる言語表現の数々、それらは正しいのか? その表現を使う/選ぶとき、私たちの感覚の裏には何があるのか? 些細な疑問の一つ一つを解き明かす良書。自分ならこの問いにどう答える? と考えられるところが楽しい。言語学は文系ということになっているが、数学的だと感じた(「一日おき/一時間おき」問題とか)。そういえばラカンだって数学に凝っていた。
ひるお
写真家・渡辺克巳が新宿とインドで撮った写真と、渡辺を知る人々が彼を回顧して書いた文章を収録した作品集。時代の記録として重要なのはもちろん、写っている人々の表情がすごい。人間、本当にこんな顔をするんだ、という、一種漫画的な光景。25ページなんてもろに修羅場だ。個人的にいちばん好きなのは、38ページ掲載の、足跡でいっぱいの雪景色を歩道橋から撮ったもの。視点が真鍋昌平的! それと、本書に収録された寺山修司の文章のキレが物凄くて、やはりただものではないなと思わされた。
ひるお
2024/10/28 20:52

「丸の内や銀座の人たちは資本主義の検討に熱中してばかりいるので、富の生産、流通、消費にもう一つのシステムがあることなど容易に理解できないのだ。だが、新宿は例外的な街である。ここでは人たちが一足先に資本主義の検討などに見切りをつけてしまっているので、自分たちのシステムを作りださない限り、だれもが富にありつくことなど出来ないのだ。」(:181、寺山修司)

ひるお
2024/10/28 20:53

「実際、新宿もまた「あなたの最後の町」である。それは吹きだまりの町、いかり肩の町、反抗と泣きべその町。古宿なのに新宿なのだと言いこめるペテンの町。顔役の町。どこでも眠れる町。そしてかぎりなく人なつかしくなる町でもあるのだ。」(:182、同)

ひるお
「ウシジマくん」は連載終了から数年経って一気に読んだから、取り上げられている事象と時間的な隔たりがあったが、本作はよりリアルタイムに近い。ゆえに、作中の地獄はよりシームレスに現実と繋がっている。同じような事件をメディアですでに“見慣れている”ということ。
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ひるお
23区内をメインに、東京各地の“ディープ”な建築、スポット、エリアを取り上げ、豊富な写真とともに紹介。消えつつある、あるいはすでに消えてしまったそれらは、屹立する高層ビルを背景に、まるで唐突なコラージュのごとくに存在する/した。本書は2016年刊行だが、まだ残っているものがどれだけあるか。鉄道や軍事、水道に関するものは残されても、飲食店や赤線跡、住居といった、人々のナマの暮らしを感じさせるものは容赦なく、ある日突然、徹底的に消されてしまう。遠いいつかのために今・ここを逃している場合ではない、と強く思う。
ひるお
2024/10/27 22:03

掲載写真は見ているとぞわぞわしてくるものばかりで、その感覚が嬉しい。被写体が自分の既知の何かに馴染もうとしないからだ。違和感の気持ちよさ、時間の堆積に圧倒されるときの、恐怖に似た気持ち。畏怖というのがいちばん近いかもしれない。

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ひるお
『闇金ウシジマくん』の真鍋昌平による弁護士漫画。事件被害者ではなく加害者側の依頼を受け、起訴の回避や減刑をはかる弁護士・九条が主人公。まだ走り出しだが面白い。個人的に最も気になるキャラは壬生なのだが、彼は「ウシジマくん」に登場した獏木のパラレルのように感じられる。獏木にあったかもしれない未来、飯匙倩に出会わなかった獏木はこうなっていたかもしれない、という可能性。それと、金城一紀が好きな人は、真鍋昌平作品も好きだと思うのだがどうだろう。少なくとも共通の何かがある。作風にというより、創作に対する姿勢に。
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ひるお
日本全国に流通する大手企業の“ナショナルバター”と、各地に点在する地元密着の企業・牧場が生産する、独自の特徴をもった“クラフトバター”。北海道から長崎まで、津々浦々のバターを網羅した一冊。個人的にいちばん印象的だったのは、個々の商品よりも、バターの使い方(形状や加え方、そのタイミング)によって、焼き菓子の仕上がりが大きく変わってくるということ。これを知っているだけで手作りお菓子のクオリティは上がるだろうし、自分好みの食感を実現できそうだ。暮らしの中の化学にときめきを覚える良コーナーだった。
ひるお
2024/10/27 06:55

個々の商品ページも充実しており、特にバター本体の色やパッケージ紹介が魅力的なのだが、食レポは正直なくていいレベル。一つ一つの商品の違いがよくわからず、まろやか、コクがある、ミルキー、といった常套句が違う組み合わせで繰り返されるだけ。一人の「マスター」に食レポしてもらうより、違う書き手に数個ずつじっくりレポートしてもらった方がよかったのでは?(実際、伊藤まさこといがらしろみの方がレポートが緻密だ)。

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ひるお
日本で“売れる”にはその心性が必要、とまで言われるほど人口に膾炙しながら、しかしそれゆえに忌避され、批評や研究の対象から外され続けてきた存在、“ヤンキー”。各分野のトップを走る書き手がファッション、音楽、マンガ、キャラ、建築などあらゆる角度からヤンキー文化を論じ、今後の土台たらんとした意欲的一冊。永江朗、都築響一、磯部涼、斎藤環の論考・インタビュー(対談)がよかった。しかし書き手が男性ばかりだが、やっぱりヤンキーはホモソーシャルなんだろうか(という問いには斎藤環が『世界が土曜の夜の夢なら』で答えている)。
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ひるお
作家たちの読書歴やそのスタイル、執筆と読書との関係など、読書についてのインタビュー集。シリーズ2冊目を読んでみて実感したが、今現在その作家が好きかどうかと、その作家がどんな本を読んできたか/読んでいるかに対する関心は、意外にもあまり関係がない。逆に、読書に対する姿勢から、その作家の書いたものを読んでみたくなる方が多い。興味がわいたのは中原昌也、町田康。アナーキーな勢いに惹かれる。
ひるお
2024/10/26 08:25

「本を読むことは、今この世の中、この現実からいったん降りる、脱落するということ。[中略]読んで別の時間に逃避しても、文字の力によってどうしてももう一回現実の時間に押し流されてしまうところがある。自分が変わるということはそういうことなんだと思うんです。[中略]瞬発的な知識ではなく、じわじわと嫌な形で体にまわって、二日酔いのようになった状態でもう一度、現実に帰っていかなければならない。それが読書だと思います。」(:246-247、町田康)

ひるお
かつて日本全国に凄まじい勢いで建設された団地。それぞれに特徴的な外見と雰囲気をもち、しかし近年老朽化などにより取り壊し・改装・リノベーションの憂き目(?)にあいつつある“団地さん”たちの姿を写真で振り返りつつ、ペーパークラフトとしても楽しんでしまおうという欲望あふれる一冊が本書。クラフトは結構難易度が高そうだが、それぞれの団地がもつ特徴を捉えるにはぴったりなのかも。調べてみたら、団地のミニチュアやプラモデル(?)も存在するようだ。確かに、手のひらや部屋の中に置いてみたくなる。
ひるお
歌人・穂村弘によるエッセイ集。過剰な自意識がこれほど詩的になる人はそうそういないだろう。解説で編集の村井康司氏も述べているように、確かに太宰の系譜に連なる書き手だと思う。コンタクトをしつつ枠だけの伊達眼鏡をかけている、とか、自室の窓を何年も開けたことがない、とか、奇妙を超えて不気味とさえ言える、しかし忌避できない、不思議な愛らしさ。回転寿司、菓子パン、青汁、チョコレート・バー。ビビッドな手触り、グロテスクなほどの存在感。梅佳代、武田百合子、平野紗季子が好きな方にも。
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ひるお
恩田陸、伊坂幸太郎、椎名誠、東野圭吾、あさのあつこ、小川洋子ーー名だたる人気作家たちはどんな本を読み、どのように“書くこと”に至ったのか? 好きな作家、本の読み方、よく行く書店など、さまざまな角度からそれぞれの読書スタイルを探るシリーズ。作風と好みが結びついている人、思いもよらない好みの人、幼い頃から多読乱読の人、戦略的に小説家を目指した人。とにかくどの人も山ほど読んでいる。そして小説家って、なぜだか早稲田出身者が多いようだ。
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ひるお
東京という都市の成り立ち、人々の移動の経緯などを元に、「どこに住むか」の判断基準の現在や、それが生む格差、日本における都市の今後を分析する一冊。震災後、コロナ前に書かれた書であることは考慮するべきだが、それでも、あるいはコロナ禍を経たからこそ参照に値する記述が多い。例えば、IT企業などのオフィス出勤回帰など。都市礼賛に見えて、その強迫性にも触れられており、筆者の他の著作や関連書籍の補助線としても興味深い。
ひるお
2024/10/24 20:58

「人は折り重なるように暮らした方が、全体として自然環境への負荷は小さいのである。[中略]田舎暮らしの方がエコであるという勘違いが多いのも、都市=消費生活といった連想からくる後ろめたさのたまものだろう。」(:184) 都市生活の良し悪しについては、もちろん各個人の向き不向きや心身への負荷も考慮すべきであるが、この「後ろめたさ」の指摘は重要。

ひるお
2024/10/24 21:00

「都市における時間感覚とは、常に「次」が迫ってくるような類のものだろう。[中略]誰かが、都市に住むということは、海水を飲むことであると言った。目の前にのどを潤すための水はいくらでもあるが、それを飲めば飲むほど喉は渇いていく。何でもあるが、のどだけは満たされない。むしろ、渇望だけが続くのが都市である。」(:185)ウシジマくんでも「生活保護くん」や「フリーエージェントくん」の結末は地方志向だったな…

ひるお
ネタバレ何度読んでも素晴らしい。丑嶋がマサルに別れを告げるシーンが海に足をつけてのものなのは、マンゴーの果汁で汚れた手を洗うためではあるが、マサルの生まれ直しを意味してもいるんだろう。
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ひるお
地元の商店街との対立の構図に置かれ続け、今や地方都市(あるいはその土地が“郊外”“田舎”であること)の象徴にさえなったショッピングモール。哲学者と写真家が縦横無尽にモールを語る! 退屈な田舎の単調な刺激、というイメージだったショッピングモールがSFの舞台のような奇妙な有機性を孕み、独自の生態と気候を存分に拡大・浸透させ始める。ちょっとこの本は…面白すぎる。傍線を引き始めたら線だらけになってしまうタイプの本。こうやってテンション高く語ること以上に、周囲に欲望を伝染させる手段はないような気がしてくる。
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ひるお
漫画家・岡崎京子による短編集。漫画ではなく文章、かつ私にとっては初めて読む岡崎作品だったのだが、メルヘンや歴史上の人物まで引かれた退廃的な雰囲気は確かに固有のもので、評価が定まっている漫画だけでなく、文章もまた高名な賞を受けていておかしくない。金原ひとみの初期作品が好きな人ははまりそう。ひとまず『リバーズ・エッジ』を読みたい。
ひるお
2024/10/20 23:22

「一分間(あやちゃんに)」の舞台は団地を思わせるが、読む人が読めばどこの団地かが(あるいは団地かどうかが)一読してわかるのだろうな。同じ建物に住むはずの、しかし見知らぬ男性の不穏さは、閉じた空間としてイメージされる場としての団地、を思わせる。

ひるお
2024/10/20 23:25

「がちゃがちゃ狂い」に登場するサファイヤ、オーブンの中に頭を突っ込んで自殺するというのは、死因は違えどシルヴィア・プラスを想起させる。

ひるお
“不良”と呼ばれ、固定観念や先入観のもとにまなざされる少年たち。幼少期から犯罪に手を染め、鑑別所や少年院を経た後も同様の生活を続けるのはなぜなのか。高密度の取材で彼らの生き方を追った渾身のルポ。タイトルにあるように、本書はマンガ『ギャングース』の元となった作品であり、ゆえに『ギャングース』を読んでおくと、これがあのシーンの元か、この人物はあのキャラか、とわかる。どの人物も鮮やかで逞しく、しかし哀しい。生活/立場の保障の有無、合法/違法は違えど、組織で働くのなら職の裏表による差異は意外とないのかもしれない。
ひるお
2024/10/22 21:20

すごい。自分がやるべきことを的確に判断し、それを実現するための最短距離と目したならば、一見遠回りの手段でも躊躇せずに実行する。すごすぎる。

ひるお
2024/10/24 05:57

「僕が取材の中で出会った若いヤクザの多くが、「他のどこにも帰属できない」者だったからだ。痛すぎるほどに、想いが強い。他のどこでも使えないほど、危ない。[中略]スケールの違う不良少年もまた、実は孤独な存在だ。ヤバすぎて周りが引いてしまうからだ。そんな彼らにとって、ヤクザという組織もまた、ひとつの居場所だった。」(:188-189)

ひるお
大都市近郊に広がる新興の住宅地や、そうした地に特徴的な文化・生活様式“サバービア”。映画や小説、音楽など、様々なメディアでのサバービア表象を丹念に辿り、アメリカの郊外における“日常ならざる日常”=コミュニティの閉塞を炙り出す先駆的な試み。相互監視や保守化、子供たちの“非行”、人々の妄想的な行動など、今や都市近郊のイメージを超えて常識にすらなってしまった光景。既視感のある内容に思えるが、順番が逆なのだろう。本書で指摘されたような表象は着実に反復され、今や人々の中に基礎として蓄積された。また読み直したい良書。
ひるお
2024/10/17 20:54

「[承前]カーヴァーの作品のなかで不意にわきあがるような暴力の予感は、そうした現実に気づいているにもかかわかかわらず、気づいていないふりをして生きていかねばならない人間の感情と深く結びついているように思う。(:261-262)

ひるお
2024/10/17 20:54

ウィリアム・H・ホワイト『組織のなかの人間』から孫引き。「組織によって提供される精神の平和は、一つの屈服であり、それがどんなに恩恵的に提供されようと、屈服であることに変わりはないのである。それが問題なのだ。」(:539)

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ひるお
フォトグラファー・ライターであると同時に団地マニアとして名を馳せる大山顕による団地写真集。ひと口に団地といってもその見た目は千差万別、自分の好みも考えさせられる(私は高層タイプより低層タイプの方が好きらしい)。建て替えなどが進むのであろう今後、本書は貴重な資料になるのかも。ただ、団地を“男性的”“女性的”と分類する謎のジェンダーイメージは気になった。
ひるお
日本における団地とはどのように生まれ、どんな場所であったのか? 主として香里団地、多摩平団地、ひばりヶ丘団地、常盤平団地、高根台団地に着目し、交通網、政治・文化的背景などに起因する差異が生んだ特性を描き出す、“団地論”の必読書。上下左右に住む家族との距離の近さ、それゆえの親しさと煩わしさ、見られていることの強迫や同調圧力。そんなイメージはそれこそ先入観でしかなかった。自治会や婦人会、市民会議などによる、団地ごとに異なる方向性や重点の運動。閉塞感がないわけではない、しかし有機的でアグレッシブ。団地は面白い。
ひるお
2024/10/13 22:27

「丸山眞男の有名な言葉を使うなら、そこ[中央線沿線]には社会の諸制度を所与の「自然」として考えるのではなく、人間によって構築された「作為」の産物として考える政治観があったからである。」(:109)同じ杉並区でも、中央線沿線と西武線沿線では住民の政治観が違ったという指摘、面白い。

ひるお
2024/10/13 22:29

「西友との競争に敗れたことぶき食品は、七〇年、アメリカに模範をあおぐロードサイドの外食産業へと転換を図った。アメリカに模範をあおいだ点ではかつての西武ストアーと共通していたが、ことぶき食品は団地=アメリカでなく、道路=アメリカという視点をとったわけである。この視点が当たって「すかいらーく」へと発展してゆくのはよく知られていよう。」(:160-161)

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ひるお
『スマグラー』『闇金ウシジマくん』『九条の大罪』の真鍋昌平による短篇作品集。ここのところ立て続けに都市社会論やそれに類する本を読んでいるからか、4作品それぞれの舞台が気になった。「ウシジマくん」がまさにそうだったように、それぞれの土地の雰囲気の違い、その写し取り方が抜群にうまい。画面構成もうまい。額に入れて飾りたい。キャラのモノローグが長いのに浮かないのも流石だ。各作品についてのあとがきがあるのがいい。漫画には長いあとがきを付けてほしい。
ひるお
2024/10/13 21:50

本作ではなく「ウシジマくん」だが、私は夜の砂浜で加茂が獏木に火をつけられるシーンが凄まじく恐ろしく美しいと思っている。あれを額装して部屋に飾りたいくらいに。恐ろしいものを一足とびに、見る人にとって決定的なものにしてしまう表現力が、この作者にはあると思う。

ひるお
女子校群像劇漫画第4巻。またもあっという間に読み終わってしまってエッ…? ってなる。卒アル写真撮影、先生の休日、父兄との遭遇、会話の一部だけを聞いて誤解、久々に会った親戚の子供に振り回される…などなど、一つ一つのトピックはもはや古典的と言っていいほどお馴染みのものなのに、なぜか/どこかSF的に不思議で飽きさせない。現役高校生ではなく、かつて高校生だった人間の立場で、ある種のノスタルジーとファンタジーを抱きながら読んでいるからか。現役女子高生はこの作品をどう読んでいるのだろう。
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ひるお
平松洋子による東京食エッセイ。神保町カレー探訪、荒川線文士ゆかりの地巡り、銀座で一人ごはんするなら、など、その土地その土地のカラーを感じられるものだらけ。必ず行きたい店、食べたい味が見つかる。巻末には東海林さだおとの対談も収録。確かに、まずいもの/ことを(貶すのではなく)書くのは至難の業だ。個人的に、まずさを面白く書ける書き手は、武田百合子、向田邦子、平野紗季子、この3人。味がグロテスクに転じるその臨界点、しかしそこにある懐かしさ、あるいは可能性のきらめき。この3人の筆致が捉えるのはそうしたものだと思う。
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ひるお
英文学者・翻訳家・作家・エッセイストとして知られる吉田健一のエッセイ集。肩書を並べてはみたが、彼の本当の身分はこうした職業ではなく、酒飲みかつ美食家であり、さらには日々を、生を愉しみたい、と願う者なのかもしれない。古いものになると1950年代に書かれた作品もあるが、現代のブルシットな状況を批判するような内容さえ見られる。人々が心を失っていく過程、その気配に鋭敏に反応し、そうした流れに抗おうとしたのが吉田健一なのだと思う。
ひるお
2024/10/08 18:59

「この、環境はすっかり違っていて、人間にとって本能的なことだけが残り、それがいつもとは違った新鮮味を帯びるのが旅というものを楽くし、旅で食べるものをあんなに旨くするのだという気がしてならない。」(:116)

ひるお
2024/10/08 18:59

「旅をしている時だけ、普通並に人間らしい生活をするのでは、何れはやって行けなくなる。つまりは生活の問題になるらしくて、それが自分が住んでいる場所になければ、これをどうにかして取り戻す他ない。東京にも生活があっていい筈なのにとも、この頃は思うようになっている。」(:142)

ひるお
更新され続ける都市の過去/今/これから。漫画や小説、映画などの作品における東京の表象の変遷を追う評論集。都市社会論としても、メディア論としても優れた内容で、『団地団』で触れられていたものの、書籍上はさらっとした記載にとどまっていた部分を復習できる。また、東京の各エリアとそれぞれの持つ“感じ”を(ある程度)インストールするには最適。東京という都市においては水辺が重要なのだと実感する。
ひるお
2024/10/08 19:00

「[前略]工場や団地、ジャンクションといった都市建造物などの写真を撮る写真家の大山顕は、「水運インフラのための日本橋川(これだって人工だ)、街道インフラ整備としての日本橋、そして昭和の大インフラ・首都高、と各時代のトランスポーテーション・インフラがミルフィーユのようになっている貴重な風景なのだ。ついでに地下には銀座線もいる。全四層」と、レイヤー型に積み重ねられる都市の構造を指摘する。大山にいわせると、「“醜い景観”があるわけじゃなくて“醜い見方”があるだけだと、ぼくは強く思う」」(:200)

ひるお
2024/10/08 19:00

「鉄道は、交通手段、テレビは映像メディア。両者はまったく別の分野に見えるが、メディア研究者のマーシャル・マクルーハンによるメディアの定義は、人間の身体を拡張するテクノロジーということになる。移動のための足の拡張である鉄道はメディアだ。また、線路というネットワークの向こうに接続された街について想像を巡らすことができるという意味においても十分メディア的である。」(:204)

ひるお
通過儀礼というモチーフに着目して日米の映画を読み解く評論集。アメリカの映画では父殺しや通過儀礼が明確に描かれ、それに失敗した者には死が訪れるが、日本の映画における通過儀礼はどちらかといえば曖昧かつ抽象的、という指摘にはなるほどと思ったものの、全体的に薄味という印象。それだけ通過儀礼への着目が人口に膾炙したということなのかもしれない。
ひるお
2024/10/06 20:55

「通過儀礼の移行の期間は、時間的に限定されているところに特徴がある。それは、時間が限定されているからこそ、本気で試練に立ち向かおうとする気持ちがわいてくるからである。」(:29)

ひるお
2024/10/06 21:03

「宮崎アニメの主人公たちが、どういった矛盾に直面しているのかは、つねにあいまいにされたままなのである。妙子はなぜ農村に惹かれ、ポルコは豚にされてしまったのか。その理由はさっぱりわからない。矛盾や試練が明確でなければ、通過儀礼に発展することはありえないのだ。」(:96)

ひるお
光を遮る、好きな街に/好きな人と住む、本/音楽/服と住む、寮/一軒家/団地に住む。それぞれが確固たる意志をもって、生活を選び、作り、続けること。『賃貸宇宙』に登場する人々の部屋はどれもそうした営みの凝縮だ。漫然と生きている人はいないという感じがする。下巻にジョン(犬)氏が登場していて驚いた。上巻もそうだったが、きっと自分が知らないだけで、実は有名な人がたくさん出てきているんだろうな。(文庫版後記には有名になった人は一人もいないと書いてあるが)
が「ナイス!」と言っています。
ひるお
団地団。それは団地をこよなく愛する写真家・脚本家・編集者/ライター3人によるユニット/イベント。それぞれの知見を存分に活かし、映画やアニメ、ドラマなどに登場する団地の表象について熱く語る。あくまで団地にフォーカスしているとはいえ、作品分析/批評はこんな風にやるのだ、という参考になり、様々な作品を知ることができ、傑作アニメの裏話さえ知れる。何より“好き”というエネルギーはすごい。私自身元々団地に関心がないではなかったが、単に安いとか広いとかいう理由からではなく、住んでみたい、と思うようになった。
ひるお
2024/10/06 21:18

ある作品が団地を取り上げる/団地を舞台とする理由。①「目撃する他者が発生する団地の構造を利用して描くという方向」②「生活の舞台の変化をテーマにするに当たり、モダニズムへの批判を込みで団地を取り上げるケース」(:185)

ひるお
2024/10/06 21:19

都営白鬚東アパート、早速画像を検索したが、これはすごい…! その他、マンションポエムについてのコラムや「地図メトラー」としての謎スキルなど、大山氏の並外れた洞察力に目を見張る。団地への欲望が転移する!

ひるお
個人的にはもう少し各エピソードに踏み込んでほしい。高柳先生の過去も徐々に見えてきたが、これ、全部明かされる予定はあるのだろうか。
が「ナイス!」と言っています。
ひるお
平松洋子による、東京を中心とした“味なメニュー”探訪。平松には台所エッセイとでも言えるような、自宅での料理や道具などを扱う作品も多いが、その持ち味がもっともいきいきと輝くのは、こうした店めぐりドキュメントだと思う。銀の塔のビーフシチュー、アジアンランチのおかず、APOCのパンケーキ、551蓬莱の肉まん…食べたことがあってもなくても、なぜか記憶の中で舌に添うような味。店主や店員一人ひとりの視点が、それぞれをさらにおいしく温かくしてくれる。家で食べるのも気楽でいいけれど、外食にも驚きと安心とときめきがある。
が「ナイス!」と言っています。

ユーザーデータ

読書データ

プロフィール

登録日
2016/06/12(3113日経過)
記録初日
2016/01/13(3264日経過)
読んだ本
4026冊(1日平均1.23冊)
読んだページ
916490ページ(1日平均280ページ)
感想・レビュー
1494件(投稿率37.1%)
本棚
8棚
自己紹介

割と何でも読む。お気に入りの本を「365冊」本棚に入れています(自分にとって大切な本、すごく面白かった本などを、蠱毒みたいに365冊集めようという計画)。「参考文献」は研究関係(ジェンダー、セクシュアリティ、BL、ファンダム、精神分析、現代思想などなど)。感想・レビューはコメント欄に続きを書くことがあります。

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