⇒また、スターリンが第二次大戦前後に示した領土に対する野心(それは安全保障を憂慮する心理に発していたようだが)も、そのままプーチンに受け継がれている。抑圧によって国民を恐怖させ、政府に従わせる統治手法まで同じだ。上述したスターリンに対する評価の問題と考え合わせると、ロシアは今なおスターリンという精神的な桎梏から逃れられていないのであろう。本書によると、フルシチョフはスターリンを讃えることは奴隷の心理だと語ったそうだが、現代ロシアでスターリンをプラスに評価する人たちはどう思うのだろうか。(3/3)
先日読んだこちらの本で、民主的な選挙における「情報コスト」について触れられていた。有権者は、投票先の選択にあたって自分で収集した方がよい情報の量が増えるほど、その作業に大変さを感じて判断が適当になってしまいがち、という指摘だった(その意味で、参議院の非拘束名簿方式は人にも党にも投票できるから情報コストが高いという)。こう考えると、最高裁裁判官の国民審査は、政治以上に縁遠い司法の領域の情報を集めないと判断ができないので、一般国民にとっては情報コストがかなり高いことだなと、今回つくづく感じる。
⇒ただし三島は、近代保守の思想と全面的に対立していたわけではない。「反革命宣言」では、「言論の自由」を保障する制度としての代議民主制を擁護しているし、本書が指摘するところでは、三島自身が「自分は相対主義者だ」と発言していたという。それがなぜ日本への熱誠を叫んで自刃するに至ったか。本書では謎とするに留めているが、思うに、三島は己の美学に殉じたのだろう。政治「活動」家であって政治家でなかった三島が、具体的な制度構築の提案よりも、自身の至上と信じる価値に殉じることを選択したと考えれば合点がゆく。⇒(3/4)
⇒なお本書では、三島の人物像に対する独自の解釈は示されていない。その激しい恋闕の情の淵源を、水戸藩との浅からぬ縁に求める等、ユニークな切り口からの議論もあるが、それらをどのような意味に解するかは読者次第である。また、これらの議論は基本的に推測の域を出ておらず、論証が尽くされているとは言いがたい。その点にも注意を要するだろう。構成も、様々な論考を断片的に集めてつなぎ合わせた印象を拭えなかった。さらに、関係者の顔ぶれに、かなり「右寄り」と評価されている人たちが散見されることも個人的に気になった。(4/4)
⇒日本の選挙制度とそれを取り巻く知的環境の問題点を指摘した後、筆者は次のように選挙制度改革の方向性を描く。すなわち、改憲も視野に入れつつ、参議院の権能を弱めて衆議院の優越を明確化させ、さらに衆議院を小選挙区制か比例代表制のいずれかに一本化するというものだ。議院内閣制下で、内閣を支える「機能する多数派」の形成を第一に考えるなら小選挙区制への一本化が理想なのだろうが、少数政党への門戸を事実上閉ざすこの選択肢の実現性は、社会に対する政党の構造化が弱いわが国では未知数と言わざるを得ない。⇒(3/4)
⇒日本人に「理念」がないという指摘は、選挙制度だけでなく政治の仕組み全般に対して妥当するのではないか。例の「裏金」問題にしても、検討の過程を無視して一足飛びに「企業・団体献金、政治資金パーティーの禁止」という、民主主義の理念に反する短絡的な提案に飛びついてしまう。思考の軸がないから、耳心地のよい話にたやすく惑わされるのだろう。理念を基に順序立ててじっくり思考するということが日本人は得意でないのかもしれない。もしその宿痾が今次衆院選に影響して国の舵取りを誤るようなことがあれば一大事だ。(4/4)
⇒ロシアにおける評価では、ドイツ軍を退けたスターリンの「功」と、粛清や虐殺などの「罪」が表裏一体で結びついており、どちらかというと「功」を強調する議論の方が優勢のようである。私はロシアでのこうしたスターリンへの評価に違和感を覚えた。このような意見からは、「個人」や「自由」の尊厳に対する考察が抜け落ちてはいまいか。ウクライナに侵攻したプーチンに対する支持が落ちない理由として、ロシアにおける「自由」に対する信頼の低さを指摘する声があるが、スターリンへの肯定的な評価も、同じ文脈上にあるように思える。⇒(2/3)
⇒また、スターリンが第二次大戦前後に示した領土に対する野心(それは安全保障を憂慮する心理に発していたようだが)も、そのままプーチンに受け継がれている。抑圧によって国民を恐怖させ、政府に従わせる統治手法まで同じだ。上述したスターリンに対する評価の問題と考え合わせると、ロシアは今なおスターリンという精神的な桎梏から逃れられていないのであろう。本書によると、フルシチョフはスターリンを讃えることは奴隷の心理だと語ったそうだが、現代ロシアでスターリンをプラスに評価する人たちはどう思うのだろうか。(3/3)
⇒因みに谷垣幹事長の前任は現首相だが、本書では石破氏と安倍総裁の波長が合っていなかったと述べられており、『安倍晋三回顧録』でも、石破氏交代の経緯が赤裸々に語られている。さて、幹事長となった谷垣氏は、安倍総裁を密に補佐し、消費増税延期を問う衆院選を取り仕切る等した。財政再建論者で「税と社会保障一体改革」三党合意の当事者だったが、持論を封じて総裁の政策実現に協力したのである。ご本人は終始謙遜されているが、2010年代の自民党史を語るには、党のまとめ役としての谷垣氏の存在を決して抜きにはできない。⇒(2/3)
⇒自転車事故で障害を負ってからは、リハビリのかたわら障害者や犯罪者の社会復帰支援に従事されている。私自身、司法福祉の業界にいながら、谷垣氏が全国保護司会連盟の理事長を務められていることを知らなかった。反省。齢八十を目前にして日々のリハビリをたゆまず「自助・共助・公助のバランスが大事」と語る姿には非常な説得力がある。また、昨今の派閥解消の流れに対する憂慮の表明も必読だ。政界の裏話が満載というわけではないが、谷垣氏の実直な人柄がにじみ出たオーラル・ヒストリーとしてぜひ一読をお勧めしたい。(3/3)
読書の記録管理と、新たな本との出会いを求めて利用中。
本を読むのは好きな方ですが、速度が遅いのであまり数はこなせません。それに飽きっぽい性格なので、読みたい本に次々目移りしてしまい、中途半端な積読が書棚の奥で埃を被ることもしばしば・・・多読家の方々には本当に敬服します。
令和6年は、昨年も目標に掲げながら惜しくも届かなかった年間60冊の読破を改めて目指します。
読むジャンルは、主に日本近現代史関係と、政治学や政治思想に関する本です。小説(娯楽傾向の強いものよりも、歴史や政治が絡む本中心。最近は歴史改変メインのSFも読むようになりました)も読みます。
平成元年の生まれですが、昭和戦前期世代の作家ばかり読んでいました。その影響で現代の作家はほとんど読んだことがありませんでしたが、最近になってぼちぼち読むようになり、その面白さを知りました。少しずつですが数を増やしていきたいと思います。
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⇒ロシアにおける評価では、ドイツ軍を退けたスターリンの「功」と、粛清や虐殺などの「罪」が表裏一体で結びついており、どちらかというと「功」を強調する議論の方が優勢のようである。私はロシアでのこうしたスターリンへの評価に違和感を覚えた。このような意見からは、「個人」や「自由」の尊厳に対する考察が抜け落ちてはいまいか。ウクライナに侵攻したプーチンに対する支持が落ちない理由として、ロシアにおける「自由」に対する信頼の低さを指摘する声があるが、スターリンへの肯定的な評価も、同じ文脈上にあるように思える。⇒(2/3)