形式:新書
出版社:集英社
形式:Kindle版
ゴジラを「戦没者の怒りの魂の体現」と見る人も今はほとんどいないだろう。ただ、そんな価値観を大切にしたり想像したり主張したりする自由は確かに大切にしたいと思うので、「反日売国」と強く揶揄することには距離を置きたいな、と。
なのではないか。強い立場の人びとの「正義」の物語をお手本にするよりも、新たに自分たちの「正しさ」を模索することのうちに、「正しさ」の基礎はあるのではないか。また、そのことのうちに、本当の成長も兆すのではないか。」「敗北することによって、そこからどんな課題を受け取るか。それが敗者にとっての問題なのだが、このこと、どのような条件のなかでも、「成長」の強迫観念から自由であること、「成長」の急きたてに懐疑的であること、そして自らのゆったりした速度で、与えられた条件に制約されつつ、自分にあった「成長」の仕方を
めざそうとすること、それが日本社会が戦後、米国流の近代成長神話に対して受け止め直し、つくり直した命題なのである。」この考え方は、いまの日本ではまず受け入れてもらえないものだと思う。
「私を離さないで」の、ヘールシャムとヒロシマを重ねた日本人論、「ゴジラ」の、忘れられた戦没者の回帰論など、前半の議論には歴史と作品の紐づけが綺麗で説得力がある。後半の大江論は、沖縄集団自決裁判で極右からの攻撃を受けた大江の体験と、『水死』の物語とを詳細にというより執拗に照らし合わせたもので、説得力より迫力がある。曽野綾子と大江の対照的な道筋も面白く読んだ。多田道太郎の非応答の抵抗は『バートルビー』、または西谷修の「バートルビー=アメリカ先住民」論とつながっているように思う。
この本の重要なテーマ、「占領期の忘却」(1945~1952のGHQ)を書き忘れていたことに驚く。考えを展開さえすぎかもしれないけれど、大問題として指摘されていた「忘却」をさらに「忘却」してたことは根の深さを物語っているような・・・
敗者となるには2つ必要なことがある。1つは、負けた屈辱を受け止めることである。そして、もう1つは、勝利では得られない経験を見極め、その経験を全身全霊で知る感受性を養うことである。
解に続き、曽野綾子と吉本ばななを比較して、大江健三郎と対峙させています。大江のサルトルからの「借り物」と批判される一方で、占領期を的確に捉え、その後に長く続く敗戦後の問題を予言させるアンビバレントな評価に読み応えがあります。前半にあるこの占領側(曽野)と非占領側(大江)の対立は、後半の『水死』の批評の前提となる裁判の原告と被告の布石になっています。大江の小説でも問われた「戦後民主主義」が、ヘミングウェイ『老人と海』の「人間は負けるようにできている。しかし負けても、打ちのめされたりはしない」に重ねられます。
81 高嶺剛『パラダイスビュー』について(1985年)(『ホーロー質』所収、1991年) 85 敗北の直後に訪れる多幸感(ユーフォリア)→「解放者」に対する幻滅と覚醒、敗者の精神的・道徳的な優位性へのすがりつき +敗戦国に生き残った者とその敗れた戦争で死んだ者の、関係の切断 (橋川文三「敗戦前後」) 169 LL4 210 大江『水死』 78歳 ギュンター・グラスのナチスの武装親衛隊所属告白→グラスの孤立への共感→大江も戦争中は軍国主義時代の絶対天皇崇拝の少年だった
"私が、この文章を書くに際し、自分用に作成した「大江健三郎受難記録」なる簡易年表をここに載せることは紙面の関係で差し控えるが、"
こういった背景が、具体的に『水死』のどの筋に投影されているかの説明が、加藤典洋 氏は驚くほどうまい。そして本書165頁、「批評と言うのは、『本を一冊も読んでいなくても、百冊読んだ相手とサシの勝負ができる、そういうゲーム』と記したら、この言葉をくさす、小谷野敦の『デリダやフーコーを知らないのなら、読めばいいのだ』……何だそんなもん、単に怠慢なんじゃないか、という発言を読んで、目からウロコが落ちる思いがした」と書いており、僕は笑ってしまった。もちろんこの「批評」のすぐあとに続きがあるが、――
少しとんで別の続きを。大江『水死』論にて――「彼(大江)は、彼の戦後民主主義的な信念を自虐的な『非国民』のたわごとと非難するウルトラ右翼の批判の、その内奥深くまで彼のメスの切っ先を沈める。もし島民の集団のなかにこのとき10歳の自分が身を置いていたら、やはり『天皇陛下万歳!』と叫んで死ぬということもありえた!そう名誉毀損の被告の席で彼は感じるのだ」(232頁)。この語りが、先の加藤氏の「目からウロコ」と重なって思えた。今度は笑えなかった。そういえば冒頭には文庫版『死者の驕り・飼育』所収の「人間の羊」の話も。
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