形式:文庫
出版社:新潮社
出版社:岩波書店
形式:Kindle版
出版社:情報なし
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読み終えて眼窩が熱くなった。街の大動脈に沿うように滔々と流れるテムズ川…見たことのないこの大きな川の描写に旅情を感じた。潮の関係で渦を幾つも形成し、上流に引き返せずに波止場で待つシーン、テンプルという街、引き潮に乗ってグリニッジまで漕ぐ…など霧のたちこめるその風景を思い描くのは愉しかった。時折くすりとするような表現があってユーモアが見えるのも読みどころの一つ。ラスト付近のテンプルの船場で「見ていたのはその近辺に住む両生類のような二、三人だけだったが」に笑ってしまった。
この翻訳、古い故に今と生活が違いすぎることによっていろいろ訳が「変」なのも味となっている。バタつきのパン、おらんだぜり、スコーンの解説等々…
最後にピップにとっての『大いなる遺産』は、親友のハーバートやジョーとビディの存在であり、かけがえのない財産だと感じました。
ガーディアン1000冊 49冊目 2/2
【抜書2】「わしらがふたり、被告席につれだされたとき、わしはなによりもまず第一に、巻き毛で黒い服を着、白いハンケチをもってるコンペイソンのやつが、どんなに紳士らしく見えるか、それから、自分がどんなにつまらんみじめな虫けらに見えるかってことに気づいた。求刑がはじまって、証拠がまえもって手短にのべられたとき、わしはそれがみんなわしにばかり重くかかって、あいつには軽くしかかからないってことに気づいた。証人席で証拠がのべられたとき、前に進み出て、証言を述べさせられるのはいつでも自分だということ[…](p230-)
【抜書3】[…]わたしは、いったいどうして昔彼を無能な人間だなんて考えたのだろうと、なんどもふしぎに思った。が、ある日、たぶんその無能さは彼のうちにあったのではなく、わたしのうちにあったのだと反省してみて、いっさいが氷解した。(p515)
「わたしはわたしの数多い訳書のうち、いちばん懐かしい、いちばん好きな作品として、この訳書を若い方たちに贈ります。だれはばからず、思いきり哀れみ、愛し、憎み、激しく蔑み、ほんとに怒り、思いきり泣いてください。そして、ただ笑いと涙に流されてしまうだけでなく、作者がこの作品の中に魂こめて描きこんだ作者のメッセージを読みとるひとも何人かあってほしい。それは、すべてのひとは、幸福であり、豊かである権利がある、ということです。それをふみにじるものをば本気で怒り、抗議し、糾弾することです。ディケンズのように!」
途中で挫折しリベンジした作品だが、読み終えてみると、ディケンズの中では登場人物そんなに多くないし、三人称で神(ディケンズ)視点が入りこんでくるわけではないし、読みやすいほうだったのかもしれない。あと、余韻たっぷりのこのラストはやっぱりすごく素敵だなあと思う。あー、面白かった!
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