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◆単行本は1979年刊。著者は大阪商科大卒・戦後は文筆業ではなく企業の専務。収容所でのメモによる私家版の戦記が、関連文献を収集していた野呂邦暢に見いだされ出版されたという。著者は砲兵で二度目の応召だが、比島派遣の時期やフィリピンの周辺的戦場での敗残行の末に捕虜となった点でよく似た体験をした大岡昇平がオビを書いたそう。◆周辺といってもフィリピン最南部のホロ島は六千名も日本軍がいたところで、米軍との戦闘と飢餓・病気ばかりか、イスラム系の原住民(モロ族)に襲撃により、ほぼ全滅したというところ。
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◆近代的軍隊やゲリラが相手ならまだしも、ジャングル内で蕃刀や弓、さらには鹵獲した武器で襲われる(しかも落伍すれば首をはねられたり肝臓や金歯を抜かれたという…)ことの恐怖が、島上陸後の悲惨な描写の一面でありこの戦記の非凡な側面だが、もう一方に、極限を迎えた戦地で多発したであろう、将校と兵からなる軍隊組織のあっけない融解の様が(やや装飾の多い文体の中に)つつみ隠さず描かれている。

09/13 21:13
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「各隊とも、最初は分隊炊事であったが、患者が多くなるにつれて、元気な者は毎日危険と疲労を冒して徴発に出ねばならぬし、患者や、ずるい者は寝ていて一人前に喰うという、不平や、口論や、陰口が次第に多くなり、互いに離反し、気の合う者や、元気な者同士が数人ずつ組んで、独立の世帯をするようになった。病人や憎まれ者は自然と捨てられて行った。今まで階級の力で下級の者をいじめていた連中は、この時とばかり仕返しを受けねばならなくなった。」

09/13 21:27
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「病は即ち死である。暫く養生すれば、すぐ治る病気でも、その間、喰わしてくれる者がなければ、無理をして病勢を悪化させるか、もしくは餓死か、二つに一つの道しかなかった。数人の共同生活と雖も、お互いに利用し合う共同世帯であるから、利用価値がなくなれば、直ちに捨てられて弊履の如く顧みられないのが常であった。」

09/13 21:29
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「かくて任意の共同世帯から個人世帯へと、急速に各人が孤立して行った。「将来自分が病気をすれば、人に助けてもらわねばならぬ」というのは、余裕のある時の考え方である。その日その日の、生をつなぐに精一杯で、明日の生命の期し得ないところでは、将来に対する配慮もなければ、義理も、人情も第二義的である。共同による今日の負担に堪えられなかったのである。最も協働の必要なる時期であるにも、反対に、各人が孤立して行ったのである。」

09/13 21:31
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「幹部がこの悪傾向を禁止するため、種々の命令を出したが無駄であった。共同世帯における上官の不当利得もまた、兵をして共同せしめなかった原因の一つでもあった。/ かくて、歩哨に立っても、その間、誰も喰わしてくれないから、いきおい、警戒よりも自己の食糧獲得の方が、歩哨にとって重大関心事となり、ために敵襲の犠牲が日を追って増大し、応戦命令に従って負傷しても誰も面倒を見てくれないから、つい、応戦せずに先を競って逃げるようになり、犠牲と個人世帯が悪循環して行った。」以上、94-95頁「個人世帯」の項より。

09/13 21:33
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読書データ

プロフィール

登録日
2011/08/23(4963日経過)
記録初日
2006/07/24(6819日経過)
読んだ本
2610冊(1日平均0.38冊)
読んだページ
811394ページ(1日平均118ページ)
感想・レビュー
1992件(投稿率76.3%)
本棚
12棚
性別
年齢
38歳
職業
教員
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