冒頭からヒリヒリする父と子の遣り取りが続き、時に読むのが苦しくなったりした。それでも読ませる。最後は感動的な場面となっているが、このような終わり方しかなかったのだろうか。タイトルの『惑う星』は実に意味深であり著者ならではの世界だと納得させられた。
そこには身体的な病は病院という閉鎖空間に孤立する患者が対象という前提がある。患者には家族や友人がおり、地域社会や学校、仕事場、そして地域の歴史がある。そうした人間関係なしの人間などありえない。
ただ歩くことでもかなりのジェンダーギャップがあることの論述はさすがソルニットだろう。書を捨てよ、町へ出よ、なんて気楽に言えるのは男性だけだった昔。今日だって女性は特に夜は一人での外出は危険が伴う。嘗ては猶の事。そうした意識(体験)があるからこそのソルニットの本書なのだろう。
そういえば、島田 雅彦は散歩哲学なる本を書いている…とまた脱線しそうになって、ふと、大学生になった年だったか、素九鬼子の『旅の重さ』を発見し読んで衝撃を受けたことを思い出した。「ママ、びっくりしないで、泣かないで、落着いてね。そう、わたしは旅に出たの。ただの家出じゃないの、旅に出たのよ(つづく)」の書き出しで始まる小説。ママより吾輩がビックリ仰天だったよ。そんな少女が居るのか! 懐かしいこの単行本、書庫に遺っているはず。
「ヒーラ細胞」の話題も不気味だった。51年に亡くなったあるアメリカ人女性のがん細胞を培養したもので、かなり有名な細胞だろう。その細胞は今もフラスコの中で培養され生き続けている。それだけでも怖いのだが、60年以上も「飼育」されているうちに遺伝子がどんどん突然変異を起こしているという。この細胞ではいま、染色体が82本あるものを中心に、さまざまな染色体数のものが現れているという。もはや「新生物」か、という話が一番気になった。突然変異に常識は通じない。
本書で特に興味深かったのは、第三章の「新テオティワカン像と文明再考」だった。発掘が進んできたことで、単独の王権があったとするより、共和的な連合政権の存在を提唱する研究者も現れているというのだ(結論は出ていない)。
過日読んだデヴィッド・グレーバー/デヴィッド・ウェングロウ著の『万物の黎明 人類史を根本からくつがえす』 (光文社)で示された従前の線型的な文明像の根底的な見直しと相俟って(?)、メキシコの古代文明像も再考が迫られているのだろう。 それはそれとして、本書はカラー図版に限らず白黒画像も図も豊富で見ごたえがあるし楽しめた。
「そのような図形や数好きとして、そして、美術・文芸好きのつぶやきとして、さらには、歴史上最も古い数理科学の末裔である天文学の一端にたずさわってきたエンジニアとして、頭の中に浮かんだあれこれを書き留めたものである。」いいね!
原発と核兵器を結び付けているのは、正力以後の読売系の連中です。著者は取材したことを書いてるだけ。広島長崎や福島原発事故の悲惨を体験した我々は困難でも原発なしの世界を目指すべきと考えます。ドイツを始め至難の道を選んだ人々を先駆者として学びたいものです。
『黄金虫変奏曲』を書店で発掘して、多少は難儀しつつもこれは発見だと感動した。その後、二度ほど書店に足を運んだが、『惑う星』しか置いてない。訳書としては最新刊だからか。
冒頭からヒリヒリする父と子の遣り取りが続き、時に読むのが苦しくなったりした。それでも読ませる。最後は感動的な場面となっているが、このような終わり方しかなかったのだろうか。タイトルの『惑う星』は実に意味深であり著者ならではの世界だと納得させられた。
ドラマチックなほどに面白かったのは、「サピエンスは発生時から現代人と同じ脳だったはずなのに、何万年もの間未開な狩猟採集生活のままだったのはなぜか、という疑問に対し、否、その黎明から多様な生活共同体、政治思想、世界的交流があったという。詳細な実証事例をもとにした論旨は社会進化論をはじめ近代啓蒙思想への批判である。逆に北米先住民のほうが西欧思想を批判し、当時の啓蒙思想家に大きな影響を及ぼしたのだという」点。
未開とされる狩猟採集生活にあって、実は女性らの果たした役割の大きさにも縷々語られている。これも瞠目すべき説だった。 とにかく副題の「人類史を根本からくつがえす」は伊達じゃなかった。
仏教伝来当初から庶民は勿論支配者層にしても、旧来の神に新たな神が襲来したくらいの認識。仏教としての純粋化理論化が極められる一方、対抗しての神も神道としての理論化権威付けが進められた。同時にそれぞれの中での分派活動も盛んだったり政治などに利用されたり、仏教と伝来の神とは何処までも深く複雑に絡み合ってきた。明治維新前後の排仏など机上の空論を無理やりやってしまったのだ。そのツケが無謀な戦争につながったのではなかろうか。
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『黄金虫変奏曲』を書店で発掘して、多少は難儀しつつもこれは発見だと感動した。その後、二度ほど書店に足を運んだが、『惑う星』しか置いてない。訳書としては最新刊だからか。