冷戦中にCIAが『ドクトル・ジバゴ』をソ連崩壊の道具にしたのは事実で、作者は2014年に父親が送ってくれたワシントンポストの記事に興味をひかれ、CIAが機密解除した書類に目を通し、不足している部分をフィクションで埋めることにしたのだという。西の語り手はCIAのタイピストたちだし、東もパステルナーク自身よりオリガの方に重きが置かれている。政治に翻弄され、その陰でひっそり息づく女性たちを作者は書きたかったのかもしれない。
黒人に図書館カードを使わせるというのは、非常に勇気のいることだった。それでも貸してくれる同僚が身近にいた幸運。何かを新しく始めるには、本人の強い勇気だけでなく理解者と運が必要なのだと改めて思った。
「彼女たちのうちの一人が、家に六ヶ月の赤ん坊を残してきた、という」そして、彼女は余白に鉛筆で「ママ」と書いた文字を指さす。ここに私のママがいる、と。自分の家族が確かに生きていた証を探したい。作者の思いも、同じなのだ。
そのままその書簡を使用した、としている。『悪霊』は書簡だけなのだが、『乱歩殺人事件』では、書簡の差出人である祖父江という新聞記者が語り手として書簡の前後を埋める役割をし、最後には書簡を買った作家江戸川乱歩も登場。そして、なぜ『悪霊』は連載中止の理由が明かされる。全体的な暗さ、隠微さが、江戸川乱歩っぽく、書簡に散りばめられた伏線もかなり上手に回収できているように思う。また、『悪霊』執筆中に泊まっていたという張ホテルも登場して、そこでの出来事がまた妖しげな雰囲気を醸し出している。
ガーディアン必読書1000 長文レヴュー http://jisyameguri.jugem.jp/
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