読み友のみなさん7月度も沢山のナイスを下さいまして誠にありがとうございました。体力的な問題と年齢からくる衰えで夏場のレビューは相当苦しいですね。最初から大きな目標は立てずにもう一度原点と初心に帰って少しずつ書くしかないですね。今月もお願いしますね!2022年7月の読書メーター 読んだ本の数:27冊 読んだページ数:7425ページ ナイス数:34738ナイス ★先月に読んだ本一覧はこちら→ https://bookmeter.com/users/868158/summary/monthly/2022/7
ヨシさん、こんにちは。私の考える理由は警察官が堂々と悪に手を染める内容が昔の感覚としては酷く不名誉な物語と感じられて受賞作として読み継がれる事を不適当とみなし体裁に配慮したからだと思いますね。
美音子は依頼を受け調査を進める内に二人の死の状況に、妊娠の末に流産しながら胎児が見つからないという不気味な共通項がある事を知るのだった。本作は今の時代に発表されたらイヤミス・おぞミスと呼ばれるでしょうね。中々に大長編で中盤までは優子と美音子の章を交互に描いて冗長気味にモタモタしますが後半には一気に展開が加速し息もつかせぬサスペンスで予想もできない結末に雪崩れ込みますがラストもハッピーエンドとはならず悪夢の未来で幕を閉じます。当然乍ら嫌悪を抱かれる異端の物語ですが私はホラーの力作として高く評価したいですね。
第2章から麻美の妹・奈未が語り手に交代し夫が謎の死を遂げると義兄と協力して調査に当たると姉が小説を書いていた事や、妹・奈未の名で男と会っていた事を知る。事件の真相は強烈などんでん返しで意外な真犯人が判明してハッピーエンドかと思いきや、そこで終わらず善玉・悪玉に関係なく襲い掛かる不幸が恐ろしい災厄を招来し、まさに未曽有の医学パニックに発展して行くのですね。謎解きはフェアかどうかは別にして意外性抜群ですし結末の無慈悲さも半端なく、この物語のラストは我々が昨年2021年度に何度も経験した事態で幕を閉じるのです。
『手練手管を使う者は』バーでのホスト殺人事件の容疑者に弁護を依頼された麗子だが彼女は冷静に謎を解く。『何を思うか胸のうち』事務所の運動会の日に先輩弁護士が急死した謎を鮮やかに解く麗子。『お月様のいるところ』認知症を患うお婆さんの家で首吊り死体を発見し謎を追う麗子。『ピースのつなげかた』互の葺替えに端を発し近隣に不幸が続くというオカルトめいた事件の真相は橘刑事に解決されるが麗子は最後に重大な欺瞞を見破る。著者は2冊新シリーズを出されていますが、次は大事件をひっさげて愛着のある麗子シリーズの新作を望みますね。
何とまあ、著者の通算6冊目で今年4冊目の新作が発売されたばかりだと今日知りましたよ。新川さんは凄い馬力ですねえ!これなら年内にもう2冊ぐらい出ても不思議ではないですね。昔はこういう多作家もおられましたが最近は珍しい事で、しかも全部が売れまくるのですから本当に素晴らしい逸材だなと感心しますます期待が高まりますね!
ブログの常連メンバーによる恒例の夏のオフ会がメンバーの黒沼夫妻が所有する小笠原諸島の又従兄弟島の別荘で今年も開かれる。フェリーに乗船前に殺人犯が質屋の中浦と出くわし即興で殺して見事なトリックを仕掛け警察を誤魔化す。今年はメンバーのフリーライター・成瀬が自分の半分位の年の赤毛の女子高生の恋人・上木らいちを連れて来る。別荘の主人・黒沼は事故により顔に仮面を装着していて妻と何やら揉めている様子だ。語り手の僕・沖健太郎は島に着くと南国モードの俺に変身して陽気にバカ騒ぎする。だが黒沼の妻と男が姿を消し殺人が起きる。
本書はミステリーマニアを喜ばせる隠された重大な秘密や謎解きの面白さも十分でファンには堪らないでしょう。でも私は唯一第6章の前の挿話は意図は理解できるものの余計な記述に思えて不愉快でしたね。まあ普通は本書を万人にお奨めしたい所ですが一点だけ読者を選ぶであろう重大な注意があって、それは本書の手掛かりと謎解きが大人のエロイ少々お下品な内容である事で潔癖な方は覚悟して読む必要がありますよ。でもミステリー以外の部分でも主人公・健太郎のふざけた喋りも愉快で青春恋愛小説の趣もあって、ご陽気に楽しめる痛快な一冊でしたね。
『もう一度コールしてくれ』若き日の不運のせいで窃盗犯に身を落とした若者が再び当事者の審判に会って知らされる意外な真実。思い込みと過信は危険と心得て謙虚になりましょう。『死んだら働けない』工場の休憩室で死んでいた係長は頭に殴られた様な傷があり、機械のアームによる事故死と思われたが…。真相はともかく仕事中毒も程々にしましょうね。『甘いはずなのに』再婚した若い妻と新婚旅行でハワイを訪れたのに憂鬱な男には幼い娘を中毒死で失った苦い過去があった。長岡弘樹さんが得意な気遣いの話ですね。過ちを反省して人生をやり直そう。
『灯台にて』大学一年の時に東北へ幼馴染の友と出かけ別々に逆ルートで旅をした僕が経験した悪夢の出来事を伏せて友を運命の場所・灯台へ向かわせたのだが…。若者は逆境に強い生き物だと痛感しますね。『結婚報告』結婚報告を知らせる旧友からの手紙に同封されていたのは何と男と見知らぬ別人女性が並んだ写真だった。複雑な偶然が誤解を生んだ凶悪な事件。愛する人を信じよう。『コスタリカの雨は冷たい』カナダ赴任中の日本人夫婦が南米旅行で遭遇した不愉快な強盗事件。醜悪な真相でしたが嫌な記憶は早く捨てて第二の故郷の地で幸せに暮らそう。
夜の公園でチンピラどもがオヤジ狩りしようとしているのを目撃したセレブ専門の詐欺師の涼一は喧嘩の強そうな捷が助けに入り、若者に絡まれていた男が昔世話になった元刑事の義信だと気付く。やがて捷の腹違いの妹が実家に妙な男が来て、実家のぶどう園を乗っ取られるかも知れないから助けてと兄を頼って来ると三人は協力して裏社会で暗躍する悪の組織に立ち向かって行くのだった。頭脳の策士・涼一と喧嘩の達人・捷と経験の探偵・義信が、己の利益を度外視して謎の組織クロモズに挑むスリリングなストーリーが痛快な読み心地で心にグッと来ますね。
三人の中で一番単純で脳天気な捷には伊坂作品の黒澤と同じ匂いを感じますし、元刑事の義信は人生の苦労人の弱者への優しさを持つ人間的な魅力があり、詐欺師の涼一はキレキレの頭脳で敵を罠にかけて型に嵌め追い詰める抜群の知力が素晴らしいですね。本書の読み所は犯人当てミステリーではなく善と悪の駆け引きの知恵比べの面白さですが、唯一思うのはあまりにも出来過ぎな結末ですね。人間は理性より感情が暴発しブチ切れる事があるものですが悪党がこんなに易々と引き下がるのは甘い気がしましたね。でも娯楽犯罪小説として楽しめる一冊でしたね。
景浦は9回フルイニング出場して溌溂と守りチームは1点差で勝利する。『舞い降りた父子鷹』1軍の開幕戦オリックスとの試合は景虎が先発し父の安武が4番でレフトを守り史上初の親子で同チームでの出場となる。初回に景浦はフェンス直撃の2塁打で松中を迎え入れ、景虎は1点を守って完封勝利する。『ど真ン中、子どもの日』景浦は5月4日の試合で代打で2塁打を打つが二塁に滑り込んだ時に右手を痛めて退く。景浦は翌日が休みとなって秋庭邸で景虎と共に孫・小虎の初の端午の節句を祝う。翌日のオリックス戦で景浦は包帯姿で始球式の打席に立つ。
10歳の光ちゃんが投げると帽子が脱げて女の子だと判り景浦は驚く。父親が高校野球に女子選手の出場が認められる様になり娘を甲子園に出場させるのが夢だと話す。『北国燃ゆる』札幌ドームでの夢の球宴に景浦はファン投票で断トツトップの60万票で選出される。西武の渡辺監督は独断で景浦を4番レフトで先発させると全セ先発の広島・大竹からレフトへ先制HRを放ちフル出場で4打数3安打3打点の活躍を見せ第1戦のMVPに輝く。サチ子はTVを見てMVPを獲ったらインタビューで鼻を触る…愛してるのサインと約束したのに忘れてるわと呟く。
するとサチ子に電話が入り舞に3800グラムの男の子が生まれたと知らされる。生まれた時間が11時1分過ぎだと聞くと秋山監督は、よっしゃ景虎の背番号は01番だと決める。息子の名前は秋庭会長が、小虎と名付ける。『あぶだらけ』新潟の実家で暮らす小学4年生の九ちゃんが多校の6年生チームと練習試合をしレフトで攻守をしランニングHRを打って1回をリリーフして勝つ。『オヤジの懐』景虎はWBCの選抜選手に選ばれ、父は選出されなかったが打席に立って息子と対戦し、実戦を想定して世界一の為には厳しくインコースを攻めろと鼓舞する。
『G.G.景浦』7月に入りペナントは渡辺監督率いる西武が首位に立っていた。西武―ソフトバンクの試合前に西武の主砲G.G.佐藤に景浦がG.G.の謂れを聞くと大学時代のあだ名「爺」から付けたと言い、景浦が内角球を2塁打すると佐藤は「グレート・グランパ・景浦さんだ」と讃える。『竿酒』夢の球宴に景浦は選手間投票で選出される。京セラドームでの試合が始まり阪神・景虎は妻の舞と祖父・秋庭社長が観戦する前で3回をパーフェクトに抑える。代打・景浦はヤクルト・石川の内角球を打ち上げて天井ギリギリまで上がる一塁フライに倒れる。
『一通入魂』景浦に高校野球に湧く甲子園の喫茶店で会いたいと無記名で一通の手紙が届く。手紙の相手は高校時代の監督で元・南海のスカウトマン・岩田鉄五郎で孫オーナーからスカウト復帰を要請されたと話し、二人は思い出を語り合い大虎で常連達と乾杯する。『お先に失礼します』10月1日京セラドームのオリックス―ソフトバンクの今季最終戦は清原和博選手の引退試合で、清原は7回裏に代打で打席に立つと初球をライトへファールし2球目をレフトスタンドへ同点HRを放ち、王監督と秋山コーチそして景浦に長い間お世話になりましたと挨拶する。
近所の人達の為に、せっせとお菓子を作り続けたが、ある時急に離れて暮らす息子さんがやって来ておばあちゃんを連れて出て行った。暫くして妙な噂が流れた。引っ越し業者がスナハラのおばあさんの息子に聞いた話によると、おばあちゃんは自分の住むマンションは実は子供達が無理矢理入れた刑務所のような所だと被害妄想していたらしく自分の排泄物や血をケーキの中に混ぜてはそれを材料にして配っていたという。冷蔵庫の中には気味の悪い具材がタッパーに入って幾つも保存されていたみたいで、おばあさんは息子に住民を皆殺しにすると電話してきた。
息子さんが異常に気付いて連れ帰り大勢の近所の人達も噂を聞きゲッソリと痩せて引っ越したという。『黒飴』妙子さんが三歳の息子と夫と暮らす実家には68歳の義父がいてハンバーグや唐揚げの残りを冷蔵庫に入れ二週間も経って捨てようとすると食べると頑固に言い張り、また庭でミミズや木から虱や毛虫を捕って食べていた。夫に伝えても相手にしてくれず、ある日炊飯器から腐った靴下の様な匂いがし蓋を開けると白米の上にドブネズミが乗っていた。義父が息子に「黒飴あげる」と口に入れようとしたのはゴキブリだったので、子を連れて実家に帰った。
1982年の冬、西ドイツのホテルで美術品「創世の箱」パーティーが開かれ、日本人少年と少女が出会い、何も入っていなかった箱の中から衆人環視の中で再度改めるとバラバラ死体が出現する事件が起きる。16年後、雪が舞う岩手県のアルファベットのオブジェが置かれた洋館に招かれた客人達が一夜を明かした翌朝に「創世の箱」から客の一人の死体が見つかる。だが、昨夜降り止んだ雪の庭に足跡がなく死体の移動手段が掴めない。警察が館に来られないまま五里霧中の一堂に再び第2の殺人が起きる。著者の十八番の物理トリックは誠に素晴らしいです。
如何にも著者らしい見取り図入りの既読作の応用トリックだったのに…間抜けな私は記憶が薄れてまたもや外してしまいました。処で本書には残酷な殺人シーンが出てきますが著者は事更にショッキングには書かずに感情的にも淡白に流しています。この点に関し読者の好き嫌いは分かれると思いますが、謎解きパズルに集中させる為の理由と考えて私は著者を支持したいです。フーダニットと動機は一級の出来とは言えませんが、でも冒頭の二人の正体は衝撃的ですし予期せぬ悲劇のラストはクールな枯れた残酷さを感じながらもドラマチックで胸を打ちましたね。
『霙(みぞれ)の王子サマ』1月6日新潟の神社で九ちゃんが待っていると景浦がやって来る。九ちゃんはママが病気で入院し僕は北海道のおばちゃんが9日に迎えに来て転校するんだと話す。景浦が病院に行くと母親の真田清子は胃に腫瘍が出来て入院していると話し再会を喜ぶ。景浦はうちの実家で九ちゃんを引き取りたいと提案し涙を流し感謝される。景浦の両親は喜んで九ちゃんを引き受ける。清子は病院で元気を取り戻す。『飛んでニイガタ』景浦は福岡のデーゲームの5回裏に代打逆転3ランHRを打つと車で空港へ送ってもらい飛行機で新潟へと飛ぶ。
真田清子の退院祝いに合わせ実家に駆け付けたのだ。夜になり帰ろうとする清子と九ちゃんを景浦は引き止め俺の部屋で母子二人暮らせば家賃もいらないしいいよと説得する。『乾杯の詩』景虎と舞の結婚披露宴が開かれ景虎は式の前に20年前に舞を捨てて家を出た父の消息を追うが掴めない。景浦はファンと名乗る男から景虎宛の手紙を預かる。景虎が夜に目を通すと、それは舞の父からで娘を幸せにして下さいと書かれ幼い舞を抱いた写真が同封されていた。舞は手紙を読んで涙を流し景虎と乾杯する。舞は懐妊し景虎は名を男なら勝利(かつとし)と決める。
Ruiさん、コメントをありがとうございます。あぶさんは常日頃の努力があったからこそ大記録を達成した訳ですが、水島先生はスポ根マンガみたいにはせずに晴れやかな華々しい部分を前面に押し出した作風も今の時代にマッチしたクールな感動があって良いなあと思いましたね。
景虎は父を打席に迎えると外野手の位置を前進させる。1、2打席は狙い通りに浅い外野フライに打ち取る。だが3打席目は味方の外野手が景浦のプライドを考えて3人とも前進してこない。ここまでホークスを無安打に抑えている景虎は、ならば打たせないと渾身の直球を投げ込むと景浦は意表をつきセーフティーバントを仕掛ける。景虎がダッシュして一塁へ投げると間一髪判定はアウトとなる。試合は延長に入るが岡田監督は景虎を続投させ11回裏一死走者なしで父を迎えて再び外野を前進させる。景浦は初球を打つと右中間を破り二塁を蹴り三塁打とする。
『収穫の夏』夢の球宴に景浦は今年もトップで選ばれ4番DHで出場し初回は巨人・高橋に対しセンターフライに倒れるが続く横浜・寺原からライトへHRを打ち3番手・景虎からレフトへ2打席連続HRを打つ。『しゃきっとせんとね!』ソフトバンクは打線が低調で日ハム戦に無死満塁でクリンナップが三者凡退して景浦に回らず敗れる。翌日の2回景浦は物干し竿バットを手に打席に立ち2球空振りの後レフトへ先制特大HRを打つ。8月23日景浦が打率4割を切ると王監督は1試合休ませ景浦は整骨院に行き腰を治療して次の試合から普通のバットに戻す。
ぼく凌一は妻の美佳から小学生の息子・彰が「みんなの顔がのっぺらぼうに見えるんだ」と言っていると告げられる。ぼくは真っ先に20年前に故郷・北海道を出て行った兄・恭一に電話をかけると、すぐ翌日に東京から駆け付けてくれて幼い日に兄が体験した驚くべき思い出の真相を語ってくれたのだった。まあ本書はタイプで言うと「盗まれた街」みたいな国を巻き込んでもいいような陰謀小説なのですが、少しも派手なアクションが絡む重大事件の方向には話を持って行かずに地味に全てを闇に葬り去るような流れに持って行くのが著者の性格の故でしょうね。
もし本書の題名がカタカナでアクション・シーンを盛り込んだ内容であれば、映画やドラマ化もされたかも知れませんが、著者はわざと詩的な題名にすることで未然に回避したのだろうと思えますね。終盤の章題「ゲスモノ、マレビト、タガイモノ」はSFによくあるミュータントの旧人類VS新人類の構図を連想させますが、とにかくそういう集団の争いにはせずに、あくまで個人に自身の運命を委ねて未来を見守っていくという物語なのですね。それをどう思うかによって本書の評価は分かれると思いますが、まあ私は深刻にはならずに楽しく読み終えましたね。
あぶさんは60歳を過ぎても未だに若い女性にモテて本当に羨ましい限りですね。『カレーなる一族』娘・夏子の芸能プロの社長が東京・青山の一等地に2LDKのマンションを夏子に世話をし、景浦一家(虎次郎、千代、安武、サチ子、景虎、夏子)がビッグゴールドカレーのTVCMを撮影する。途中で景虎に球団から電話が入り、阪神タイガースへのトレードを通告される。阪神からはHR45本のランディ広岡(架空選手)がオリックスに移籍し大型トレードが決まる。またベイスターズの多村とホークスの寺原投手のトレード、巨人から小久保が復帰する。
『カッカ景虎』阪神の景虎はオープン戦で父と対戦し走者を置いた一二打席共に軽打でタイムリーヒットを打たれる。3打席目、景虎は外野手の守備位置を前進させて父を外野フライに打ち取る。だが景虎に喜びはなく「こんなバッティングに変えてまで現役にしがみつく親父、情けなー」と内心で嘆く。『春だ野球だ景浦だ』景浦はオープン戦でHRゼロだったが打率は4割6分だった。開幕戦のオリックス戦に6番指名打者で出場の景浦は2打席連続単打で出塁し三打席目顎の付近に来た悪球を辛くも避けて四球で歩く。好調・景浦の打率は4割5分まで上がる。
だが、まだ珠代は話を聞かされておらず結婚話に乗り気になっているのである。『伝説の長刀』9月22日現在の景浦の本塁打は24本と淋しく福岡ヤフードームのオリックス戦の前に自ら志願の特打ちをする。試合が始まり息子の景虎に対し、第1打席はレフトフライ、続いてバット真っ二つのキャッチャーフライ、3打席目も浅いライトフライに終わる。1点を追う9回の裏2死一塁で景浦は物干し竿ではなく普通のバットを手に打席に入る。初球は空振りするが、2球目をフルスイングすると打球はレフトスタンドへ突き刺さり逆転サヨナラ2ランHRとなる。
『素晴らしき戦友たち』大虎に引退したライバル投手の四天王、山田、東尾、村田、鈴木の4人が来店し景浦に心境を聞くと「ボロボロになるまでやりたい」と答える。おやじさんが「長いバットから短いバットか、どう感じが違うんかいの、サチ子」と聞くと「何よ、お父ちゃん、その怪しげな言い方は…」と答える。『冷やおろし』景虎が結婚を目指す秋庭舞の祖父・連太郎が娘と大虎に来店するとサチ子は結婚させてやりたい母の思いを伝え駆け落ちの話まで出す。お通夜の帰りで安武と景虎が帰り挨拶すると連太郎は娘をよろしくと言い結婚を許すのだった。
『崖の下』米澤穂信:スキー場で発見された他殺死体の周辺で見つからない凶器の行方は?職人作家さんらしいトリックが冴え渡る秀作ですね。私は著者にもう一度「満願」みたいな犯罪作品集を書いて欲しいと望みますね。『投了図』芦沢央:題名も内容も将棋を扱っていますが細かいルールの理解は必要とせずコロナ禍での人間心理を描いた作品で自然に気持ちがギスギスするのは避けられないご時世だなとつくづく思いますね。『孤独な容疑者』大山誠一郎:本書中唯一の初読作家さんで冒頭に犯人の自白で幕を開ける倒叙推理ですが最後に捻りがありますね。
『推理研VSパズル研』有栖川有栖:江神二郎&アリスシリーズの新作ですが、内容は遥かな過去の回想録ですね。マリア他全員集合のノスタルジアに感激しますが中身は、うーんイマイチでしたね。『2020年のロマンス詐欺』辻村深月:コロナ禍で仕事を探す男に舞い込んだ高額アルバイトは奥さまを標的にした新手のロマンス詐欺だったが…。生真面目な男が前のめりに突っ走った挙句に知らされたのは意外な真実だった。人生の勉強は苦いが無駄ではなく、どんなに暗い話であっても決して最悪の結果にしないのが辻村さんの良さで人気の秘密でしょうね。
8月9日は長崎に原爆が投下された日ですが、さださんが被爆者の叔母さんに聞いたエピソードで「原爆ば恨んどるやろ?」と問うと「うん、昔はね、そんげん思うたときもあとよ。ばってんねえ、今は思わないと。あのね、戦争やもん。仕方がないのよ。日本が先に原爆ばつくっとったら、他の国の誰かが私と同じ目に遭うたとやろ?戦争って、そういうもんやろ}と叔母さんは語られ、人はこんな風に達観できるのだろうか、とさださんは息を呑むのです。人間の心には大砲、爆弾、原爆、私はそんな恐ろしい物を次から次にどんどん考えつく心が自分にもある。
そう思ったら、その方が怖いと叔母さんは言います。昭和二十年の8月15日は終戦記念日ですが、長崎では精霊流しの日で、原爆投下から1週間も経たない内に精霊流しが出たと言います。『らくだやの馬』ではサラブレッドでデビューした馬が成績が振るわずに引退し鳥取砂丘で人を背中に乗せて毎日を生きる姿と自身が幼い頃にヴァイオリンに挫折した思い出を重ね合わせ当時のライバルの優秀なクラシック音楽家の女性の病気による早世の姿を描き劇的でした。他にも泣ける話は多く本書は私にとって心に残るいつか読み返したい大切な一冊になりましたね。
チエカは刑事から「あんた一体何者なんだい?」と聞かれても何も答えずで正体は神秘のヴェールに包まれたままなのですね。それから本書は月刊推理雑誌に掲載された読み切り作品ですが、全編に大人向けサービスで少しエロティックなセックスシーンの描写がオマケであります。まあ読み手の好き嫌いはあると思いますがイヤらし過ぎない程度なので私は許容できますね。肝心の推理は短い作品とあって軽めの内容が大半ですがどれも巧く考えられていて概ね満足しましたね。そして何よりもいいのはチエカの性格の良さで仲間を庇う優しさと人情味が最高です。
『アパッシュの女』同業女性レイコの睡眠薬の服毒死を探るチエカが暴いた哀しい真実。『毛皮コートの死体』毛皮コートを着た女ユリの死に隠された偽装トリックとチエカの思い遣りの心。『アリバイある女』ストリップ小屋の閉鎖と疑惑の火災事故の死の真相を暴くチエカ。『羚羊のような女』熱海に場所を変え甘い話に騙されたチエカが罠を見破り見事にリベンジする。『拳銃と少女』チンピラヤクザの殺しの真実と未熟な少女を助けるチエカ。『熱海に来た女』女性の轢き逃げ死体を見た瞬間に女ならではの視点で偽装工作を見破り真実を一早く掴むチエカ。
老舗出版社の文文堂は10月15日に新社屋落成記念式典を予定しており現社長・西田は高齢により引退して後継者を発表する心積もりだった。7月末の時期に次期社長と目される二人の内、江藤は東京でOL向けレディス・コミック誌の創刊、一方の須貝は中高生向けエンタメ・マガジンの創刊を目指しロスアンゼルスに取材に乗り込んでいた。だが須貝のチームはディズニーランドで、ヨットハーバーで、砂漠で何とスタッフ3人が連続で不審死を遂げる。一方、過去に文文堂に解雇され強い恨みを抱く男が新社屋落成記念式典での爆破計画を着々と立てていた。
警視庁捜査一課強行犯五係の二十五歳の新米刑事・島本が偶然に可愛い女子高生・由季と愛を育みながら若い感性で大胆に推理して意外な真実と真犯人を暴く。三人目の毒殺の実効手段のトリックは見事なのですが、この3つの不審死の計画立案の完成度が低過ぎて頼りなく素直には感心できないのですね。結果オーライみたいな適当さが残念でした。でもラストのダイナマイトの爆破を企む犯人と阻止せんとする警察の攻防はスリリングで素晴らしい読み心地でしたね。まあ細かい点に目を瞑れば十分に面白く満足できるエンタメ・サスペンス推理の一冊でしたね。
表題作は38頁の短編ですが、続く中編『酔歩する男』も素晴らしい時間SFホラーの傑作ですよ。仲間と飲み会をして盛り上がり皆が帰った後の余韻に浸っていた私は、不意に見知らぬ男から「私を覚えておいでではありませんか?」と声をかけられる。一旦は一笑に付して店を出るが心残りで引き返すと男は二人が親友で同じ一人の女性「手児奈(てごな)」を愛していたのだと話す。だが彼女は二人を同時に駅のホームに呼び出すと入線する電車にふらふらと身を投げて死んでしまう。そして彼・小竹田は私・血沼に対し、手児奈を助けようと話を持ちかける。
まあ、ここから迷宮の如きストーリーが展開し過去・現在・未来を何度も往復する魅惑の物語が無限ループのように繰り返されます。タイム・トラベルの世界は目くるめく快感で読みながら時の魔法の虜にさせてくれますね。ですが漸く長い打ち明け話が終わると、気が付けば因果関係が崩壊し一瞬にして物語が意味を失ってしまうのですね。主人公は何が真実なのかに確信が持てなくなり自問自答しながら日常生活を取り戻しますが、最後の一行がショッキングで読者の血を凍り付かせます。死の恐怖ではないですが不気味な真実に戦慄する傑作をお奨めしますね。
この石からはとてつもない怒りの気が噴き出しています。元ある場所から動かされた事に対する怒りです。次女の様子がおかしいと感じ病院で受診すると腸に悪性の腫瘍が見つかり手術する事になる。増岡さんの両親が昔の写真を見せると石にしめ縄がかかっていた。彼女が霊視すると随分昔に大きな災害があり石の場所で被害が食い止められた事に人々が感謝し神様と祈り続けた事で石が土地を守る意思を持ったのだという。祖父が石を戻す手配をすると次女の手術は成功し、増岡さんは店を諦め、地元では近所のお年寄りの人々が石が戻って安心したとの事です。
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『手練手管を使う者は』バーでのホスト殺人事件の容疑者に弁護を依頼された麗子だが彼女は冷静に謎を解く。『何を思うか胸のうち』事務所の運動会の日に先輩弁護士が急死した謎を鮮やかに解く麗子。『お月様のいるところ』認知症を患うお婆さんの家で首吊り死体を発見し謎を追う麗子。『ピースのつなげかた』互の葺替えに端を発し近隣に不幸が続くというオカルトめいた事件の真相は橘刑事に解決されるが麗子は最後に重大な欺瞞を見破る。著者は2冊新シリーズを出されていますが、次は大事件をひっさげて愛着のある麗子シリーズの新作を望みますね。
何とまあ、著者の通算6冊目で今年4冊目の新作が発売されたばかりだと今日知りましたよ。新川さんは凄い馬力ですねえ!これなら年内にもう2冊ぐらい出ても不思議ではないですね。昔はこういう多作家もおられましたが最近は珍しい事で、しかも全部が売れまくるのですから本当に素晴らしい逸材だなと感心しますます期待が高まりますね!