田山花袋の気持ち悪さというのは、川端や谷崎のそれとは質が違う。感傷的で、「One more time, One more chance」のように、在りし日の東京に、文学仲間と自分の影を見出してしまう。江戸の香りを色濃く残すM10年代から天皇が崩御し、飛行機が飛ぶまでの回想録。風土の著述としても、硯友社を中心とした文学界隈のエッセイとしても、かなり面白い。『トレインスポッティング』を見ているような気分。鴎外の異形さ、独歩や藤村との交友、『文學界』の情熱。そうだよ、これなんだよ、と咽びながら読んだ。