別れの3月というにはあまりな出来事もあったが、獨逸の新家さん、ダルグリッシュ、V・I・W…シリーズを粛々と■先月画像と同じ場所で2022年版。実際に目で見るより決定的に写真がダメダメとはいえ、水を張った田んぼとカエルの合唱、人出まばらな貴重なひととき。2022年3月の読書メーター 読んだ本の数:15冊 読んだページ数:4533ページ ナイス数:1797ナイス ★先月に読んだ本一覧はこちら→ https://bookmeter.com/users/200370/summary/monthly/2022/3
“リムジンではなかった。セダン・タイプのリンカーン・タウンカーだった。一年まえ、リンカーン・タウンカーの後部座席を事務所代わりにして働いている弁護士を取り上げた記事を掲載したことがある。弁護料を払えない依頼人がその代わりに彼の運転手を”(P44)“前半には、エリック・クラプトンと、彼がカリブ海に設立した薬物依存治療施設、クロスロード・センターの特集が”(P63)CNNの番組に生出演。迎車はミッキー・ハラーのオフィスと同じクルマ。クロスロード・センター設立は1998年。実在する人物の実話も巧みに盛り込む。
“道具の先端をストーンの盆の窪に押しつけた”(P58)“ステアリング・ホイールが手を焼いた。左手のたなごころだけを使って、バックで駐車スペースを出た”(P164)うーん。訳で気になったのは身体パーツの表現。「盆の窪」も「たなごころ」もなんかしっくりこないのだが・・・
“それがアンサブの計画していたことです” “アンサブ?” “不特定対象者。犯人を指す捜査局の隠語です”(P318)“だれだと思う? やつだ! アンサブだ!”(P326)“やつがたった今ぼくに電話してきた。アンサブだ”(P338)『詩人』事件がベストセラーとなり、ロサンジェルス・タイムズ記者としてサツ回り、犯罪記事を千件も書いたマカヴォイがレイチェルに解説されるまでアンサブという隠語を知らなかったのも疑問だが、社会部部長ドロシー・ファウラーもアンサブ知らないってどうなん?
本当にアンサブ問題は気になりますね。クリマイはもとより、調べたら1989年には「Unsub」ってドラマも既にあったようですし。いくら作中のこととはいえ、一般市民の方がよっぽどアンサブ浸透してるよってツッコみたくなる(笑)
“一度もイングランドにいった経験はないが、〈グレイハウンド〉の店内は英国パブのように見えた。なぜエミリーがここを行きつけの店に選んだのかわかった。全面ダークウッド張りで、居心地のいいブースが並んでいた。店内の前面から奥までずっとつづいているバーが”(P185)“レイチェルとわたしはケテルのマティーニを注文し、エミリーは、デシューツのIPAビールを”(P186)「フェアウォーニング」のスタッフ、エミリーに危険が迫る!? JMがもたつく間に本領発揮してドアを蹴破ったレイチェルさすが
“アンサブはどこ?” “アン……?”(P287)アンサブ=Unknown Subject 不特定対象者。直前に起きた衝撃で、JMはアンサブが何を指すのか一瞬わからなかったもよう。でもあれほどFBIと絡んだのにこの用語を忘れるだろうか? 本だって書いたわけだし、ベストセラーだったのだし、サツ回りだったのだし、いまだに犯罪者はマカヴォイの著書を愛読してるらしいし。『スケアクロウ』にアンサブのワード出てきた記憶がある。え〜い気になる、検証だ〜
“〈コーファックス・コーヒー〉に車を乗りつけ、ボブルヘッド人形やその他のドジャースの土産物が並べられている下にあるテーブルにカプチーノとノートパソコンを置いた”(P185)“なるべく早く食事を取るため、われわれはチャイナタウンにいき、〈リトル・ジェル〉でポーボーイ・サンドイッチを注文した”(P225)料理で読む場面は少ないものの、いつも通りで実名で。Cofax Coffee Shop はドジャースファン御用達カフェ。The Little Jewel of New Orleans はニューオリンズ料理の店。
“わたしは早めに〈ミストラル〉に到着し、昨夜とおなじスツールを確保した。レイチェル用に取っておくため、隣のスチーツにバックパックを置き、エルとボンソワールを交わしたのち、今夜はオクタン低めでいこうと決め、ベルギービールのステラ・アルトワを注文した”(P319)あのですね、オクタン低めって・・・ここは笑うしかないのか。
“夢をみているような屋敷を、自動車の騒音で目覚めさせるのは申し訳ないような気がしたものの、わたしは芝生に乗り上げた車をバックさせ、森にそって走らせると、幅の広い敷石の道に入った。噴水の下にたまっている水がスターサファイアのように”(P237)クルマを走らせていて森のヴェールに惑わされた。子どもたちが楽しそうに笑う。屋敷の女主人は、あの子どもたちが見えるなんて運がいい方、と。彼女は生まれて数ヶ月で視力を失ったらしい。女主人のイメージは萩尾望都「はるかな国の花や小鳥」のエルゼリ。語り手はグレン・スミス?
そうそうあゝ無常。結局及川じゃなくて山背がピンポンしに来たね。山背「正当防衛でできる」「自分がやります」。警察小説としては気になる人物がちらほらいて、ニガテなRIKOシリーズも再再毒することになりそう。
“俺は小腹が空いたな……コンビーフサンド、昔のまんまだな、メニュー。これにしよう。それとまずビール。生で。静香、もうプライベートタイムだから、酒を飲んでいいぞ”(P192)“パナシェください” “飯は? 軽いのなら、ここのライスサラダはいけるよ”(P193)麻生は部下の宮島静香をともなって、韮崎の女・金村皐月の店『ブルームーン・クラブ』を訪れる。マダムは久遠さつきというジャズシンガーで、麻布署にいた当時麻生は何度か彼女の歌を聴きに来たことがあった。
“鍋の蓋をそっと持ち上げると、湯気がもわっと溢れて来た。香りは悪くない。菜箸を使って野菜の煮え具合を確かめる” “誠一は週に一度くらいしか自宅で夕飯を食べなかったが、味にはうるさかった。いつも、皐月に電話で助けを求めて、メニューからレシピまで教えてもらう。今夜は蕪と鶏肉の煮込みに、ラタトゥイユ、ガーリックトースト、ブリーチーズのフライにブルーベリーのソースをかけたもの。それと、すりつぶしたブラックオリーブとレバーペースト”(P464)下巻にもとんでもなく料理で読める場面があるそういえば…
“昔から大好きなのよ。ナンじゃなくてチャパティを出してくれるってのもいいのよね。それとおすすめは、そうだな、青パパイヤのサラダとか、がっつりお肉が食べたかったら、子羊のローストもイケる”(P98)“肉の代わりに豆が入っている。チャパティはまだ、ところどころ空気を含んで膨れていて、焼きたてだった。スパイスの香りに刺激され”(P101)かつて手柄を横取りしていった沖田慶子と再会する「TEACH YOUR CHILDREN」。沖田の野心を買った及川が本庁に引っ張るも結局、二課長と衝突した沖田は警察を辞めたのだ。
“麻生はチーズを薄く切り、さらに細かく切って、食パンの上に均等にばらまいた。それを二枚、オーヴントースターに入れる。冷蔵庫の扉側に入っていた牛乳パックを取り出し、小鍋で温めた。ナオミの分のマグカップも洗って、インスタントコーヒーを入れ、温めた牛乳をそそぐ。焼き上がったチーズトーストと一緒に、二人分、テーブルに置いた”(Carry On P329)元検事・絹子の依頼で野辺山の別荘へ赴くと、不審な女性が…。落ち着いて話をさせるために、自分自身の頭には栄養を送り込むために、麻生は手近な材料で朝食をこしらえる。
当時の自分は『まかすい』と『ぐいさー』(と何か時代伝奇物?)くらいしかかじっておりませんでした…が、してみるとその二作にも『まよてん』エキス充分に入っておりますな(^^;)。
“火の上に平らな冠石、つまり天火石をかけ、その上で二種のパンを焼くのだ。小さい方のパン(しかし、実は世界より大きい)は水だけで練り、塩なし、種なしで天火石の上においた、大きいパン、粗焼きパンには塩とイーストを混ぜ、牛の乳で練った”(P93)“若い雄牛を自分のところに来るように呼んだ。牛はやってきて、グレゴリイに鼻をこすりつけた”(P95)“グレゴリイと若い牛は目と目を合わせ、じっと見つめあった。それから彼は研がれたナイフを”(P96)「さあ、恐れなく炎の中へ歩みましょう」はリアルに料理で読める。
“大きな摂理の石の上へ運んできた。パンにはバターと蜂蜜が添えられていた。グレゴリイはかまどの穴から香りよい焼肉を運んできた。四人が揃って、切り分け、ちぎり分け、ご馳走に与った。リンゴ酒があり、少量のワインがあった。ミルクとチーズがあった。ブラックベリー、サンドプラム、野生のぶどうがあった。リンゴ酢のソースがあった。これらみんなを全員がゆっくりと味わいながら食べた。コヨーテが二匹姿をあらわし、食べ物をねだり”(P96)上記同様「さあ、恐れなく炎の中へ歩みましょう」の、よそ者修道士をもてなす場面である。
“TWAターミナルの片隅で過ごし、切れぎれに眠りながら、疲れや恐ろしさのあまりときおり泣き声をあげた。口にしたものといえば、軽食用ワゴンにのった風味の抜けたデニッシュ・ペストリーだけ”(P217)“ハリー・マリバートは、英国宇宙旅行協会の会議に出るためポーツマスへ飛ぶところだったので、ビーフィーター・マティーニを早めにちびちびとやりながら、ターミナルの《アンバサダー・クラブ》で待ち時間を”(P219)ジョン・F・ケネディ空港で。フレデリック・ポール「フェルミと冬」は落涙必至、読み手の状況次第で号泣できる。
“軽くさえぎって、アイーダは紅茶を注ぎなおした。顔を上げると、警備ユニットと目があった。長く視線がからんだ気がしたが、警備ユニットの性格からして一秒に満たなかっただろう。その目はまた部屋の隅にもどった。アイーダは嘘を見破られた気がして頰が” “ステーションは夜時間にはいり、現地時間で生活しているホテルの訪問者は娯楽と夕食を求めるころだ”(P232)弊機が食べないのであまり料理では読めないが、飲食場面がまったくないわけではない。冷蔵ケースからシロップとナッツミルクを手にとったメンサーは見知らぬ人物に遭遇…
“ダイエット・コークが全部なくなっているのを見て、サラは悪態をついた。「エリオットね」彼はしょっちゅう、冷蔵庫の中のものを盗んでいく。冷凍室を開けて、ダヴのチョコレート・バーと数個の冷凍食品がなくなっていることに気づいても、さほど驚きはしなかった。正確に言えば、なくなってはいない。彼らしい気配りで、エリオットは冷凍庫に空になった箱と包装紙を残していた”(P474)ジェフリーからの電話を待つ間に冷蔵庫を開けてみると、くっそーエリオットのやつ、いつか殺してやる!
原題のKisscutはデザイン用語とのこと。ああなるほどねと思う。今はほぼ絶滅したが、写真植字(写植)による版下作成上必要だった。印画紙上がってから文章修正が発生した時に、印画紙の上っ面だけ薄くカッターを当て、当該部分だけをピンセットで剥がし文字の入れ替えを行うのである。1996年くらいまで印刷業界ではかなり一般的で、何をかくそう自分もかなり得意としていた。なるべく薄く剥がさないとカゲが出て修正がバレるが、カゲはレタッチで消される。ちなみに製版フィルムまで進んでからの文字修正技術に「ストリップ」がある。
“人間たちは食事をとり、ティアゴは食堂の調理ユニットで全員分の温かい飲み物を用意しました”(P228)“アメナは食事のプレートでシロップをまぜながら、きびしい目になりました” “アラダは食べ終えたプレートをリサイクル装置にいれるためにたたみはじめました”(P229)“アメナは食堂の容器から調理ずみの模造野菜のかけらをつまんで暗い顔で食べています”(P257)料理で読めすぎベッキー・チェンバーズに比べ極めてそっけないが、料理で読むことを弊機に求める必要はない。
クロンビーの作風と似ている(いや、クロンビーが似ているのか)とは、私も思いました。愛車も含め。女性作家同士だから、かとも思いましたが、憧れの英国警察小説の原型なんですね。それにしても、被害者、容疑者、部下達も徹底的に生活感や人間像を曝け出すのに A・Dだけは徹底して露出しないのが、かえって気になります。
くたくたさん、P・D・Jのほどよさにようやく気づきました。しばらく読んでいきたいと思います。たぶんクロンビーもグライムズもエリザベス・ジョージも目指したいほどよさだったのではという気がしています。
>2001発表2002邦訳刊行といえば、ここ十年検死してない元祖検死官ケイにまだ勢いがある頃か。 ●海外ミステリ古参ファンならではの視点!ちょっとウケちゃいました(笑)
mippoさん、コメントありがとうございますレス遅すみません。小笑1本いただき? 元祖検死官シリーズはこうなったら何があっても終焉を見届けてやる!心境で読み続けています。先だって最新作の噂が・・・
“立派に整えられたお茶だった。ダルグリッシュは自分のためにわざわざ手をかけてくれたのかと、いたたまれなくなるほど憐憫に似た気持ちでテーブルの上を見た。焼きたてのスコーンとサンドイッチ2種類、手作りのケーキ、砂糖衣をかけたスポンジケーキがあった。まるで男の子に食べさせるように、何もかもがたっぷり”(P272)指定されたお茶の時間。藁葺き屋根の家は簡素なぬくもりを感じさせた。あまりに種類豊富なご馳走は、未知の客を迎える不安から生じたのかもしれない。お茶とサンドイッチをすすめ、語り始める夫人…
目と髪の毛は黒。長身痩躯。鋭い知性。動きは敏捷。神経痛持ち。審美眼。猫好き。秋の花が嫌い。対位法で書かれた音楽だけ心底楽しめる。とってもハンサム(プリディ談)、四十前後、声が好き、キレイな手(イングラム談)。 ところで再ドラマ化された『刑事ダルグリッシュ』の、顔前で指を組んだポーズが、手袋こそないけれど『教場』のポスターメインビジュアルと似ているような。
海外ホラー、ミステリ、SF主食の異形読み。
1999年「死ぬまでに10000冊の毒書」を宣言、
年間250冊を読みすすめるも途中7年の沈黙。
2012年、読メ登録とともに復活を果たす。
短編好き。アンソロジストに憧れを抱く。
紙本主義。装丁など本の佇まいにこだわる。
版ヅラやノンブル位置にキビシイ「組版警察」
密林のドイヒー画像が許せぬ「書影警察」
プラクティス好き「試走警察」
三一書房『サイコミステリーベスト100』を
2019年6月、30年がかりでコンプリート。
2020年11月「おあと6000冊」達成。
2023年3月プロフィール更新。
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“人間たちは食事をとり、ティアゴは食堂の調理ユニットで全員分の温かい飲み物を用意しました”(P228)“アメナは食事のプレートでシロップをまぜながら、きびしい目になりました” “アラダは食べ終えたプレートをリサイクル装置にいれるためにたたみはじめました”(P229)“アメナは食堂の容器から調理ずみの模造野菜のかけらをつまんで暗い顔で食べています”(P257)料理で読めすぎベッキー・チェンバーズに比べ極めてそっけないが、料理で読むことを弊機に求める必要はない。
Millet.Kさん、ナイスありがとうございます♪第三作が刊行されたので、読むのが楽しみです♫