第5章では本の内容を2ページごとに一行でまとめるという分析方法を紹介されています。「じつは僕、宮部みゆきの本でこれをやったことがあります。240ページあったので120行、パソコンで書きました。120行書いたら、恐ろしいことに、宮部みゆきがどのように読者を振り回そうとしているのか、その手練手管がすべて見えました。(中略)以降、一生ミステリーを読むときに役に立ちます。」あまりにプロットが複雑すぎて挫折中の名作アガサ・クリスティー「アクロイド殺人事件」についてこの手法を適用して読んでみようかなと思います。
「この手の「何でもできるツール」に必要なのは、「何でもできる機能」の紹介ではなく、「こういうことに使えるよ」という活用事例とか「使うとこんないいことがあるよ」というベネフィットの紹介です。「あ、そんなことにつかえるのか」「こんないい未来が待っているのか」ということが分かれば、掴みどころがないということはなくなり、「使いたい!」という気持ちに変わっていくものです。」
「自分を知ることは自分に何らかの変化をもたらします。つまり、何かを認識すること、真理を獲得することは、認識する主体そのものに変化をもたらすのです。私たちは物を認識することによって、単にその物についての知識を得るだけでなく、自分の力をも認識し、それによって変化していく。真理は単なる認識の対象ではありません。スピノザにおいて、真理の獲得は一つの体験としてとらえられているわけです。」「真理」のスピノザ的定義(主体的な体験)についてデカルト的「真理」(「客観的に存在する」対象)と比較した箇所は興味深かったです。
「市場で海の色を映すように青く光った新鮮なめざしを見つけると、迷わず買ってしまう。そして大切なのはその炙り方だ。やや大きめの弱火でさっと炙る。火が強すぎると焦げてしまうし、弱すぎると焼けるまでに時間がかかりすぎて乾燥してポリポリになってしまう。なにしろ身が小さいので、火加減に大きく左右される。ガス火でもオーブンでも火は通るが、こればかりは炭火で炙った方が格段にうまい。炙るときは頭のなかでめざしの姿を拡大して頭やはらわたに火が通っていく様子を想像しながら、目と鼻を使って色と香りの変化に集中する。」
「(続き)火にあたっている側の皮の青色が消え、白くかりっと香ばしい感じになり、ほんのり焦げ目がついたら、ひっくり返して反対側を炙る。もう身に火が通っているから、さっと表面を炙る程度でよい。ひっくり返すのは一回だけである。」
「イランって、酒も飲めないし、豚肉も食えないんだろう? 女の子とデートもできないって言うじゃないか。お前、よくそんな国で生きていけるな」ときどき日本に帰って来て、私が「イランで暮らしている」と話すと、日本人の友人たちは決まってそう言う。(中略)「まあ本当にその通りだったら、とっくに正気を失っていただろうね。でも、いま君が言ったもの、イランでもまったく不自由してないから、ご心配なく!」そうなのだ。あれもダメ、これもダメと言いながら、実はそのすべてにちゃんと抜け道が用意されている国、それがイランだ。
(メモ)本書で著者が紹介したイラン関連書籍: (1)岩崎葉子著『「個人主義」大国イラン』(平凡社新書) (2)鵜塚健著『イランの野望:浮上する「シーア派大国」』(集英社新書) (3)新冨哲男著『イラン「反米宗教国家」の素顔』(平凡社新書)
(著者の説についての疑問点)①非正規雇用の問題を(ポスト・フォーディズム)的生産体制(モデルチェンジが激しいから機械に設備投資できず、したがって機械にやらせればいいような仕事を人間にやらせなければならない…)と結びつけて論じている箇所は全く納得できません。著者は今まで製造業で働いた経験がないからこんな論を述べているのだと思います。②ボードリヤールの文献や小説/映画「ファイトクラブ」を引用して消費社会論(浪費なら満足度が高く、消費なら観念の操作なので退屈する)を述べている箇所も今一つよくわかりませんでした。
全体を通してみるととても興味深い先行文献(著者はそれらをうまく自著に引用する能力はあると思います)に引きずられる印象で、著者の論旨の展開についても細部を細かく見ると強引な箇所もあり(付録「傷と運命」についても興味深い考察ではありますがやや根拠に欠けるのではと思いました)、もっと批判的に読まれるべき本だと思います。
どちらかといえば本を読むことよりも音楽を聴くほうが好みなのですが、読書メーターを始めてから読書を楽しむ機会が増えました。読書メーターを通して知った本も多く、頻繁にこのサイトを覗いて、皆さんのレビューなどを参考にしています。
また、日本語だけでなく英語の本も継続的に読みたいと考えていて、英語本については、月一冊以上読むことをノルマにしています。英語で書かれた小説については、「ガーディアン1000冊」のイベントなどを利用して、古今東西の面白い本を選ぶ参考にしています。
私のレビューは、気にいらなかった本についてバランスを欠くほど辛口になるようです。自分が好きな著者の作品を、私が酷評していることもあるかもしれません。お気分を害されるかもしれませんが、あくまで私の偏見だとおもって、ご了承をお願いします。
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「自分を知ることは自分に何らかの変化をもたらします。つまり、何かを認識すること、真理を獲得することは、認識する主体そのものに変化をもたらすのです。私たちは物を認識することによって、単にその物についての知識を得るだけでなく、自分の力をも認識し、それによって変化していく。真理は単なる認識の対象ではありません。スピノザにおいて、真理の獲得は一つの体験としてとらえられているわけです。」「真理」のスピノザ的定義(主体的な体験)についてデカルト的「真理」(「客観的に存在する」対象)と比較した箇所は興味深かったです。