父の死後、不安を抱えるようになった實成は深夜の散歩をするようになる。散歩の途中でメンバーが増えていく。同僚の塩田さんは女子中学生を伴って深夜の散歩をする。親の事情にどうしても巻き込まれる。伊吹さんは訳ありな男性との交際に悩まされている。とても優しい人たちの優しさゆえの苦悩がある。最後は塩田さんの話に救いがあり明るい未来が見えてよかった。

私は童話のあらすじは正確に覚えていないことが多い。人魚姫を探す王子様、最初はコスプイヤーかと錯覚する。そう言えばお姫様は人魚に恋を譲ってあげれば結果はどうなったいたのかと思う。現実は童話より優しい。そして時は動いていく。それがなにより幸せな事かもしれない。

最初、冬子の飲酒にハラハラしながら読んでいた。人付き合いが苦手な冬子は校閲の仕事を誠実にこなしている。カルチャーセンターで出会った三束に好意を寄せる冬子。友人の聖の存在感は大きく、冬子の支えになっている。三十代の女性の孤独感は真夜中には深まるのか、そこはわからないけれど。冬子にも聖にも幸せな予感がする。内にある問題は解決する事はないと思うけれど。

とても、臨場感があった。スズキタゴサクの話が長すぎたけど、これも彼なりの戦法なのだろうか？警察内部は大変そう。こんなに個人の真価が問われる場面も少ないだろう。被害者の多さに反して動機が何とも言えない。

「レンタル世界」の雄太は周りが見えていなかったとしか言えない。「ままならない..」の薫はギフテッドならではの苦悩があったのかと思ったのだけど、案外、軽やかに乗り越えている。雪子の方が紆余曲折があったように感じる。AIの存在感が人の幸せを脅かしたら意味がない。色々、織り込んで読み応えがあった。