今年は洋書の読書も進めたいです。ジャンル評論が多めです。
【2024年に読みたい〈課題作〉】
洋書編
・Steven Powell "Love Me Fierce in Danger"(ジェイムズ・エルロイの評伝)△
・Lawrence Block "The Burglar Who Met Fredric Brown"〇(泥棒バーニイ・シリーズ最新作)
・James Ellroy "This Storm" "Widespread Panic" "The Enchanters"(小説)
・Martin Edwards "The Life of Crime Detecting The History of Mysteries and Their Creaters"
国内編
評論
・大場正明『サバービアの憂鬱』
・前田彰一『欧米探偵小説のナラトロジー』〇
・巽昌章『論理の蜘蛛の巣の中で』〇
・諏訪部浩一『『マルタの鷹』講義』〇
・中辻理夫『淡色の熱情 結城昌治論』〇
・海野弘『LAハードボイルド』〇
・滝本誠『渋く、薄汚れ。 ノワール・ジャンルの快楽』
・鶴見俊輔『ドグラ・マグラの世界/夢野久作 迷宮の住人』〇
・北上次郎『冒険小説論 近代ヒーロー像100年の変遷』〇
・山路龍天・松島征・原田邦夫『物語の迷宮 ミステリーの詩学』〇
・若島正『ロリータ、ロリータ、ロリータ』
・嵯峨景子『コバルト文庫で巡る少女小説変遷史』〇
・遠藤正敬『犬神家の戸籍』
・今橋映子編著『都市と郊外 比較文化論への通路』
小説
・ホルヘ・ルイス・ボルヘス『伝奇集』
・岡本綺堂「半七捕物帳」シリーズ
・山田風太郎『妖異金瓶梅』『幻燈辻馬車』『警視庁草紙』
・ジョン・ル・カレ『パーフェクト・スパイ』
・デイヴィッド・グーディス『溝の中の月』
・高村資本『恋は双子で割り切れない』1~5巻〇
お堅い本ばかり読んでいるような印象を持たれるかもしれませんが、興味のある本をほんとに雑多に読んでいるだけです……💦
今年中にこれらを読むという目標を達成できればなぁ、と思います。
※4/29 修正
Lawrence Block "The Burglar Who Met Fredric Brown"を読みました。献辞がロバート・シルヴァーバーグ宛てで、内容を読んで納得しました。端的に言ってしまうと、これはフレドリック・ブラウンの『発狂した宇宙』というSF小説のオマージュです。ミステリなのに! パラレルワールドのニューヨークへ飛んでしまった主人公の職業泥棒・バーニイと相棒のキャサリンは元のニューヨークへ戻ることができるのか……という、SFでは今ではありふれた設定ですが、ミステリでこれをやるとは驚きです。
Steven Powell "Love Me Fierce in Danger"を読んでいます。ジェイムズ・エルロイという、現代ノワール小説(というかアメリカミステリ界)の大御所のような作家の伝記です。ご自身は「私は古典化されている」と述べていますが……。エルロイファンにはたまらない情報や記述が盛りだくさんで、意外な事実の記述を見つけたときは声を上げたくなります。読んだのはまだ半分程度ですが、作品の読解に影響するような記述にも巡り合いました。ここからLA四部作を書き上げる部分に入るので非常に期待しています
鶴見俊輔『ドグラ・マグラの世界/夢野久作』を読みました。よく「わけがわからない小説」の代名詞として言及される『ドグラ・マグラ』ですが、とても緻密に破綻なく構成されていて、感覚やパッションだけで書かれたのではない高度な理性と知性によって構築された理詰めの伽藍のような作品だということがわかります。夢野久作自身の思想や複雑な家庭環境もよくわかる伝記的側面があります。鶴見自身の思想も絡んできて、これは文芸評論であると同時に思想書でもあるのだな、と感じました。これを含読本として、『ドグラ・マグラ』を精読したいです。
高村資本『恋は双子で割り切れない』1~5巻を読みました。今年の夏アニメ原作として放映された本作ですが、私はまだアニメのほうは観ていません。コンテンツの引用やつぎはぎで成立するライトノベル、というオマージュの枠を超えたような構成の本作ですが、私はジェイムズ・エルロイ『ホワイト・ジャズ』をヒロインのひとりが読む、という情報から興味を持ちました。そのヒロインはチャンドラリアン(レイモンド・チャンドラー・フリーク)でもあり、彼女は作中で『プレイバック』のとても有名なフレーズを引用します。作品として面白かったです。
巽昌章『論理の蜘蛛の巣の中で』を読みました。巽昌章さんのミステリ評論を読んでいると、「このように読解できるようになりたい」という気持ちが湧いてきます。「このように書きたい」ではなく。それではただのエピゴーネンですからね。このミステリ批評は、時評という形でありながらも、25年前に書かれたにもかかわらず、今現在呼んでも同時代性を持った批評になっていますし、おそらく10年後・20年後に読んでも同時代的な読みができる普遍性を持ったミステリ評論でしょう。ミステリを理知的に読むことは古びないのだなぁ、と感心しました。
諏訪部浩一『「マルタの鷹」講義』を読みました。僕は『マルタの鷹』を、というかハメット自体をミステリ界においてジミ・ヘンドリックスみたいなことをした作家と認識しているのですが、この評論を読み、自分がいかに『マルタの鷹』を読めていなかったか、そしていかに『マルタの鷹』が芳醇なミステリであり文学であるかを認識しました。文体論によらず、テキスト読解と作品当時の社会背景、そしてハメット自身の人生を重ね合わせて読み解いていく様は、研究者がどのように小説を「読解」しているかを垣間見ることができ、エキサイティングでした。
中辻理夫『淡色の熱情 結城昌治論』を読みました。ミステリファンで結城昌治の名をご存じない方も多くなってしまったという印象を今現在持っています。一方で、結城昌治の作品には多くのミステリ内サブジャンルにおけるたくさんの傑作があり、この評論を読むことで、いかに「ミステリ」という広大なジャンルを結城昌治独自の観点で切り開いていったかが理解できます。読む前から特に興味を引かれていたのは、日本ハードボイルド・ミステリ史における里程標的作品群、真木シリーズをどのように論じているかでしたが、なかなか説得力のある論でした。
嵯峨景子『コバルト文庫で巡る少女小説変遷史』を読みました。「コバルト文庫」を軸に、様々な少女小説レーベルやその「潮流」の変遷を追っていく少女小説の出版史・作家研究の本です。まず自分がハマっていた作家作品が紹介されるとテンションが上がりますが、それと同じくらい、その作家作品が「潮流」の中にどう位置付けられるか、また少女小説史的にどのような意味を持っていたかを知ることができる点に、本書の魅力を感じました。ウェブ小説にも触れていますが、この頃は「悪役令嬢もの」の初期らしく「はめふら」にしか触れられていませんね。
課題作にMartin Edwards "The Life of Crime Detecting The History of Mysteries and Their Creators"とWilliam Marling "The American Roman Noir Hammett, Cain, and Chandler"を追加しました。
山路龍天・松島征・原田郁夫『物語の迷宮 ミステリーの詩学』を読みました。仏文学者が本気でミステリを読むとこうなるのか、という驚きがありますね。今まで読んできた英米文学者のミステリ・文学評論とも分析の仕方や文体(書かれ方)が違っていて、そこも面白かったです。「犯罪の階級性」「探偵の階級性」については、「マンシェットも同じことを言っていたな……」と感じました。というか、フランスのロマン・ノワール作家であり理論家でもあるマンシェットを参考にしたのかとすら思いましたが、これは仏文学者が共有している価値観なのかな?
前田彰一『欧米探偵小説のナラトロジー ジャンルの成立と「語り」の構造』を読みました。ナラトロジー(物語学)には以前から興味があったのですが、ようやくその一部分を知ることができた気がします。私が好きなジャンルのひとつである「探偵小説」(本格ミステリ)を対象にしているのもありがたいですね。本書の印象としては、「おじいちゃん大学教授が自分の趣味について、専攻している学問で分析してみた、趣味と実益を兼ね備えた著作」といった感じでしょうか。「探偵小説」の起源をどこに置くかや、ポーの偉大さを学ぶことができてgood。
まっつーさん、まさに「丘の家のミッキー」です!未来ちゃんに憧れて香道をやりたかったのに、入学した高校には(当然ですが)香道部がなかったため、やむなく茶道部に入りました。全巻、知人にあげてしまったことを今でも悔やんでおります。また読みたい。
まっつーさんの選択本は、私には手にする機会すらなさそうなコアな世界のものばかりでレビューがとても楽しいです。「大菩薩峠」が気になりました。
海野弘『LAハードボイルド 世紀末都市ロサンゼルス』を読みました。ロサンゼルスという都市の都市論を、レイモンド・チャンドラー、ロス・マクドナルド、ジェイムズ・エルロイという三者の作品群から紐解いていきます。ロサンゼルスという都市についての解像度が上がるにつれて、作品の解像度もぐんぐん上がっていく感覚は、小説だけを読んでいては得られないエキサイティングな体験ですね。ただ私には、エルロイについての論は少し読解が浅いのではないか(特に『ホワイト・ジャズ』の読解の仕方には難があるのではないか)、と感じられました。
北上次郎『冒険小説論 近代ヒーロー像一〇〇年の変遷』を読みました。普段の著者の筆致を抑えて、膨大な作品・文献から「冒険小説」を大衆小説史に位置づけようとする論が見事。たまに見せるいつもの北上さんの筆致も好ましい。「読むと紹介された作品を読みたくなってウズウズしてしまう書評」も健在ですね。私はこれで『大菩薩峠』に非常に興味がわきました。そんなに「変な」(と言っていいものか)時代伝奇小説だったなんて! 的確な「読み」と精緻な論に支えられた名著ですね。冒険小説があまり省みられない今だからこそ読まれてほしいです。
キキさんはじめまして。コメントありがとうございます。ド定番ですが、久美沙織さんの作品では『丘の家のミッキー』がとても好きです。偏った積読ですが、ご興味を持っていただけて嬉しいです。ありがとうございます。
初めまして。知らない作家さんがいっぱいで、興味深く拝見しました。うら若き頃、久美沙織さんの世界にどっぷり浸かった私としては「コバルト文庫で巡る…」が気になります。レビューを楽しみにしています!
ご挨拶遅れましたが管理人のいわしです。黙々と課題図書を消化するなり、他の人の課題図書を覗き見るなり、ご自由にお楽しみいただけたら幸いです!よろしくお願いいたします。
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