→凝った捻りは皆無で、すっきりシンプルだ。純粋にハンティング趣味が満足されると同時に、この作品には多くの読者にとって「過酷なビジネス」「ハードな仕事」を連想させるテイストがあると思う。そこが魅力の隠し味なのだ。まあ、警官にとって捜査は仕事そのものだから当然なのだが。もう亡くなっているようだが、このスタイルを堅持してくれていたら、愛読しようかな。
→日本近代の伝統「私小説」をも思う。自分を危機的な状況に追いつめることで、意識が爆発的にパワーをあげてゆく。一種の「苦行」によって「悟り」を開こうとしたブッダの初期の行と同じことか。明治の文学青年が「苦行」好きだったと言えば、笑われるだろうか。そして、苦行する時だけ、彼らはのびのびとくつろいで、人並みのユーモアも性欲もある。↓
木村新之助氏:高校の同僚教師。→ 最後に、警察に確保された私は警官に「石井文行。木村新之助の同僚」とケータイ電話で報告確認される。つまり木村新之助は何か事件を起こし、その関連で「私」も警察に探されていたのか。「妄想の物語」と並行して、現実には木村氏と私は、どのような事件を起こしたのであろうか?また、 読んだときの音に細心の注意を。「おみおんな」も「巨女」の書き間違えのように示されるが、「なおみ」の音が含まれている。奈緒美がしゃべる幼児化した言葉も美しい。なおみの名は、谷崎「痴人の愛」からの反響だろう。
長いトンネルをひとりで歩いている夢。出口のことなど気にならない。
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