また、諸葛亮の隆中対を分析することで、蜀漢の北伐における氐族や西南夷に対する政策も読めて面白かった。氐の歴史は魏蜀の狭間で圧迫を受けた悲哀を感じたが、複数回の徙民が後の前秦や仇池に繋がったような気がして興味深かった。一方、最終章の倭に対しては先行研究も多く、やや徒花的な記述になった気もして冗長に感じるところも。一般書ではあるが、非常に多くの漢文資料から抜粋して叙述するので、初学者にはかなりキツいかもしれない。総じて非常に面白かった。
蜀漢の更に辺境に見える西南夷と士燮政権の支配する嶺南との交易ルートなどは漢民族のみに意識が向いてしまうと漏れてしまう。漢民族は古代において文献資料を残せるだけでなく、技術的にも東アジア世界をリードしていたことは間違いないが、とはいえ他の非漢族社会も広い国際社会の一プレーヤーとして存在していたと改めて気付かされる良書だった。冊封下において朝貢は内属する郡に定期的に行っており、洛陽までは行ってない、なども明示されて気付く面白い視点だった。
徙民を各国が繰り返したことで、労働力の奪い合いという側面だけでなく、華北全土における混住が進み、より胡漢の融合が図られたというのはなるほどだった。五胡十六国時代にはよく数万人単位の徙民が行われているが、総人口に対する比率で考えると相当なもので、流民や避難民を含めると、漢人・異民族双方にとっての大移動の時代だったということだろう。後漢期からの異民族統御官の設置や名称からも、異民族が異民族でなくなっていく姿見えてきて面白かった。
しかし鮮卑慕容部も前燕期から後燕・南燕まで含めると、五胡十六国期の大半をメインプレーヤーとして参加しているし、慕容恪や慕容垂といった魅力的な英雄もいて、何か一般向け学術書などが出てもよいと思う。西燕のグッダグダぶりは酷いものの、それはそれでまとめて読みたいという感じはする。去年は講談社メチエで鮮卑拓跋氏の歴史が出たし、鮮卑慕容部の歴史もどうでしょうか……
積ん読は人生の選択肢を増やすと信じてる。小説は少なめ、人文系多めです。今までに読んだ本の登録は諦め、2020年に読んだ本からスタートします。漫画も大好きでよく読み、よく買いますが、登録が追いつかないため、登録しません。
この機能をご利用になるには会員登録(無料)のうえ、ログインする必要があります。
会員登録すると読んだ本の管理や、感想・レビューの投稿などが行なえます