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2024年10月の読書メーターまとめ

佐倉
読んだ本
23
読んだページ
7235ページ
感想・レビュー
23
ナイス
437ナイス

2024年10月に読んだ本
23

2024年10月のお気に入り登録
6

  • カノコ
  • しろやぎ
  • NORI
  • さとみん
  • nobidora
  • T

2024年10月のお気に入られ登録
5

  • カノコ
  • さとみん
  • NORI
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  • nobidora

2024年10月にナイスが最も多かった感想・レビュー

佐倉
『七つのカップ』は角川ホラーのアンソロで既読。学生時代のこと、作家としてのこと、子どもや家族のこと…とエッセイのように自然に語り始め、怪異として落とす作風が魅力的。辻褄の合わないファンレターの噂が語るたびに実態を持ち出していく『手紙の主』のような実話怪談風のエピソードから、虫を潰すという何気なくやってしまう行為から不快感が滲み出てくる『殺したもの』、育児エッセイのような文章から始まる『やみあかご』『だまだまマーク』と様々な掌編・短編が楽しめる。一番印象に残ったのは突然日常が牙を剥いてくる『ナマハゲと私』。
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2024年10月にナイスが最も多かったつぶやき

佐倉

2024年9月の読書メーター 読んだ本の数:24冊 読んだページ数:7781ページ ナイス数:481ナイス ★先月に読んだ本一覧はこちら→ https://bookmeter.com/users/1299022/summary/monthly/2024/9

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2024年10月の感想・レビュー一覧
23

佐倉
カトリックが信仰されていた旧教国では40日の四旬節や水曜日と金曜日、聖人の記念日など多くの断食日があり一年の内半分は断食日だったという。断食日中、肉は食べると熱と欲を出してしまうのでNGだが、魚は水に住んでいる粘液属性のもので穏やかな気持ちになれるため断食中も食べてもOKという四体液説に則った考え方が中世欧州にはあった。一年の半分程は魚を食べていた中世欧州民の需要を満たすため漁業が振興していくが、この時代は漁業と海軍力は密接に関わっていた。魚を中心に戦争や経済、植民地主義など多くの関係性を読み解く一冊。
佐倉
2024/10/30 11:56

ヒポクラテスからガレノスへの四体液説は聞いたことがあったが、断食とも関係していたというのは知らなかった。「今日は断食日だからワインと牡蠣で我慢しとこ…」みたいな司祭を批判する当時の記事はちょっと面白い。テンペストについて一章設けられているが、プロスペローたちの物語をタラ漁とサック酒に沿って解釈するのも興味深い。この時代のヨーロッパには全然詳しくなかったがカナダのニューファンドランド島を舞台にフランスと領土を奪い合った商人デイヴィッド・カークの物語にも興味が出てきた。

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佐倉
大地を釣り上げる神話と天逆鉾、釣針神話、オオゲツヒメとハイヌウェレの物語など日本神話と南洋諸島の神話を比較する前半、ギリシャ神話→ナルト叙事詩などイラン系遊牧民神話→檀君神話→日本神話という伝播を三種の神器やデュメジルの三機能説に則って解説する後半とが収録。古い本ではあるが南方系と北方系神話の日本への伝播は近年の遺伝子研究の成果を受けた世界神話学説でも引き継がれている部分。南洋からのハイヌウェレ型(芋と焼畑文化)の伝播説に関して慎重な筆致だがイネ以外の初期農耕が縄文まで遡れる現代ではむしろ説得力のある説。
佐倉
2024/10/27 01:52

ハイヌウェレ神話が日本に入ってくるにおいてタロ芋→里芋となるのは説得的。現在では縄文時代には主食だった説が有力らしいのでなおさらである。

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佐倉
くねくね、コトリバコ、きさらき駅といったネット発の怪談たちの発生からネット民による共同構築、定番化していった現在までの流れを民俗学的な手法で見ていく。度々引用されるアメリカ民俗学のオステンション概念が興味深い。伝説や歴史の現場へ赴く…肝試しや現地凸などの実践を表す語だが、設定や過去が遡及的に付与されていく逆行オステンションという概念もある。フォトショで作られた画像が様々なキャプションによって展開していったニンゲンやスレンダーマン、バラバラな怪談を繋げて異界駅やヒサルキを構築した流れを表せる概念だろう。
佐倉
2024/10/26 14:54

くねくねやコトリバコもリアルタイムでは「この話に似たこういう伝説がある」「こういう妖怪がいる」「こういう呪術がある」といった民俗学的な知識が人々から提供される流れがあったそうだが、一部にはまったく出典が確認できないものがほとんどだったという。これも断片的な怪談に民俗学的だったり歴史的(に見える)な情報を付与して物語を展開していく逆行オステンションの一例と言える。鮫島事件など皆で物語を構築していく“ネタ”文化が日本ネット怪談には見られる。

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佐倉
犬神筋という“因習”は現代においてどのように認識されているのか。2011年の高知県幡多地方のフィールドワークで得られた傾向…高齢者は緊張感を持って語り(あるいは語りたがらず)若い世代では知識がまったく無いという現状がどのように導かれたのかを戦前戦後の民俗学/文化人類学者たちによる意識的に反差別を織り込んだ研究や部落解放同盟の活動、生活改善運動、人々の結婚観の変化など内外の「強制力」の結果として読み解いていく。民俗学や人類学が公共性を志して行った研究の結果はどのように現れたのか。
佐倉
2024/10/24 20:25

本書の問題意識…社会から否定され説明論理としての意味も失われた犬神筋は遠からず消滅するだろうが、その時にはまた別の差別が生まれることになる。その時のためにかつてあった差別のメカニズムを研究することには意味がある…は共感できるところ。特に憑き物筋はホラー作品やミステリで(いわゆる因習村ものジャンルなどで)遠い世界の他人事として割りかし無批判に使われている傾向がある。そうしたものを楽しむにしろ、因習は生活の中に現れうる…という視点を持つ想像力は持ちたい。そのために民俗学や文化人類学の考え方は有用だと感じる。

佐倉
2024/10/24 20:40

澤村伊智が『ジャパン・ホラーの現在地』で言及していた昭和30年代に因習村取り上げられがち問題について文化人類学/民俗学的知見からの詳しい話も読める。高知において戦前は「近代国家たるもの因習断つべし」という風潮によってある程度下火になっていた犬神筋言説が戦後の混乱期にまた活性化しているという。本書で取り上げているのは自由恋愛の風潮。家同士の仲裁が入らない自由恋愛からいざ結婚となった時に調べてみると犬神筋で…というトラブルがあったそう。一方で家や土地に縛られない自由結婚が犬神筋を弱体化させた側面もあるという。

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佐倉
泰山府君、牛頭天王、盤牛王、黄帝黄龍といった明治以前に信仰されていた神々について『簠簋内伝』などのテキストを元に読み解く。泰山府君が安倍家など宮廷陰陽師によって運用されていた神でありそうした陰陽道では漢籍が重視されていた。一方の『簠簋』に現れる神々は陰陽道系の民間信仰で用いられ、典拠は『簠簋』内の神々の物語だった。盤牛王は梵天であり堅牢地神であり毘盧遮那、牛頭天王は天刑星にして毘盧遮那にして素戔嗚…と様々な本地を記しており、日本の信仰が神道や仏教、陰陽道と簡単に分けられるものでは無かったことが見えてくる。
佐倉
2024/10/22 00:52

地神経関連に興味があるのだが、『簠簋内伝』やいざなぎ流のテキストとの関係性が少なからず見えてくるのも興味深い。盤牛王が堅牢地神の垂迹のひとつであり、彼の末子である五郎王子=黄帝黄龍が様々な名前を取ること、五郎王子と他の王子たちの諍いの原因が五郎王子が娘だったことに起因するテキストが慶長十七年版に存在するなどと言った話はどう受け止めればいいのか分からないのだが、これも一筋縄ではいかない複雑さを湛えているというのは間違いない。

佐倉
2024/10/22 00:58

盤牛王=盤古王がインドの原人プルシャのイメージを強く受け継いでいるのは間違いない。プルシャの耳からは方角が生まれ、盤牛王の王子たちが四季と東西南北の支配者となったことは対応があると言えるだろう。盤牛王は梵天(フラフマー)が本地というテキストもあるようでインドの神々が日本まで影響を及ぼしている。祭式や祭文、都状によって神々を縛る陰陽師はバラモンの在り方と近いというのも興味がそそられる。

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佐倉
やっぱり文体が最高に好きなシリーズ。立石に水のひねた物言いに耽溺し、猿渡と伯爵が首を突っ込んだ先でビールや食事に舌鼓を打ち、最後はどこかもの淋しい余韻が残る…そんな怪を志す二巻目。蘆屋家の方を集英社文庫版で読んだので『超鼠記』は既読。脳に障害を負った人形職人の物語『ピカルディの薔薇』、ヤドカリと榕樹の蔓延るリゾート地、主鵺島を舞台にした『籠中花』、ザリガニの蠱毒が印象に残る『フルーツ白玉』とどれも面白いが小道具屋の南國洞の店主が語る女房を質に入れて手に入れもの『甘い風』の余韻とひねた終わり方が一番好き。
佐倉
2024/10/19 23:33

『ピカルディの薔薇』は『虚無への供物』のオマージュ集に掲載した作品が初出とのこと。確かに五色の薔薇、洞爺丸の沈没の話が出てきて妙に『虚無』要素があるな……と思ったらそういうことか。よく見たら奈々緋紗緒の名前も出てるし。奈々村編集の縁者設定だったらしい。奈々村編集が出てくる『奈々村女史の犯罪』はちくま文庫版の『蘆屋家』の方に収録されているみたいなので読むならそちらを集めるしかないか。

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佐倉
『七つのカップ』は角川ホラーのアンソロで既読。学生時代のこと、作家としてのこと、子どもや家族のこと…とエッセイのように自然に語り始め、怪異として落とす作風が魅力的。辻褄の合わないファンレターの噂が語るたびに実態を持ち出していく『手紙の主』のような実話怪談風のエピソードから、虫を潰すという何気なくやってしまう行為から不快感が滲み出てくる『殺したもの』、育児エッセイのような文章から始まる『やみあかご』『だまだまマーク』と様々な掌編・短編が楽しめる。一番印象に残ったのは突然日常が牙を剥いてくる『ナマハゲと私』。
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佐倉
処女懐胎の奇蹟を調査するため、そしてバチカン内に渦巻く陰謀を暴くためセントロザリオ学院に潜入する平賀とロベルトのコンビだったが、到着したその日に神父が殺害される。増えていく被害者たちを調べるうちナチス残党の影が見えはじめ……後半からは悪魔の聖書にロンギヌスの槍にルーンにナチスUFOにとキリストとナチス関連のオカルト要素満載。序盤に言及していたP2は教皇を暗殺したロッジP2がモチーフだろうか?そうしたものたちに平賀は信徒でありつつも科学により淡々と検証し奇蹟もオカルトも解体していく姿が好感が持てた。
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佐倉
ネタバレ新名智がミステリを書くというのなら一筋縄では行かないとは思ったが、こうきたか。これまでも「人間にとって呪いとは?」「ゲームとは?」「物語とは?」とジャンルものと読者の関係性を描いてきたが、今作でもミステリを本当の人生には存在しない「明白な因果の帰結」を求めるものと見なしたり、密室というある意味紋切型のシチュエーションの意義を突き詰めたようなシーンがあり印象に残る。これまでの新名作品の傾向から真子が出てきた段階で作品の構造は見えたが…さらにもう一段あるとは。読み返してもきちんと成立してるしヒントも出てるし。
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佐倉
バラモン教、ヴェーダの宗教に興味があるのでⅠ.ヴェーダの部分目当てに読み始め。4種のヴェーダの違い、神々の属性や扱いの変遷など基礎的な知識のおさらいが出来た。弁才天が伝説上の川の名前から神格化されたもの、暴風雨を神格化したルドラ→シヴァの変化、閻魔の原型である最初の死者ヤマとヤミの双子神とその浄土、リグヴェーダ時代にはデーヴァとアスラは御魂と荒御魂のようにどちらも畏怖すべきものだったのが後世に善と悪に分かれる、インドとイランでは善悪が逆転している話など神話関連の話は実に面白い。後半のⅡ.ウパニシャッドは
佐倉
2024/10/17 12:49

やはり難しい部分もあったものの、輪廻説の部分などではアグニによって死後の人々が月に行く流れ、二道による輪廻という五火二道説について書いてあるところもありこちらは興味が惹きつけられた。五火二道は古ウパニシャッド時代に確認できる(プリハット・アーラニヤカ)というので、前800年当たりで輪廻説が固まった、ということらしい。リグ・ヴェーダの時代はソーマやアムリタによって不死を求めていたということは輪廻説はインドに最初からあったもの、というわけでもないのか。このあたりはもっと掘り下げたい。

佐倉
2024/10/17 13:03

原人プルシャはティアマトやユミル、盤古と同じ死体化生神話。身体から神やカーストが生まれたというあたりイザナギとの関係性も感じられる。しかしリグ・ヴェーダにおいてプルシャは祭式の犠牲獣として取り扱われているという。祭式重視のヴェーダの宗教らしい特質。神を犠牲にする、という観点はハイヌウェレ型にも近いような。あとはバラモン教とヒンドゥー教の違いと言うか関係性に触れているのも知りたかったところなので良かった。バラモンはヒンドゥー教の古層、そしてヒンドゥー教はインドの宗教をヨーロッパが表すために作った言葉。

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佐倉
私事だが自分のホラー番組体験の原点と思っている『日本のこわい夜』が白石作品だったのが明らかになってゾクゾク。『放送禁止』から『ニッポンおもひで探訪』まで、テレビ放送におけるフェイクドキュメンタリーの歴史を探っていく。近年のブームと言っていいホラージャンルはもちろんのこと、長江が禁止以前に手がけたドキュメンタリーや容疑者香取慎吾、オードリーやサンドを起用した『せんぶウソ』、山田孝之が北区赤羽で暮らしたりカンヌを撮ろうとする作品、タローマンなど非主流ながらフェイクの肥沃な土壌を開拓してきた歴史が見えてくる。
佐倉
2024/10/16 16:37

近年の作品『シックスハック』と『ニッポンおもひで探訪』は絶対に見なければ。気になっているのだが積み状態。近年の作品だがまったく知らなかった『viewers:1』『city live』は是非見てみたい。街が交尾するってなんだよ…全然想像が付かん。巻末の年表や「この番組はフィクションであり〜」の注釈テロップに注目したコラムなど愛と熱意に溢れた一冊でもあった。

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佐倉
精神科医のオルガが出会ったアルタイのヒーラー・ウマイの導きにより様々なビジョンを見ていく。実在の人物が実際に経験した物語……という触れ込みだがウマイによって語られる自我の在り方や、ところどのろに現れるアセンション思想、老師と指導と修行によって真実に辿り着くカスタネダっぽい物語の流れなど、ソ連崩壊後にロシアに遅れてきたヒッピーブームの産物のような一冊だった。あらゆる信仰を否定したソ連時代の名残で精神治療にシャーマニズムの知見を取り入れて白眼視される描写など97年のロシアらしい妙なリアリティのある部分もあり。
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佐倉
年上で金持ちの彼氏の家に入り浸りながらホラーゲームを進めていく女子高生のふうか。現代の東京を舞台に自分の記憶を取り戻そうとする幽霊のゲームと、生きていてお金にも苦労せずなんの問題もない筈なのに身体も自意識もコントロールできないふうかの在り方がリンクしたり離れたりしながら東京を彷徨っていく一作。作中作のゲームもふうかの在り方も「だから何」でしかない。しかしそれを言語化し読者と作者で対話していくような作業は淡々としているが故に落ち着いて読める。そもそも純文学は「だから何」を作者と読者で共有する行為だろうし。
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佐倉
地方の名家である福森家で起きた凄惨な事件、その現場の記録と撮影を任された亮太。オカルト系YouTuberでもある亮太は屋敷の撮影で一発逆転を計る。しかし同行した霊能者加茂は建築から庭の様子、福森家が蒐集してきた書画骨董の尽くが呪われていると指摘し始め……呪物に呪われた建築に呪われた映画と近年のホラーで受けた要素盛り合わせセット的な豪華さと楽しさを感じさせる一作。アレもコレもソレも…と次々出てくる呪物とその来歴の解説パートは一周回って笑えてくる…と思わせてさらに一周回って怖くなってくる。
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佐倉
民間の宇宙開発への参入を誘致することを目的としたアルテミス5計画、そのクルーたちに奇妙なミッションが下される。それは静かな海に着陸しアームストロングの足跡に沿って歩くというもの。疑問に思う彼らに管制が告げたのは「1969年、アポロ11号とアームストロングは月に降りなかった」という事実だった。命令に従うべきかで意見が割れる中、ロシアが事実を暴露した上、陰謀による人工衛星の衝突で地球への帰還が不可能に。情報をリークしたのは誰か?彼らは地球に帰れるのか?というサスペンスSF。舞台立てと設定が面白かった。
佐倉
2024/10/09 21:49

「コウタの一人称で進んでるのに時折コウタの名前が三人称で出てくる…これはもう一人のクルーがいる信頼できない語り手パターン!」と勝手に疑っていたがそんなことはなかった!

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佐倉
章也が生まれる前、両親と姉が住んでいた家にある目的で赴く『やさしい風の道』から始まる連作短編集。『やさしい風の道』は別のアンソロジーで既読。ミスリードとビターな読後感で印象に残っていたが、続く作品でここを起点に登場人物たちの「もしも」と哀しみが描かれていく。ある作品で亡くなっていた人物が次の作品では生きており、逆に生きていた人物が次の作品では亡くなっていて、ある作品で登場人物に深い悲しみをもたらした出来事が後の作品で冗談めかして語られる。パラレルワールドやマルチバースもの好きには堪らない短編集だった。
佐倉
2024/10/08 19:19

『消えない花の声』と『たゆたう海の月』のブリッジが印象的で好き。『消えない花の声』の終わりと『たゆたう海の月』の始まりが同じ場所、同じシチュエーションで繋がっているのにまったく別の条件で話が始まっているのがワクワクさせられる。

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佐倉
1615年のフランス人ニノーが著した狼憑き(狼へ変身した妖術師)を否定する論文の復刻と、ニノーや狼憑きについて解説した複数の論文を収録。狼への変身を否定するために薬草学の知識や幻覚を持ち出したかと思えば神の無謬性に論点が移るなどヨーロッパらしい迂回した議論がなされる。解説の『狼男とその目撃者』『狼に関する物語』が興味深かった。人狼は魔女と同一視されることもあり、治療師や石工、乞食など周縁に追いやられた存在が告発される。また狼を嗾けたり追い払ったりする狼調伏術師のような一種の呪術師の存在もいたという。
佐倉
2024/10/08 00:25

人狼のレイヤーにも二種類あり、呪いや共同体の呪いを肩代わりするなど止むを得ず周縁に追いやられる一種の人柱的な人狼、悪魔と契約することで意図的に人狼となった邪悪な存在があり、それによって裁判の結果も異なってくる。また裁判の記録からは裁判官や人々の期待する人狼像にそって自白がなされているのではという指摘も面白い。「子供を殺して生き血を啜る」「狼が人間の皮を被って忍び込んでいる」などの観念はレプティリアンやDSなど近年のアメリカ陰謀論との共通点が見られる気がする。

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佐倉
言霊…というタイトルだが文字通りの言霊に左右される女の子の物語。レッスン場では無敵なのに本番に弱いバレエダンサー志望の澄。そんな彼女にも本番に弱いという呪いを解く方法があった。それは誰かが失敗すること。しかし憧れの男性・聖也とのチャットの中で「誰かの失敗を脳内で願うことは自分自身にネガティブな言葉を浴びせている」ということに気が付き……心理学も現代の妖術や呪いのひとつ。それで呪いを解けるのなら、という爽やかな一作だった。快談の方はカール・セーダンの番組に映ったUFOの話が気になる。
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佐倉
天才なのにバレエ以外において内にこもるルオウ、学校でイジメられる彼とのコミュニケーションを経て、頭を丸めてバレエの方へ舵を切る潤平。踊るシーンが増えたことで潤平の解放された雰囲気も増えていく。
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佐倉
「男らしくない」「死んだ父もきっと望んでない」。とてつもなくバレエに惹かれているのにそんな理由から始めもしなかった潤平は、中学生にして思春期と衝動の赴くままバレエ教室に通い始める。自分のやりたいこと、本当に望むことを「らしさ」で押し潰そうとしつつも、それでも収まりきらない衝動の緊張感が切なくて熱い。バレエ全然知らないが動きの躍動感も凄まじかった。
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佐倉
”これは世界がどのように終わったかについての、口述記録である““私たちが知っていた世界は、たった二ヶ月で終わった”。インターネットやインフラ、国家体制、人口…世界に致命的な影響を与えた「上昇」「終局」なる出来事が起きたことが示唆されるが、ディテールばかりが積み重なって具体的な描写が中々出てこない。それというのもこの本の本来の読者…2028年を生きる人々にとっては明白なことだからだ。文体といい構成といい、世界が終わった後のドキュメンタリーという雰囲気が最後の最後まで貫かれていてとてもワクワクして読んだ。
佐倉
2024/10/04 22:35

この作品を魅力的にしているのは数々の注釈。特に最序盤、ダリア・ミッチェルの日記の中で言及される人々が尽く「…後に上昇によって死亡した」と付記されるのがただならぬ雰囲気感じさせてくる。

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佐倉
目の前にある美味しそうなクッキーは「それ地面に落ちてたよ」と言われるだけで食べたくなくなるーーー今ここにあるものに、ここに無い情報を投影してしまう人間の認識を研究するプロジェクションサイエンスについて人間関係にジェンダー観、オレオレ詐欺や霊感商法、プロパガンダに陰謀論など身近な(そしてややネガティブな)例を取り上げて紹介していく一冊。感染呪術は介する人が多くなれば影響が少なくなっていく、事故物件は居住者の数よりも時間が忌避感を薄めるなどオカルトを検証した実験などの興味を引く話題も結構あった。
佐倉
2024/10/02 19:48

孤独を感じる人間は人間以外の存在…モノや動物など…を擬人化しやすいという社会神経学者ジョン・カシオポの実験が紹介されていたが凄く興味を惹かれる。人間関係を絶って過酷な修行を行う宗教者が神を見る、盲人など社会的な周縁に置かれた存在が民間信仰を担う、あるいは天理教の中山みきのようにモラハラ夫と姑によって孤独に追いやられた人間が神を降ろすという例と何か関係が見出せるような気がする。

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佐倉
夢の中に入り込む精神病治療法を確立した時田と千葉。ふたりを妬んだ研究者の乾と小山内は時田が開発したDCミニを盗み出し分裂症を感染させたり研究が公表される前に千葉が行っていたパプリカとしての活動を掘り起こし二人を貶めようとするが…研究所内の権力争いが描かれる前半から一転、後半からはDCミニの暴走によって人々の夢と欲望と感情が混ざり合っていく。視点と場面が入れ替わる文章の酩酊感が堪らない一作だった。今となってはマスコミ、女性、オタクの描写、心理学的にも古臭いところはあるがそれを押しても読ませるのが筒井康隆か。
佐倉
2024/10/01 19:01

映画の方は見てないのだが、平沢進の『パレード』や「オセアニアじゃ常識なんだよ!」のシーンはなんとなく知ってるくらい。夢の支離滅裂さを鮮やかに描くにあたって小説では視点を、アニメでは言葉の密度で表現している感じか。映画もいずれみたい。

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ユーザーデータ

読書データ

プロフィール

登録日
2021/12/10(1079日経過)
記録初日
2021/11/27(1092日経過)
読んだ本
756冊(1日平均0.69冊)
読んだページ
246165ページ(1日平均225ページ)
感想・レビュー
726件(投稿率96.0%)
本棚
22棚
年齢
29歳
外部サイト
自己紹介

人文・民俗学・ホラー小説などを中心に読んでますが時々全然違うところに飛んだりもします。早い話が乱読屋さんです。

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