この巻では、やはり「納屋を焼く」が圧倒的によく出来ている。主人公カーネル・サートリス・スノープス、通称サーティは、スノープス一族でほぼ唯一と言っていい共感を覚える人物。後のスノープス三部作で彼がいなかったことになったのも頷ける。フレンチマンズベンドに暮らす貧乏白人グリーア家の三つの物語は、第二次世界中に国威高揚のために書かれたそうだが、最初のが1000ドルで売れて、二匹目のドジョウを狙った2作目が全然売れず結局25ドルでやっと売れたエピソードが解説に書かれているが、面白い。
そして値段通りの出来なのが、さらに面白い。実は3作目の「主の柿板」が一番の佳作。巻末の解説で、短篇毎の掲載に至るやり取りや買い取られた値段などが記載されていて、1940年代半ばまでのフォークナーの経済的困窮の為短篇を乱作しなければならない背景が読み取れて感慨深い。
キャディーがベンジーにかける優しい言葉や暖炉の火、チョウセンアサガオや片割れの靴、ラスターとのやり取りなどベンジーにとってほっとする出来事もその合間合間から聴こえてくる。これ、今回読みながら同じアメリカの作曲家チャールズ・アイヴズの交響曲第4番を連想した。アイヴズの4番は、強烈な不協和音、対位法と呼ぶには騒音と言っていい旋律と旋律のぶつかり合いの中から、聖歌や民謡のメロディーが聴こえてくるのだけど、この小説と同質の形式美を感じる。
主題の断片の提示、その継承と展開、雰囲気の変わる3番目の楽章、そしてそれまでの主題や動機を統合し高みに昇る最終章。「響きと怒り」の4つの章にそのままあてはまらないだろうか。そう言った連想が出来るくらい日本語として見通しのいい訳になっていると思う。
Amazonで検索しても日本語の本は一冊もヒットしない。平凡社のこの集成では、デーメルの詩が70篇ほど収められている。多分日本語で読める数少ない本かもしれない。なおこの集成には、シェーンベルクの曲の元になった詩、“Verklärte Nacht“は、掲載されてはいないけど、あの詩も明らかに冬の月夜ではなかったか。
これは、月でも木星でもなく、金星を歌った詩だけれど、Lieber Abendstern, /lieber Morgenstern,/ hilf uns Tag für Tag / eins sein, bis die letzte Nacht uns eint 円子修平氏の訳で載っているが、あの時代らしくちょっと恥ずかしいかも。
後期作品群の重要人物郡検事兼私設弁護士ギャヴィン・スティーブンスが弁護に奔走する被告人は、短編の傑作「あの夕陽」で不在の夫の影に終始怯えていたナンシー。散文の大袈裟な語り口と台詞劇の厳粛な調子が対比される、読む戯曲。台詞の部分に現れる「明日、そして明日、また明日」という言葉に殊の外重い響きを感じる。これは、シェークスピアの「マクベス」第三幕の台詞で、フォークナーの長編「標識塔」の第四章・第五章の標題「明日」、「そして明日」の出典と同じ。
kero385さま、はじめまして✨️こちらこそいつもいいねや素敵なレビューありがとうございます。コメントへの返信機能がないみたいなのでこちらにお邪魔しますね。こんなふうに言っていただけて本好きとして感無量です!「国家の反逆者」も「間借り人たちのクリスマス」も忘れがたいですね。仰るようにイデオロギー色がないからこそ、戦争に巻き込まれる市民のしみいるような悲しさが伝わります。 じつはわたしも先日のシュトルムのレビューを拝見して久しぶりに「みずうみ」が読みたくなって買いなおしたところでした。わたしは →
混雑に負けてモネ展を諦めたので、なおさら神秘的な連想にうっとりしてしまって。ほかにも「9時半の玉突き」やフォークナーもkeroさまの真摯な思索や読みこみに惹かれて 実家から持ってきたりしてるんですが、立て続けにコメントするのも…と思ってずっとひっそりいいねするだけでした😖第2外国語のドイツ語は分離動詞で早々に挫折してしまった身としては、原文への言及もすごくおもしろくて参考になります! 長くなっちゃってお恥ずかしいですが、これからもkeroさまを通していろんな本に出会えるのを楽しみにしています。
この「みずうみ」の睡蓮のエピソードは、追憶や憧れと言う美しい言葉の後ろにある人間の生の残酷さも同時に描いていて、初めて文学に心奪われた頃から常に私の心の中から離れない情景となっている。この対訳本は、「湖畔」と訳されているが、原題はImmenseeで、インメン湖と言う意味。立原道造の詩「はじめてのものに」で「エリーザベトの物語」として詩に織り込まれ、トーマス・マンの「トニオ・クレーゲル」では物語の中盤に故郷の図書館で手に取る本はこの小説。一流の文学者達にとっても感慨深い作品となっているよう。
なお、この郁文堂の対訳本は、Immensee の全文であり、訳文は極力直訳に近く、原文と参照しやすいように作られている。2025年最初の読書がモネによって思い出されたシュトルムのImmenseeになるとは、感慨深い。
Willst du immer weiter schweifen? / Sieh,das Gute liegt so nah. / Lerne nur das Glück ergreifen, / Denn das Glück ist immer da.
君は相変わらず遠くまであてもなく彷徨うつもりか / 見たまえ、良きものはこんな近くにあるではないか / ただ学びたまえ、幸福を掴むことだけを /幸福は常にそこにあるのだから Goethe“Erinnerung“ 2025年自分自身への「いましめ」として。
2024年10月に参加したばかりですが、よろしくお願い申し上げます。
ここしばらくは、学生時代好きだったフォークナーを読み直しています。
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kero385さま、はじめまして✨️こちらこそいつもいいねや素敵なレビューありがとうございます。コメントへの返信機能がないみたいなのでこちらにお邪魔しますね。こんなふうに言っていただけて本好きとして感無量です!「国家の反逆者」も「間借り人たちのクリスマス」も忘れがたいですね。仰るようにイデオロギー色がないからこそ、戦争に巻き込まれる市民のしみいるような悲しさが伝わります。 じつはわたしも先日のシュトルムのレビューを拝見して久しぶりに「みずうみ」が読みたくなって買いなおしたところでした。わたしは →
混雑に負けてモネ展を諦めたので、なおさら神秘的な連想にうっとりしてしまって。ほかにも「9時半の玉突き」やフォークナーもkeroさまの真摯な思索や読みこみに惹かれて 実家から持ってきたりしてるんですが、立て続けにコメントするのも…と思ってずっとひっそりいいねするだけでした😖第2外国語のドイツ語は分離動詞で早々に挫折してしまった身としては、原文への言及もすごくおもしろくて参考になります! 長くなっちゃってお恥ずかしいですが、これからもkeroさまを通していろんな本に出会えるのを楽しみにしています。