形式:単行本(ソフトカバー)
出版社:本の雑誌社
同業者でも、日→対象言語の作文・会話が苦手な人もいるが、はっきり言ってそのレベルの人でも日本語が上手ならば翻訳家になれるのか? 翻訳は原語で受け取った・理解したイメージ・情景を読者が再現できるよう対象言語(大体は母語だと思うが)へリプロダクトしていく過程だが、両方の言語が達者でないと信頼されないのではないか。少なくとも私は読者としてそう思う。
日本語では普段二人称は家族でも使わないが、英語を話す時なら誰でもすんなりYOUが出るのは指示代名詞のように感じるからだと思う。相手にたいして「あなた」なのか「キミ」なのか「あんた」なのか悩むことがないからだ。逆に言えば翻訳者がどう読み取って訳すかによって作品の印象は大きく変わる。アントワネットが「わたくし」と言うか「わらわ」と言うか「あたい」と言うかで人物像は大きく変わる。名作になるか駄作になるかは翻訳者次第なのだ。翻訳の読み比べは翻訳者の感性、知性のほかに時代性も浮かび上がり面白い。
本来の言語通りに、というのもわかるが余りにもうまくいかないなら意訳もありだとおもう。accidental tourも私はこの内容なら「嫌々ツアー」ぐらいでいいんじゃないかなと思った。日本語で書かれた上司の文章すら理解不能な時もある。翻訳者は大変だ。
(承前)一番印象的だったのは、スパイ小説の大家ジョン・ル・カレの『パナマの仕立屋』の翻訳を担当した際、ル・カレへの質問と共に、個人的なメッセージを拙い英文で送ったら(翻訳家だから、英文を書くのも得意というわけではないそうだ)、その稚拙な英文が気難しいル・カレの逆鱗に触れたらしく、訳者降板の危機にさらされた話。やはり人の失敗談は面白いよね(オイオイ)。怒りを買った作家もいる一方で、著書の翻訳を通して、友好的な関係を結べた英米の作家もおり、他の著者の本の翻訳で分からないことがあったら、(続)
(承前)その作家に相談しているというエピソードは微笑ましかった。筆者が翻訳した本が、その後、映画化され、その映像を観て初めて、誤訳に気づいたという話も面白かった。筆者も翻訳を手掛けた『郵便配達は二度ベルを鳴らす』には、現時点で、8種類の邦訳が存在しており、同じ英文をそれぞれがどう翻訳したかを比較した趣向にも、興をそそられた。筆者は自分が手掛けた訳書についての失敗談や誤訳を包み隠さず、明かしており、翻訳家という仕事の苦労の一端を垣間見られて、非常に興味深かった一冊。(終)
https://chirakattahondana.com/日々翻訳ざんげ/
浅西マサさんのレビューで三川さんがスヌーピーを翻訳されていたことを知り、読んでみました。ありがとうございました。
油すましさん、お役にたてて何より、そして丁寧なお礼ありがとうございます。これもスヌーピーが結んでくれた縁ですかね😁
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